『シロツメクサを探すだろうに』を読んで

山内頌子第二歌集『シロツメクサを探すだろうに』(2019,角川書店)

タイトルは次の歌から。

こんな風が吹いているなら御所にゆきシロツメクサを探すだろうに

著者略歴やそれまでの歌から、夫の転勤で京都から東京へ引っ越したことが分かる。タイトルからは、京都への愛着を諦め切れていない気持ちが読み取れる。

おしゃれして歩いた街は遠くなる遠くてそこで輝いている

歌集の最後に置かれた歌。この歌もまた若い頃に親しんだ街(=京都)への愛着の歌であり、印象的な場所に置かれている。
だが、決して愛着のある土地への懐古だけではない。葛藤をしつつも東京で暮らすことに前向きになろうとする。

自転車で売家みにゆく日あたりをいくらで買うていつ死ぬるのか
建材にふれつつ歩む夫の手の 長く生きよう家建てし後も
南側に大きく窓のあることが何十年もこの家を励ます

一首目ではまだ迷いがある。二首目では夫を通じて前向きになりつつある。三首目では「何十年も」この家に住むことを想像している。

この歌集にあとがきに作者はこう記している。

時間は流れてゆく。叶わなかったことを数えてかなしまず、叶ったことを数えてしばられまい、と思う。

自身の生き方に思い悩みながら前へ進もうとする作者の歌や言葉に励まされる。

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