- 運営しているクリエイター
#熟成下書き
5.彼女の噂、わたしの寒さ:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
南国なんて言われちゃう宮崎にだって、秋もあれば冬もある。12月になれば室内でもカーディガンやセーターを着るし、最近ずっとテーケツアツ気味なわたしは何を着ていても寒い。
寒い、寒い、寒い。きっともう、わたしの人生はこれからずっと寒いんだ。
「ねぇ、寒くないと?」
この合宿で同室の堀ちゃんに訊いてみるけれど、ウォークマンで聴いている音楽に夢中なのか反応しない。漏れ出る音から『CAN YOU CE
4.まだ十六、もう十六:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
A1出口を出ると、神保町のビル風が冷たく堪えた。もうカーディガンだけじゃ寒さに耐えられない。冬なのだ。
さっきまでは地下鉄の中にいたし頭に血がのぼっていたしでカッカと暑かったけれど、いつもの「わたしの場所」へ行くまでに随分身体が冷えてしまいそう。もう、全てがあのおじさんのせいに思えてくる。地下鉄で目の前に立って人のことをじっと見つめてくる変態なんて、はじめて会った。しかもきっと、あの変態はわたし
2.薄いカーディガン、分厚い双眼鏡:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
あの日買うことができなかった薄手のカーディガンがそろそろ必要になってきた。
夏休みが終わり2週間が経とうとしている。夕暮れは空を染めるのを焦り、わたし達は急かされるように日々を畳んでいく。みんなが狭い出口に向かって押しかけているみたいな感覚をおぼえながらも「どこか」「何か」に向かわなければならないと言われるがままに日々を処理していく。
それでも、わたしだけの夏はまだ終わっていない。いやむしろ、
1.古い手紙、新しい輪ゴム:「好きなページはありますか。」ショートストーリー集
「捨てるようなもんはまとめといて、後から見てもらった方がいい?」
「いらん。うち捨てとけ」
「そう、わかった」
久々に開けた実家の箪笥から、長年そこに蓄積されたのであろう空気の塊がのろりと出てきた。溜めこまれた衣類の入れ替えもなされていないようで、もう使わないものたちが最後に行き着く墓場みたいな扱いになってしまっている。総ケヤキの重厚な箪笥は独り身の父が用いるにはあまりに重くて大きくて、中身を整