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新樹集(塔2021年3月号)を読む(途中まで)
「新樹集」とは、「塔」の誌面で主宰・吉川宏志さんが選ぶその月のベスト10人のようなものです。本稿では、各作品を読んで簡単にコメントします。
◇魚谷真梨子作品濃紺の皿にシチューを分け合って今夜とはいつも何かの前夜
2つ前の歌が「死者数の画面を閉じた指先で子の頬のビスケットをぬぐう」、1つ前の歌が「イルミネーションやさしく光れ幾万の灯火あるいはこの国の嘘」と、ウイルス感染症の拡大や国への不信を
「ほとりVol.5 塔短歌会三十四十代歌人特集」を読む
◆1枚目海へ行くわけではないが或る冬の赤い電車は海へと向かう/大橋春人
置いてゆくものへの賛辞のようでしたうす雲を曳く橋の風景/中田明子
まだ役に立つよう防水スプレーを(窒息を思い出しながら)ふる/千仗千紘
コアラ館手前に広い休憩所巻きしっかりのソフトクリーム/佐復桂
大橋作品、意味あり気な「或る冬」という描写が物語を暗示する。「赤い電車」のアイテムが魅力的。
中田作品、「置いてゆくもの」≒今
平出奔を読む(0)「何も言えなさ」について
平出奔の短歌のことは、表面的な部分を見て、長らくその表現に疑問を持っていた。例えば、私が平出を知って間もない頃に読んだ次のような歌を挙げてみる。
セックス・オン・ザ・ビーチ、俺がさいたまで飲んでもセックス・オン・ザ・ビーチなのウケるな
/平出奔『汽笛のふりをしている』
この歌の意味的な眼目は、セックス・オン・ザ・ビーチというカクテルを「俺がさいたまで飲んでもセックス・オン・ザ・ビーチ」だと
「ビルバーガー」のこと
今まで観た美術の個展・企画展の中でいちばん面白かった――あるいは刺激的だった、印象的だった、好きだった、などに置き換えても同じことだが――ものは何かと聞かれたら、答えに困る。だが、いちばんスリリングだった個展・企画展は何かと聞かれたら、僕にはたった一つの答えが思いつく。Chim↑Pomの個展「また明日も観てくれるかな? So see you again tomorrow, too?」(2016.
もっとみる「ポルト・リガトの聖母」のこと
2017年の3月、僕はいろいろあって長崎の友人の家に1週間くらい居座っていた。友人は大学院生で昼間は研究室へ行っていたから、夕食を彼とともにする以外は一人で過ごしていた。最初の何日かは「せっかく長崎へ来ているのだから」と観光へ出たものの、長崎は決して広い街ではなく、数日で主要な観光地は周り終えてしまった。軍艦島、平和公園、グラバー園、大浦天主堂……。それぞれ魅力的な観光地であることは確かだったが
もっとみる一首の「鑑賞の幅を広げる」とは?
永田和宏『近代秀歌』を読んだ。近代短歌の入門編の読み物としてはちょうどよい書籍だと感じた。僕自身、知らなかった歌もあったし、読んでいない歌人や歌集についていつかきちんと読まなきゃいけないなと刺激をもらった。
ところで、僕にはどうも鑑賞の仕方で納得のいかないところがある。永田さんは、島木赤彦の「隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり」(『柿陰集』)について次のように述べる。
多
定型詩は「文字数合わせゲーム」なのか
(0)前置き 瀬川深氏のツイートとそれが生んだ流れで気になることがあった。瀬川氏のツイートに言及する前に、瀬川氏が最初に引用したツイートを共有する必要がある。次に引く。
日本の首相の演説などを「ポエム」と形容する評言に出くわすと詩の研究から出発した学者としては我慢がならない。
「ポエム」という語の誤用はぜひやめていただきたい。
日本語にはもっとふさわしい由緒ある表現があって、それは「ネゴト」であ
覚え書き(『感傷ストーブ』批評会をきっかけに)
先日の『感傷ストーブ』批評会では、パネリストの花山周子さんの発言に頷くことが多かった。ただ、疑問だったのはレジュメで「価値の創出」とした箇所である。
『感傷ストーブ』では、ギャグや自虐の歌が多く含まれる。ギャグも自虐も、ある知識や価値観を共有するからこそ成立するものである。それらの面白さは周子さんも指摘していた。一方で、さらに突き抜けた「何かを突破している」と感じさせる歌は、既存の価値観とは異
『シロツメクサを探すだろうに』を読んで
山内頌子第二歌集『シロツメクサを探すだろうに』(2019,角川書店)
タイトルは次の歌から。
こんな風が吹いているなら御所にゆきシロツメクサを探すだろうに
著者略歴やそれまでの歌から、夫の転勤で京都から東京へ引っ越したことが分かる。タイトルからは、京都への愛着を諦め切れていない気持ちが読み取れる。
おしゃれして歩いた街は遠くなる遠くてそこで輝いている
歌集の最後に置かれた歌。この歌もまた