質問063:プロ級の上級者はフォームなど気にしていない!
回答
※過去のご質問に対する回答なので、例が10年以上前にさかのぼります。
ただし内容はこの回に限らず、毎度、大幅に加筆修正した最新の情報を載せていますので、お役立ていただけると思います。
▶アナ・イバノビッチの苦悩
さてテニス専門誌『スマッシュ』には、トッププレーヤーのコメントを紹介するページがありました(2011年6月号)。
アナ・イバノビッチ(元WTA世界ランキング1位。2008年フレンチオープン女子シングルス覇者)のコメントによると、以前は、あまりにサーブのフォームを気にし過ぎて、かえって調子を崩したのだといいます。
当時の彼女を知る人なら、明らかに「サーブがオカシイ」と気づいたものでした。
「どうやって階段を降りているかなんて考えていたら、転がり落ちちゃうでしょ?」(原文ママ)。
▶意識して体を動かすようには「できていない」
フォームについて考えたら、階段さえ降りられないと、絶不調時を顧みたイバノビッチ。
人間の体は本来、身体動作(フォーム)を意識して、動かすようにはできていません。
これは自然界の動物も、みな同じです。
そしてそもそもわれわれも、人である前に動物。
チーターが、いくら足が速いからといって、まさか太ももの上げ方とか、ヒザの曲げ伸ばし方とか、腕(になるのかな?)の振り方とか、「意識」していませんよね。
そういうフォームを考えながら運動すると、動物としてもともと持っているはずの、生命力とか躍動性とか、自由に動き回る闊達性とかが、損なわれてしまうのです。
▶「腕を振って! 足を上げて!」の不自然
ところが私たちは小学校に入ったときから、運動会の予行演習はもとより、あるいは体育の授業でも、口酸っぱく「腕を振って! 足を上げて!」と、先生から教えられました。
まだ何も分からない小学1年生のころから、体はそうして意識しながら動かすのが「正しい」などと、思い込む。
しかも私の場合に限って言えば、体育専門教員でもないその先生は大学を出たての、まだ女子大生の面影を残す、今思えば「能力発揮のスポーツ指導」などができていたとは、(決めつけるのはよくないですが)到底思えません。
2023年の今ですら、「スポーツ指導の専門家」でさえ、疑わしい実情。
有り体にいえば、間違いだらけのありさま(だと主観的には思っています)。
▶1日3食? 「飢えたら食べる」でよいのでは?
少し話は逸れますが「思い込み」について別の例を挙げれば、「1日3食」などという知識も、物心ついたころから「常識」として教わりましたが、本当に「正しい」のでしょうか?
私たちは、人である前に動物です。
動物ならば、1日の回数など事前に決めつけず、「飢えたら食べる」、でいいのではないでしょうか?
そうでなければ、生命力とか躍動性とか、自由に動き回る闊達性とかが、損なわれてしまうのです。
食べすぎて、体が動かなくなるとか、内蔵が疲れるとか、病気になるとか……。
だとしたら「1日3食」を提唱する常識には、何か(医学的に? 食品流通的に?)、「裏がある」のかもしれません(参考記事:カロリー計算でダイエットはできない)。
▶「自分の感覚」に素直になる
閑話休題。
とにかく、「思い込み」を外して、改めて「自分の感覚」に、素直になることです。
イバノビッチの話に戻すと、世界的トッププレーヤーですら、なぜ自分が上手く打てるのか、自分がどうやって上手く打てているのか、分かっていません。
それはそうです。
物心ついたころからできるようになっていたのですから、彼ら、彼女らにとってテニスなんて、感覚的には、箸を使ったり、自転車に乗ったりするようなもの。
ですからトッププレーヤーであっても、「自分はテニスができる」からといって、テニスを指導できるわけでもないのです。
まさに「名選手、名監督にあらず」ですね。
このあたりから、スポーツ指導のあり方を変えていく必要がある。
▶「見た目は簡単」そうなのに「テニスが難しい」のはなぜ?
元プロの経験者に任せてばかりいても、難しいのです。
プロ級の彼ら、彼女らにとっては、未熟なプレーヤーが苦労するテニスのラリーについて、「なぜこんな簡単なことすら、大の大人になってできないのか?」と、本当に首をかしげてしまうくらいのものなのです。
ゴルフみたいに、小さいボールを打つわけじゃない。
サッカーみたいに、足を使って蹴るわけじゃない。
野球みたいに、細長い棒で打ち返すわけじゃない。
卓球みたいに、狭い範囲を狙うわけじゃない。
バレーボールみたいに、毎回飛び跳ねながら打つわけじゃない。
テニスなんて、大きな網の目のついたラケットで、フェルトに覆われた柔らかなボールを、目の前に展開する広い相手コート側へ向かって打ち返すだけの競技です。
見た目には、「いかにも簡単」そう。
だけど実際にやってみると、ほかのスポーツとは、比べものにならないくらい難しくて、初心者であれば、ラリーを1往復すらまともに続けるのもひと苦労です。
▶「基本のラリー」がまともにできない
野球なら、基本のキャッチボールくらいは、初心者でもある程度できるでしょう。
サッカーなら、基本のパスくらいは、初心者でもある程度できるでしょう。
野球やサッカーが、簡単だと言っているわけではありません。
またもちろん、何をもってできるかという解釈も人それぞれです。
だけどテニスは、10年選手であったとしても、基本のラリーすらまともにできない人が、ゴマンといるスポーツなのです。
先ほどスポーツ指導について、「元プロの経験者に任せてばかりいても、難しい」と述べました。
「名選手、名監督にあらず」だからです。
名選手で名監督といえばこちらでご紹介している長嶋茂雄さんでしょうけれども、「カンピュータ」などと半ば特別視(可笑しみ)の対象ではないでしょうか?(参考記事:電話越しに「そうだ、それでいい!」)
▶気にしなくても(気にしないから)打てる
イバノビッチに限らず、プロは自分がどうして上手く打てるのか、自分でもよく分かっていません。
お便り内容のとおり、プロではなくアマチュアのテニス上級者も、同じです。
「フォームとかは全然気にしていない」「感覚で打っている」「どうやって打っているのか自分でもよくわからない」が本音。
この上級者さんは、常識的な「思い込み」を盲信するのではなく、自分の「感覚」に素直なのですね。
言葉を変えれば、そんなの気にしなくても(気にしないから)打てるのです。
▶頭で考えてプレーする「弊害」
理解が深まりやすいと思いますので、昨日のテニス上達メモより「なぜ、仕事ができる人ほどゴルフが苦手なのか?」から追記してみます。
仕事のできる人ほど、ゴルフが苦手な(人が少なくない)のは、メンタルトレーナーの岡本正善氏が指摘する「失敗に対する免疫」が関わる話もそうですけれども、それ以前に、現代のビジネスパーソンは、「頭で考えてプレーしようとしてしまう」からなのです。
思い当たるフシは、ないでしょうか?
ここからは、批判ばかりしたいわけではなく(逆にご批判も覚悟のうえで)、客観的事実をお伝えし、日本にはびこる常識的なスポーツ指導のあり方に改善を促したいと思って、書きます。
現代社会の仕事というのは、肉体労働でもない限り、多くの場合、頭で考える業務がほとんどでしょう。
そしてそういう人たちは往々にして、スポーツに取り組む際も、「頭による理解」から入りがちです。
書店に売っている本や雑誌を読んで、ゴルフであればドライバーの飛ばし方、パットの入れ方、テニスであればスピンサーブの回転のかけ方、ボレーで振り遅れないコツなどを、「頭で理解」しようとしがち。
やっている内容は、「腕を振って! ヒザを上げて!」から、何も変わっていません。
そしてそれが、「正しい」と思い込むのでしたね。
▶日本スポーツ指導は「フォーム」ばかり
また本や雑誌で紹介されている内容といえば、ほとんどが握り方、引き方、振り方、スタンス、などといった、「フォーム」に関する説明ばかり。
なぜ、こうなるか?
そもそもゴルフやテニスの雑誌、教則本、実用書を発刊している出版社に勤める編集者たちは、大抵(全部が全部ではないにせよ)、文化系出身で、本格的なスポーツ経験があまりない。
大手出版社であるほど、その傾向は顕著です。
大手出版社への就職は、子どものころから頑張って勉強してきた高学歴の新卒が目指す狭き門ですからね。
就職活動を経て入社し、自分が経験すらしたことのないスポーツの雑誌編集部に配属されたりする。
体育会系出身の、「スポーツを体で覚えてきた猛者」など、間違ってもまず、いません。
その結果、発刊するテーマのスポーツをやったことすらない文化系出身の編集者が、企画書を携え、元プロとギャランティを交渉して本を作ろうとするから、企画のスタートラインからして「ズレる」のです。
マニュアルから入りがちな編集者が、その競技についてよく知らないにも関わらず、マニュアルを作ろうとするため、「腕を振って! 足を上げて!」を正しいと疑わないのです。
その結果、分かりやすい見た目の表面的な「フォーム」に着目するという制作プロセスが、当然の成り行きとしてまかり通ります。
▶「感覚で打てばいい!」
また大手出版社の本だと、そのネームバリューを使えたり、広告にお金をかけられたりするぶん、売れるから、そのようなフォーム矯正の常識が、日本のスポーツ指導では支配的になっています。
ちなみに、もちろんスポーツ指導だけの話にとどまりません。
いろんな分野の本や雑誌が、企画のスタートラインからして「ズレる」のです。
目に見えるスイングやフォームについて検証し、頭で理解した理論を後づけするのは「解説者」です。
目に見えないイメージや感覚を身につけるコツを上手く伝えられるのが、「指導者」です。
ですからご相談者さんのおっしゃる、テニスのとても上手なプロ級の方が、「フォームとかは全然気にしていない」「感覚で打っている」「どうやって打っているのか自分でもよくわからない」というのは、ごもっともな話。
だからといってまさか、「感覚で打てばいい」とコーチが生徒に伝えるレッスン内容では、スクールとして「月謝をいただけない」事情もあるに違いない。
でもここに、テニス上達のヒントがあります。
▶能力を発揮するメカニズムは「みな共通」
野球であろうと、サッカーであろうと、ゴルフであろうと、バスケであろうと、テニスであろうと、人間が能力を発揮するメカニズムは、みな共通。
「テニスゼロ」は硬式テニスの話がメインのコンテンツですが、ユーザーさんにはソフトテニス選手、卓球選手、あるいは音楽家の方もいらっしゃいます。
お伝えする内容はみな基本的に同じで、イメージの安定化と、集中力発揮のメカニズム。
イメージが安定すると、いつもどこでもどんなときも、普段どおりのパフォーマンスを発揮しやすくなります。
対象へ向けた集中力が高まると、ボールが大きく見えたりします。
▶追伸1:藁をもつかむ思いで情報にすがる人たち
とはいえ、フォーム矯正などサッサとやめるべきだと気づくイバノビッチのセンスはさすが一流。
悩み始めると、藁をもつかむ思いで、そういった情報にすがりたくなります。
惜しむらくはこの一点に気づけないがためだけに、スポーツ愛好家の皆さんのなかには、フォームを気にして「階段を転げ落ちてしまっている人」が本当にたくさんいます。
▶追伸2:「頑張ってはいけない」理由
あと、頑張ってはいけません。
頑張るのは、顕在意識によるあがきでしかないのですから。
それは、潜在意識による無心のプレーを妨げる。
頑張ると、無心から遠ざかります。
「どうなるのか、やってみてくれ!」と、潜在意識にドーンと預けてしまうという手もあります。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero