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【兎チョイス】逆噴射小説大賞エントリ作品

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『超高速《蜘蛛の糸》』

『超高速《蜘蛛の糸》』

天国と地獄であっても通信回線の進化とは無縁ではなかったらしい。地獄から天へ昇った俺はハードボイルドに天界のVAPEをキメながら足元で光を放つ極太の蜘蛛の糸を見つめる。

地獄と天国の間で上り14.4kbpsの蜘蛛の糸を垂らしていた時代はもう終わった。少し前までは餓鬼や亡者が集中すると魂のアップロードもままならず、転生放題の時間になるとすぐに切れて回線落ちしまくっていたものだった。

だが、いまでは

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過保護くらいでちょうどいい

無抵抗だった少年が、鞄の中から財布を取り上げられた瞬間激しく抵抗した。
「やめろ、それに触るな、バカ」
「バカ?てめえ今、おれにバカって言ったのか?」
「言ったよ!これはお前のために言ってるんだぞ、いいから返せ」
あまりの剣幕に金髪は仲間の顔を見渡した。
「おれのため、だってよ」
剣呑にくすくす笑い、金髪は勢いよく彼の腹を殴る。
「そういうのは、喧嘩弱いのがバレる前に言うんだよバーカ」
「か、返せ

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セクシーアームズ・トゥ・ホールドユー。

ちょっと聞いてくれよ、と前置きして男が始めた話は確かに驚嘆すべきものだった。
わたしが相槌を打とうと口を挟みかけた瞬間、話題の主が酒場に入ってきた。バネびらきの、すでに幾つか弾痕の開いたウェスタンスイングがばたんばたんと音を立てる。

「手をさ」

やや、もったりとした火星訛り。

「まず手を洗いたいんだよ」

横を見ると、彼について話していた男が軍票を置いて逃げ出すところだった。帽子を被るのもそ

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『ローグ、ローグ、ローグ』

泥棒だけはやっちゃいけねえ、って、爺さんはことあるごとに俺に言い聞かせた。俺は尋ねた。置引は?泥棒だ。賽銭拾うのは?泥棒だ。死体漁りはどうだ?それはいい。人の名前を借りるのはダメか?だから泥棒だって言ってんだろ。
爺さんはしまいにはガッチリした拳骨で俺を殴った。目から火花が出た。いいか、オレたちはな、悪党ばかりのクソみたいな血だって言われてる。合ってる。でもな、泥棒だけはダメだ。爺さんは何度も俺に

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鷲狩りの騎士団ホルガー・ダンスク

鷲狩りの騎士団ホルガー・ダンスク

「ゲシュタポだ!」
誰かが叫び、俺たちは一目散に逃げ出した。灯りが消された。銃声。家具が倒れる音。

「逃げろーッみんな逃げろーッ」
銃声。銃声。バタバタと扉を押し合っている。ミケル、馬鹿野郎。お前も逃げろ。

隠れ家の外は森だ。ナチ野郎の懐中電灯が光の剣みたいに森を切り裂いて蠢いている。早く。早くここを離れよう。泥まみれになって這いずり、転がった。木の根がやたらと体にぶつかったが、痛みを感じてる

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ゴジラ対横綱

「観音崎。」

車に乗った横綱はそれだけ言った。ハンドルを握る付き人の大車輪は、たっぷりと10秒は黙って、聞き返さず「はい」とだけ言った。

疑問は無限に頭に浮かんだが、全ては無意味だと感じた。横綱が行くと言えば行く。横綱が相撲を取ると言えば取る。やれと言えばやる。それが付き人の役目だ。

車が発進する。車内には大車輪と横綱だけ。両者無言だ。

「ラジオ、いいすか。」

「ん。」

大車輪が沈黙に

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オナホ長屋

オナホ長屋

一席お付き合いいただきます。

今日はオナニーの話で――まあそう嫌な顔をせず。バカにできないもんですよ。なんせ人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、そして性欲と申します。食う、寝る、シコる。これは人間にとって必要最低限の行為な訳です。
男性の方ですと、一番身近な手を使う以外に、オナホなんてものもございますね。最近では冷たいのやら電動やら色々ありますけども、昔はそんなのございやせんから、蒟蒻なんかをちょとぬ

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リボルバー・マン

リボルバー・マン

 目が覚めた。薄っぺらいカーテンごしに入ってきた光がおれの股間を照らしていた。太陽は一億五千万キロも離れたところから八分あまりもかけて手をつっこんできて、おれの股間を温める。おかげでそこだけホカホカだ。ぶしつけなやつめ。

 立ち上がると死にかけたベッドのスプリングがきしんで安っぽい音を立てる。その音がからっぽの頭の中でこだまする。いやな気分だ。おれはこの気分を知っている。デジャヴとかいうやつだ。

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大武法者時代

大武法者時代

 荒野。太陽は天頂。横倒しの駅馬車。
 周囲には御者、護衛、乗客の死体。生者は私と三人の無法者だけ。

 そこに何処から現れたものか、また一人生者が増えた。
 牛追帽に外套を纏った少女は恐れを知らぬのか、無法者たちに問うた。

「武法に背く御法度と知っての狼藉か?」

 少女が脱ぎ捨てた外套は風に舞う。
 その下からは牛追靴に極度に短く切り詰めた青帆布袴、腰の銃帯には大小二本の刀、たわわに実る果実

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妖精と酔銃

妖精と酔銃

「ぶっ殺せ!アニキの仇だ!」
「こんなんきいてねぇぞ!」

 ツバキは廃車を盾にし銃弾を防いでいた。
 借金代わりにウィッチが押し付けた仕事は、スクラップ置き場の浮浪者の追い出し。だが実際いたのは恨みを持つヤクザ。ハメられたか?と思ったがこんなことにアイツの益はない。それより瓦礫の上のハゲと手下5人に集中だ。
 ツバキは間合いをぬって撃ち返したがこのままではジリ貧であった。彼は懐から酒瓶を取り出し

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魔封じの巫女と神の騎士

魔封じの巫女と神の騎士

 再起動完了。周囲森、次元の歪み確認。ア国の次元兵器による転移と推測。……部隊モードから独立モードに切り替え。これより情報収集開始。次元位置特定次第救難信号。

「──!」

 音声解析、類似の言語と音の性質分析により推測。

 助けて

 木々多数につき視界不良、透視は転移の影響か使用不可。他機能については後に確認。音の方向へ接近。

「誰か助けて!誰か!あっ!」

 転倒を確認。13~15歳の

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8月3日のアルクトゥルス

8月3日のアルクトゥルス

 通学路に宇宙飛行士がいた。第一発見者は僕とハモ爺と、その愛犬ヒューゴだった。

 彼の宇宙服は破れてないのが不思議なくらい汚れていた。ところどころ苔むしているし、身体中に謎の鉱石が張り付いている。それは日光を反射して、ミラーボールのような光を道路に落としていた。

 宇宙飛行士は木の枝で指揮者のマネをしていたけれど、ヒューゴがひと吠えしたら電柱の陰に隠れてしまった。背中の鞄(?)から、ピピピピピ

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天狗狩(DUCK HUNT)

天狗狩(DUCK HUNT)

                              第二話》

 文久三年九月十八日。
 夕刻より降り出した雨は次第に強くなった。
 土方歳三はあまり運否天賦というものを信じぬ質だが、この時ばかりはその様な胡乱な存在が己に味方したと思った。

 芹沢鴨、斬るべし。

 尤も真正面から挑み敵う相手では無い。例え沖田と云えども無傷では済むまい。
 だが組は芹沢の死を以て革まらねば為らぬ。故にこ

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ミダスのすべて

ミダスのすべて

 ゴードンはあまり酒を口にする方ではなかったが、時折仕事が上手く行かない時や何かをじっくり考える必要がある時には今のように書斎に籠もってウイスキーを飲むのだった。家族も心得たものでそんな時は部屋に近寄らない。

 ◆

 昼、新聞社の仕事が休みで家族と憩う彼に来客があった。よれきった灰色の外套を着て現れたハロルドは、実際十数年来の友人の貌は酷く不健康そうで目が血走っており、その様に不安を覚えたゴー

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