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ただすり抜けるだけのオレンジ(超掌編1本+短編小説3本)

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2020ABTT(アートブックターミナル東北)に出品した短編小説集です。表題作のみ単体で購入が可能です。購入前に商品説明をお読みください。https://note.com/uro…
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蝋燭の灯り

 私は眠れないときには蝋燭を灯す。
 蝋燭に火が灯されているあいだ、眠気はさらに遠のいて、昔のことが近づいてくる。

 その夜、いつものようにキッチンで水を切っておいた皿やスプーンやらをふきんで包んで拭いているとき、隣の部屋で点けていたテレビからナレーターの声が聞こえてきた。
 「あなたは子供のころ、どんな大人になりたかったですか。」
 私は何の番組だろうと思い、拭いた皿をテーブルに置いてテレビの

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ただいまがとぎれないように

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 アルミの水筒の底に氷がぶつかるたびに、冷たい音が部屋の中に響いた。
 「お兄ちゃん。いま氷何個?」
 「知らない。五つくらい入れたかな」
 「もっと入れて。」
 「もうないよ。昨日食べ過ぎたんだよ、きっと。」
 「はやく」とシゲルは玄関のドアを開けたり閉めたりしながら兄に訴える。
 コウタはそれを聞きながらペットボトルのお茶をつかみ、水筒の中へ注いだ。とここという音を立てて、氷が

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ただすり抜けるだけのオレンジ

ただすり抜けるだけのオレンジ

 「とにかくふざけなくちゃ。この世界を生きるのに必要なのはそれだけよ。間違いないわ。」
 膝を抱えて砂浜に座るその女の子は、丸くて黒い瞳を海岸線へ沈みはじめた夕陽に向け、唇を小さく動かして呟いた。
 言い終わると彼女はそっと目をつむり、長い時間太陽を見ていたせいで視界にできた黒い点が消えてしまうまで、足下の砂を手に取っては指の隙間から落とし、波の音を聴きながらその場でじっとしていた。
 しばらくそ

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