自分を取り戻すための日記　53

2022.11.11　自分を取り戻すための試行錯誤12「比べない」

物心ついたときには他人と比べられる人生だった。
ずっとずっと、近所の子や同級生や同僚や同世代の女性や世間というものと比べられ、「お前はダメだ」「お前は劣っている」「お前には出来ない」「お前は家の恥だ」と言われ続けてきた。
自分の意志を持つよりも先に、他人と比べて私はダメな人間なんだという認識を脳に刻んでしまった。
 
頑張って頑張って何かをやっても、バカにされ罵倒され足蹴りにされた。
命令に従わないと、恐ろしい罰を与えられるか永遠に無視された。
私は報復が怖くて、痛みに耐えられなくて、笑われることが恥ずかしくて、
「何もしない、何も考えない」ことが一番いいことだと幼心に学んでしまった。
 
だからずっと劣等感の塊だった。
他人と比べて、あれが出来ないこれも出来ない。
他人が簡単に出来ることを私は出来ない。
やっても必ず途中で失敗する。
そう思い込んでいた。

失敗して怒られることやバカにされることが怖かった。
他人からがっかりされ、これ以上嫌われることが怖かった。
 
だから過剰なくらい臆病な完璧主義の優等生になってしまった。
感情や感覚を封鎖して、親や大人の言うとおりに生きてきた。
自分では何も考えず何も選ばす、誰よりも忠実に、声が大きくて支配的で暴力的な人の命令に従った。
私には人権や自分らしく生きる権利なんてなかったし、そいうこともまったく知らなかったから、ただ加害者のうっぷん晴らしの対象になり続けた。
「生かしてもらえるだけ有難く思え」
親の言葉を頭の中で反芻し何度も自分にそう言い聞かせた。
 
でも私は壊れた。
まず体が壊れた。次に心が壊れた。
壊れてやっと自分が間違っていたことに気づいた。

必死で生きて来たけど、生き延びるためには何でもしてきたけど、それは生きるために仕方がないことだと思って来たけど、それは私の甘えであり怠慢だった。
どんなに酷い目にあっても痛い思いをしても、私は親から逃げるべきだった。
怒って反抗して親を叩きのめすべきだった。
頑張ったら我慢したらいい子でいたら、親の言うとおりに生きたら「いつか親から愛してもらえる」という願いは間違っていた。
どんなことをしても親は私を愛さない。
私を自分勝手に利用して支配するだけだ。
「愛という名の支配」
もっと早くそれに気づいて、私は親を見限るべきだった。
 
だから、私はすべてを捨てた。
親が喜びそうなもの、親を満足させるために私が身に付けたもの、親から押し付けられたもの、親から期待されたものを、すべて捨てた。
生まれ育った故郷や結婚や子どもを産むことや組織に所属することや給料や安定や固い仕事や約束された将来、すべてを捨てた。
親が利用しそうなものやしがみつきそうなものをすべて捨て去った。
そして、半世紀以上の長い年月をかけて、親そのものさえ捨ててしまった。
 
私の中にはいつも他人が存在する。
他人の目を気にし、他人と比べ、他人を羨むことはいまも変わらない。
親が植え付けた私の中に生きる他人は、いまも深く根を張っている。
その根深い根を根底から引き抜くことは、私自身の生命の根も枯らすことになるかもしれない。
それでも私は自分の中から「他人」という悪根を抜きたいと思っている。
 
そのために毎日毎日自分自身の深部に潜って、絡まってすでに血肉になっている根をはがす作業をコツコツと繰り返す。
気が遠くなるほどの地道でしんどくて繊細な作業。
もちろん痛みも伴う。
血肉をはぎ取り血が出ることもある。
それでも絡みに絡んだ悪い根を絶たないことには、私自身がいつかその根で絞殺される。
 
「比べる」というとても簡単で安易な行為が、どれほどの人間を抑圧し狂わせてきたことだろう。
いまだってまったく意識せずに、息を吸うぐらいの気軽さで、他人と比べ劣等感を感じ、他人を羨み自分を否定する作業を行ってしまう。
長年の習慣や悪癖を一朝一夕で治すことはできないし、そこから抜け出すことも困難だ。

だから私たちはもう一度自覚するしかない。
他人は助けてくれない。
自分の力を信じて、自分で抜け出すしかない。
どんなに怖くても苦しくても自分の頭で考え、自分で選択し、諦めず腐らず毎日コツコツと地道に自分の手を動かし続ける。
自分を救うのは自分しかない。
自分の頭と手と足を動かし続け、決して諦めずに最後まで続けること。
それしか自分を救う方法はない。
 
他人と比べずに自分だけを見つめ、全エネルギーを自分に注ぐこと。
自分の中に別の人間を住まわさないこと。
それだけが自分を守り、導く。
例え家族であっても、血が繋がっていても、
自分の中に存在していいのは自分だけなのだ。
 
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