inokori bokura

以前、「紘人」というnoteアカウントで創作していましたが2016年に一括削除。それか…

inokori bokura

以前、「紘人」というnoteアカウントで創作していましたが2016年に一括削除。それから書き溜めていた作品を少しずつアップしていきます。2021年9月にリブート。

マガジン

  • ただすり抜けるだけのオレンジ(超掌編1本+短編小説3本)

    2020ABTT(アートブックターミナル東北)に出品した短編小説集です。表題作のみ単体で購入が可能です。購入前に商品説明をお読みください。https://note.com/uromichiru/n/n60e5f1d7ba81

記事一覧

くらましさがし/Hide and Seek

愛情は較べるものではない。これはあまりにも明らかなことなので誰かに話したり書いたりすることでない。だから、こういう秘められた事柄は自分で覚えておかないと忘れてし…

inokori bokura
4か月前

In the Corner of Gate F4 at ATL Hartfield International Airport

I’m leaving. For Japan. Damn. Damn, the black boy's voice His phone's battery was out and I lend him power charger He didn't say anything that I expected to he…

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The Window in the Library

Cool. No noise. Each footsteps sink in the carpet. Someone’s index finger walk through the index of a book. But most of people in the library do their homewo…

どっち / Which

山林の入り口に到着しなだらかな 坂を登りはじめた私の肩にかかった リュックサックのなかの サンドイッチが二、三度傾く感覚を たえず持ちながら 山道に差し掛かったとき …

馬が駆ける

勢いよく飛び出した一頭の馬が コーナーを曲がる気もなく競技場を飛び出した その馬が欠けたままレースはつづく その馬に賭けていた人々は怒りを隠さず その馬の頭に目を寝…

はるのにおい

ただどうしようもなくむせかえるようなはるのにおい 
いちばんにかけのぼってきたのは切れ目のない 
上へ下へ土をつきやぶり
 朝ベッドで目を覚ますわたしのように
 寝…

いつかいなくなってしまうものたちへ

転んで擦りむけた手のひら 聞こえていた鬼の唸り声 いつまで経っても来ないバス いつかの悪夢で見たおんな 障子の穴 日韓ワールドカップの目覚まし時計 小学校の先生が持っ…

雲のなか

 飛行機に乗って雲をながめていると、その無関心さに腹がたった。ガラスケースの中で安全に身を委ね凝り固まったようなその態度は、目線を合わせることを許さない傲慢さで…

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【作品紹介】『ただすり抜けるだけのオレンジ』

この作品について 短編集『ただすり抜けるだけのオレンジ』は、Cyg art galleryが主催するイベント「アートブックターミナル東北2020」に出品された作品です。 この本は、…

ただすり抜けるだけのオレンジ

 「とにかくふざけなくちゃ。この世界を生きるのに必要なのはそれだけよ。間違いないわ。」  膝を抱えて砂浜に座るその女の子は、丸くて黒い瞳を海岸線へ沈みはじめた夕…

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ただいまがとぎれないように

     1  アルミの水筒の底に氷がぶつかるたびに、冷たい音が部屋の中に響いた。  「お兄ちゃん。いま氷何個?」  「知らない。五つくらい入れたかな」  「もっ…

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蝋燭の灯り

 私は眠れないときには蝋燭を灯す。  蝋燭に火が灯されているあいだ、眠気はさらに遠のいて、昔のことが近づいてくる。  その夜、いつものようにキッチンで水を切って…

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その日のおわり

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くらましさがし/Hide and Seek

愛情は較べるものではない。これはあまりにも明らかなことなので誰かに話したり書いたりすることでない。だから、こういう秘められた事柄は自分で覚えておかないと忘れてしまう。油断しているうちにみんな忘れてしまう。忘れてしまうということはしかし、思い出せるということ。覚えているあいだ、人は思い出すことはできない、なぜなら常にそのことを思っているのだから。思い出せるのは忘れた人だけ。忘れるから思い出せる。思い

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In the Corner of Gate F4 at ATL Hartfield International Airport

I’m leaving.
For Japan.
Damn.
Damn, the black boy's voice
His phone's battery was out and I lend him power charger
He didn't say anything that I expected to hear, Thank you or something.
I am a Damn J

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The Window in the Library

Cool. No noise.
Each footsteps sink in the carpet.
Someone’s index finger walk through the index of a book.
But most of people in the library do their homework.
A bunch of homework.
As though they p

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どっち / Which

山林の入り口に到着しなだらかな
坂を登りはじめた私の肩にかかった
リュックサックのなかの
サンドイッチが二、三度傾く感覚を
たえず持ちながら
山道に差し掛かったとき
ふいに背後に振動を感じた
私は振り返ることすらできず
道端に咲いていた土筆と共に立ち尽くしたそのとき
遺言を書いてこなかったことが頭をよぎった
筆をとるには遅すぎた
狙いはサンドイッチだろうかいや私かどっちだ
パンの間に挟んでいるハム

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馬が駆ける

勢いよく飛び出した一頭の馬が
コーナーを曲がる気もなく競技場を飛び出した
その馬が欠けたままレースはつづく
その馬に賭けていた人々は怒りを隠さず
その馬の頭に目を寝かせ
次の馬券を買いにゆく
男が多い
奇妙だ
消えた馬に乗っていた騎手の姿が消えた
それは馬と奇が切り離されるような手だ
あいつは馬鹿だ、とまだ罵声が飛び交うなか
馬と鹿が区切られて別々の方へ駆けていく
区切られて馬は飛び出す

はるのにおい

ただどうしようもなくむせかえるようなはるのにおい

いちばんにかけのぼってきたのは切れ目のない

上へ下へ土をつきやぶり

朝ベッドで目を覚ますわたしのように

寝そべったまま足をのばし拳をつきあげ
鼻から息を吸い込めば

ただもうはるのにおいがする

遠くの方にも近くの方でも
いくつものはるのにおいがする

いつかいなくなってしまうものたちへ

転んで擦りむけた手のひら
聞こえていた鬼の唸り声
いつまで経っても来ないバス
いつかの悪夢で見たおんな
障子の穴
日韓ワールドカップの目覚まし時計
小学校の先生が持っていた赤鉛筆
プールで冷え切った身体のさみしさ
友人をいじめる声
家の庭の土にメッセージを刻んで帰った友人
2階から落ちた雀





雲のなか

 飛行機に乗って雲をながめていると、その無関心さに腹がたった。ガラスケースの中で安全に身を委ね凝り固まったようなその態度は、目線を合わせることを許さない傲慢さで浮いている。飛行機が上昇をやめ、平行に移動してからも雲の様子を上からみていた。身を寄せ合いながら囁きもせずじっとだまっている、この動かなさに腹が立ってくる。微塵もそよぐことがなく、互いによそよそしい。星々の距離のように自分の位置に自信を持ち

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【作品紹介】『ただすり抜けるだけのオレンジ』

【作品紹介】『ただすり抜けるだけのオレンジ』

この作品について
短編集『ただすり抜けるだけのオレンジ』は、Cyg art galleryが主催するイベント「アートブックターミナル東北2020」に出品された作品です。

この本は、2020年 8月1日(土)から8月23日(日)にかけて岩手県盛岡市にあるCyg art galleryと、オンライン特設サイトにて販売されていました。

そのときの販売価格が500円でしたので、noteでも同じ価格にし

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ただすり抜けるだけのオレンジ

ただすり抜けるだけのオレンジ

 「とにかくふざけなくちゃ。この世界を生きるのに必要なのはそれだけよ。間違いないわ。」
 膝を抱えて砂浜に座るその女の子は、丸くて黒い瞳を海岸線へ沈みはじめた夕陽に向け、唇を小さく動かして呟いた。
 言い終わると彼女はそっと目をつむり、長い時間太陽を見ていたせいで視界にできた黒い点が消えてしまうまで、足下の砂を手に取っては指の隙間から落とし、波の音を聴きながらその場でじっとしていた。
 しばらくそ

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ただいまがとぎれないように

     1

 アルミの水筒の底に氷がぶつかるたびに、冷たい音が部屋の中に響いた。
 「お兄ちゃん。いま氷何個?」
 「知らない。五つくらい入れたかな」
 「もっと入れて。」
 「もうないよ。昨日食べ過ぎたんだよ、きっと。」
 「はやく」とシゲルは玄関のドアを開けたり閉めたりしながら兄に訴える。
 コウタはそれを聞きながらペットボトルのお茶をつかみ、水筒の中へ注いだ。とここという音を立てて、氷が

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蝋燭の灯り

 私は眠れないときには蝋燭を灯す。
 蝋燭に火が灯されているあいだ、眠気はさらに遠のいて、昔のことが近づいてくる。

 その夜、いつものようにキッチンで水を切っておいた皿やスプーンやらをふきんで包んで拭いているとき、隣の部屋で点けていたテレビからナレーターの声が聞こえてきた。
 「あなたは子供のころ、どんな大人になりたかったですか。」
 私は何の番組だろうと思い、拭いた皿をテーブルに置いてテレビの

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