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torutoru
2020年6月24日 20:46
「そうだ なつ あそぼ?」 「そうだ、京都行こう」と「くうねるあそぶ」のコピーライターが書いたような、キャッチーなセリフを僕に投げてきた。二つのコピーを同一人物が書いたかどうかは知らない。 3限終わり、彼女の言葉で、夏の始まりを実感する。今年は5月くらいから既に暑く、感覚が麻痺していた。日差しが差すアスファルトを見ると、夏はもう始まっているんじゃないかとぼんやりと考えることもあった。
2020年6月22日 20:23
「めちゃくちゃ、濡れてるよ?」 雨の水曜日、駅からキャンパスまでのわずかな道のりを傘も差さず歩いた結果だ。そこまで降ってないと思い、早歩きで通り抜けたが、服とリュックはビショぬれだった。一つ後ろの席に座っていた彼女が、僕の濡れた後姿を見て思わず声を掛ける。 別に怒られたわけでないが、「あ、すんません」と謝る。同じクラスの子だっただろうか、あまり覚えていない。学部の授業なので、同じ学
2020年6月17日 20:24
「HY、歌える?」高校の頃の同級生と、久しぶりに飲みに行った。二次会はカラオケ、ありきたりの展開だ。男子3人女子3人で入るカラオケボックスは、酔いのせいか少し狭く感じる。隣にはクラスでも明るく、モテていたあの子が座っている。デンモクを渡されたときの笑顔がかわいかった。履歴を見ると、aikoとクリープハイプがずらりと並ぶ。この子の人生を勝手に想像して、なぜか抱きしめたくなる。きっと、
2020年6月14日 20:34
「あー、暑いですねえ…」春と夏の間の、名前がない季節。梅雨が始まる前の、初夏のフライングみたいな季節。雨気と暑気が入り混じった、うだつの上がらない季節。 話すことがないときに、気温と天気の話をしてしまうのはどうしてだろう。夏は「暑い」、冬は「寒い」、「晴れですね」、「雨ですね」、微妙な関係の男女の会話の行き着く先は、これに尽きる。Siriやアレクサでもスムーズにできるやり取りだが
2020年6月8日 21:32
「おっきくなったね」彼女は同じマンションに住む二個上の先輩。小さい頃はよく遊んでもらったらしいのだが、どうも記憶が曖昧だ。彼女が都内の私立中学に進んでから、遊ぶこともなくなった。たまにエレベーターや部屋の前ですれ違うと挨拶をする程度だった。そんな彼女が、部屋の鍵を開けようとした僕に急に話し掛けてきた。マンションの六階の廊下。慌てて振り返る。シンプルに驚いたし、なぜこのタイミングな
2020年6月7日 21:06
「ねぇねぇ、写真撮ろ?」 バイトの歓迎会に誘われた僕は、一枚の写真に納まることを迫られる。お酒のせいで赤くなった彼女の顔を、じっと見つめる。何か言おうとする僕を無視して、iPhoneを宙に掲げる。 僕は女の子と一緒に写真を撮った経験がほとんどない。遡れば中学校の修学旅行や小学校の運動会、幼稚園のお昼寝の時間など…。覚えていないだけで実際にはあるのだろうが、それを「女の子と一緒に撮
2020年6月5日 19:13
「このワンちゃん、なんていう名前なの?」僕は、LINEのアイコンを誰かの犬の写真にしている。ネットから拝借した、どこの誰かもわからないチワワの写真。フォト無精の僕は、アイコンを何にすべきか皆目見当もつかなかった。自撮り(お前の顔面をおれのタイムラインに乗せてくるなよ)、友達と映る写真(お前の友達と思われるのハズいからやめてくれよ)、デフォルト画像(逆にデフォがかっこいいと思ってんじゃね
2020年6月2日 23:54
「今度、飲み行こうね!」バイト終わり、彼女は必ずそう言って去って行く。「来週のサザエさんは〜」ばりに毎週毎週欠かさずに言ってくる。雨の日も、雪の日も、彼女がメイクを忘れてマスクをしてた日も。僕は「うん、絶対ね」と返して見送った後、「今度」の意味をスマホで調べる。「最も近い将来・この次・次回」今度という意味を考えれば考えるほど、わからなくなってくる。近い将来なのに、どんどんどんどん
2020年5月29日 19:53
「夜の匂いが早くなった、初夏がやってくるね」彼女は言い回しが妙だ。お婆ちゃんが日本を代表する俳人なのかもしれない。会話に必ず季語を入れてくる。どこか情緒をプンプンに漂わせて。朝会った時は、「おはよう、春眠が気持ちよかったねー」授業を終え外に出ると、「風強いー!薫風だー!」雨が降り続く午後は、「これは、送り梅雨かな?返り梅雨かな?」僕は訳もわからず相槌を打って、別れた後にGoog
2020年5月28日 19:04
「あー、私の人生こんなはずじゃなかったのになあ‥」彼女は僕に弱みを見せてくる。3回に1回はどこからか湧いてきた感情を、溜息混じりに吐露してくる。汚れた消しゴムのカスを丸めながら、浮かない表情の彼女を見つめる。授業中の表情も、学食での表情も、廊下を歩く表情も、彼女はどこか物憂げな感じがした。その様は、こんな不幸な私を見てほしい、と言わんばかりだった。こんな顔をしながら存在していれば、