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詩創作

24
掴めない世界
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#創作大賞2023

木漏れ日を躱し裾は振れる

木漏れ日を躱し裾は振れる

何かにつけて言葉にしたがっていた。

思い出す。

「言わぬが花」といえども私は、
その花すらどんな花であったのかを言葉にしたがっていた。

花も、言の葉も同じ水を飲んで育ってるんだからいいと思う、と私はあなたに話した。

するとあなたは、

微笑みながら共感した様子で、
土を一度ほぐしてあげるといいわよ、
と教えてくれた。

それはまるで雨水のごとき私の言葉をぜんぶ吸ってくれるあなたが、
あな

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しらゆりの記憶

しらゆりの記憶

この記憶、萎れることはなくってよ。

珍しく1枚も花びらが落ちることがない日だった。
わたしの心かと思った。

翌朝、
ていねいに椅子が机の下に戻されているのが、ベットから見えた。
あなたの心かと思った。

普段より多い、乾いた食器たちを戸棚に戻すとき、
台所に見えた色たちに潤いがあった。
私の心かと思った。

昨日は落ちることがなかった白百合は、
今朝、1枚散った。
でも床には落ちず、コップの水

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轆轤で奏でるミュージック

轆轤で奏でるミュージック

あなたの指はカートリッジだった。

体温が伝わった柔らかな土がまわり始める。

潤いを与えながら、
あなたの手が回り始めたターンテーブルへ落ちる。

なり始めた音楽は自在な音に聞こえた。
どんな音にもなれるような音が聞こえた。

何かを、誰かを想う手がそれを鳴らしていた。

すぼめたり、広げたり、膨らませたり、
波を打たせたり、リズムをつけたり、ひねったり。

器のかたち、模様が決まる。

抱きし

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僕の声を教えてください。

僕の声を教えてください。

僕は歩く。
ずっと歩く。走ることもない。

足を止めることもない。
同じ歩幅で、同じリズムで。

曲がることも知らない。
一言も発することをせず、
ただ、何もない道に足跡がつく。

この足跡は雨が降ったらどうなる。
いままで僕が歩いてきた道は雨に染まる。

やっと自由だ。

やっとの想い、雨の中で叫ぶ。
雨が降ったら、歌う。歌う。歌う。

歌う目的はひとつだけでいい。
歌う。歌う。

さて、僕の声

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視界

視界

今日僕の目には空がある。

優しい色をしていたから、
目に映る角ばったものは全部とっぱらってしまいたかった。

そういえば、この視界は丸いのか。

丸いと分かるのは視界の中に円形を捉えるからで、
この視界が丸いのかどうかはどうやったら分かるのか。

僕は、薄く目を細めてみる。

すると瞼が降りてくるのがわかった。

今僕が見ている(正確には、見えていない場が見えている場との境界線となって映している

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声には。

声には。

あなたは声を出す時、慎重だ。

まるであなたが聞き手側であるかのごとく、
耳を澄まして声を出しているのがわかる。

声の奥行きは、声の平たさは、息の音は、
声に意図する“必死さ”が表せているか。

音の幅が狭くないか。

心地よい音高か。

あなたは自分の声を聞きすぎた。

骨伝導な音よりも、
空気を振動させて伝う音にこだわった。

それはあなた自身が聞くことができない分、
もどかしさみたいなもの

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山荷葉に慰めてもらう六月

山荷葉に慰めてもらう六月

想像のままで終わらせた私はいい者か、悪者か。

ヒーローになりたくてマントをつけたのに、
結局泣いてしかいなかった私はいい者か、悪者か。

言葉にすべきことを言葉にできなかった私はいい者か、悪者か。

思想家。

私の想像も愛もすべては、
ほんとうのしあわせが知りたいからしていたことだったと思う。

でも、それはきっと“期待”を含んでいた。
期待には愛がない。無責任な偽物崇拝だ。

期待よりも、

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初夏、今年は花氷にはしない。

初夏、今年は花氷にはしない。

ゆめでみたの。

あなたと一緒なら今までできなかったような自分に、
挑もうとしている自分がいたの。

私はとっても楽しそうだったよ。

私が眠っている間はそんなふうに生きている、
私がある世界がありました。

儚いもので、
私はそんな夢をもう少しだけ見ていたくて、
凍らせられないかと考えていました。

でも、美しさは手が触れずにでも消えてゆくから、
美しく愛おしいのかもしれないと思いました。

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水槽の脳

今、私には声が聞こえています。
この声はどこから来たのか分かりません。
でも、とてもやさしい声。

聞いた事ありましたでしょうか。
いいえ、聞いたことはありません。

でも、もうこれ以上、これよりたくさん、
私はこれを聞きたくありません。

それは溺れるあなたの声でした。

ここは境目です。
水とそうじゃないとことの境目です。
この先にはいると、
私は私のことを忘れそうになります。

でも、私には

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