過保護くらいでちょうどいい

無抵抗だった少年が、鞄の中から財布を取り上げられた瞬間激しく抵抗した。
「やめろ、それに触るな、バカ」
「バカ?てめえ今、おれにバカって言ったのか?」
「言ったよ!これはお前のために言ってるんだぞ、いいから返せ」
あまりの剣幕に金髪は仲間の顔を見渡した。
「おれのため、だってよ」
剣呑にくすくす笑い、金髪は勢いよく彼の腹を殴る。
「そういうのは、喧嘩弱いのがバレる前に言うんだよバーカ」
「か、返せよ」
「へっ、ガキが、殴られたこともねえのかよ。押さえとけ」
金髪の声に応えて学生服が二人、彼の両手をそれぞれ押さえてそのまま跪かせた。
「金なら幾らかはやる、顔以外ならある程度殴ってもいい。だから財布を戻せ」
「まだ言ってやがんのか。これはもう、おれのもんだ。あと、ガキがおれにそんなナメた口の利き方をするな」
口の利き方というより物言いの内容が少しおかしいことに気付かなかったのか、金髪は財布で彼の頬をピタピタ叩き、それから逆の手で思い切り頬を殴った。
殴られた少年は信じられないものを見る目で金髪の顔を眺め、そして唇の端から垂れた自分の血を眺めた。

金髪は財布を開き、怪訝な顔になった。
「なんだ、これ、女の写真か?気味悪ィ」
それは小さなポラロイドの写真だった。目の端に紅を引いた切れ長の眼が、大写しになっている。金髪がつまみ上げると、写真の眼が瞬きをした。
ひゃあ、と頓狂な声を上げて金髪が写真を放り出した。ひらひらと舞いながら、写真の眼が動き、殴られた少年の頬を「視る」。同時に空がゴロゴロと鳴った。

「やめろって!姉ちゃん!殺すな!」

少年が虚空に叫ぶのと、何もない中空から幼女が飛び出したのは同時だった。明らかに少年よりも年下の幼女は金髪の顔ごとコンクリートに着地した。もう動かない金髪の顔の上に両足で乗ったまま、不機嫌そうに幼女は振り返った。

「姉には敬語をつかえ。あと、怪我する前にわたしを頼れ」

彼女の目尻には鮮やかな紅。
【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?