視界
今日僕の目には空がある。
優しい色をしていたから、
目に映る角ばったものは全部とっぱらってしまいたかった。
そういえば、この視界は丸いのか。
丸いと分かるのは視界の中に円形を捉えるからで、
この視界が丸いのかどうかはどうやったら分かるのか。
僕は、薄く目を細めてみる。
すると瞼が降りてくるのがわかった。
今僕が見ている(正確には、見えていない場が見えている場との境界線となって映している)視界が、形を成したのを感じた。
でも、ふと悲しくなった。
眼球が頭蓋の中で、がたつくのを感じ、
やがて僕の視界は柔らかい水に浸かった。
僕らはみな、死ぬときに全てが丸い視界のなかで、
優しい空を見て逝くことはできないのだ。
目が閉じていく直前、瞼によって鋭利な角が作られる。
あぁ、これでは、
あの人も最期にみた景色は鋭い刺傷のようになってしまったのではないか。
夕陽を眺め、僕の腕の中で逝ったあなた。
風を受けた長い睫毛はまだあなたが生きている錯覚を生んでいたのを思い出す。
ただこれはもうどうしようもできない。
神様が人間をそうやって作ったんだ。
せっかくの優しい色をした空も、
僕の不要な疑問のせいで憫える気持ちに襲われた、
そんな日となってしまった。
悲しくなった僕はそれから毎日、
寝る時には目を開けたまま真っ暗な布団に一度潜って、
そうしてから目を閉じるようにした。
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