毎日一首評②

人見知りはあなたの長所 買ひたての醬油を暗い涼しい場所へ
/石川美南『架空線』

 一読して面白い歌だ。ただ、意味内容で迷うところはないのだが、二句目までのニュアンスを私は少し迷った。具体的には以下の(1)(2)である。

(1)(一般的に短所だと言われる)人見知りが「あなた」の場合は長所なのだと、主体が本気で思っている。
(2)「あなた」は人見知りゆえに交友関係を広げないから、主体は「あなた」の数少ない深い仲でいられることをうべなっている。

 (1)の読みが素直なのかもしれないが、私には人見知りが長所だという根拠に思い至らず、(2)の読みへ流れた。仮に(2)の読みを採用して読み進めてみよう。

 (2)の読みは、言うなれば独占欲である。「あなた」は主体の友人なのだと取ったが、交友関係は狭いが深い仲である友人に対して独占欲的な感情を抱くことは不思議ではない。特に三句目以下を読んだときにその裏付けを取ることができる。醤油を暗くて涼しい場所で保存することは一般的なことだが、醤油を「あなた」の暗喩と取ってみてはどうだろうか。つまり、「あなた」を(自分の家の、プライベートな空間の)暗くて涼しい場所へ隠してしまうということである。なるほど、独占欲の裏付けともいえるかもしれない。

 しかし、ここまで読んで疑問が残る。「あなた」への独占欲と解釈するにしては、歌から受ける印象がポジティブすぎるのである。読後感はどちらかと言えば「あなた」への肯定感が強い。ここで改めて(1)の読みに立ち返ってみる。

 (1)の読みをするには、まず人見知りが長所だという根拠を考えなくてはいけない。私の感覚にはないのだが、あえて解釈するならば、「あなた」は人見知りゆえに交友関係は狭いが、だからこそ本当に気心の知れる人たちと深い関係性を築くことができる、というニュアンスだろうか。そう解釈してみると三句目以下が一層と引き立つことに気づく。つまり、「暗い涼しい場所」は単に暗いわけではなく、同時に「涼しい」≒風通しのよい場所だということである。交友の広い人たちの世界を明るい世界とするならば人見知りの世界は暗いかもしれないが、そこにはそこに吹く風があるのである。この喩が「あなた」への絶対的な肯定感を生んでいるのだと思う。さらに、ここまで読んでから「買ひたての」の形容へ目を向けてみれば、新品の醬油瓶よろしく「あなた」の良さがいま新鮮に立ち上がるようである。

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