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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2024年5月の記事一覧

『説教と神の言葉の神学』(カール・バルト:加藤常昭・楠原博行訳・教文館)

『説教と神の言葉の神学』(カール・バルト:加藤常昭・楠原博行訳・教文館)

以下は、カール・バルトのよく知られている、1922年に語られた講演「キリスト教会の宣教の困窮と約束」の新しい翻訳である。――ここから「はじめに」が始まる。訳者のひとり、加藤常昭氏の手によるものである。本書の発行後、一か月を待たずして、召されることとなった。
 
主宰する説教塾で必要があって翻訳したものである。それが出版に値するということで、「新訳」として世に問われることとなった。これは、百年後の現

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『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

『なんやかんや日記』(武田綾乃・小学館)

接点は、やはり『響け!ユーフォニアム』である。専らアニメでしか知らないのだが、多くの青春群像が描かれているのに、それぞれが生き生きと描かれ、それぞれの個性がぶつかりあい、それでいて心の中に深まる何かが感じられる。こうした描き方ができるのは、たぶん天性のものだと思う。この作品、シリーズで続いていったが、最初のものは21歳で出している。ちょっと妬ましいほどの活躍である。
 
その作者のエッセイがあると

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『音楽とは何か』(田村和紀夫・講談社新書メチエ521)

『音楽とは何か』(田村和紀夫・講談社新書メチエ521)

タイトルが、恰も哲学の問いのようである。スケールが大きいものか、という期待を抱かせるものだが、必ずしもそうではない。サブタイトルに「ミューズの扉を開く七つの鍵」という言葉が見える。ギリシア神話の音楽の神である。実は音楽に限らず、文芸から舞踏など、広く芸術にまつわる神の名であるが、通常音楽をメインに私たちは捉えている。だからmusicなのである。但し、ギリシア語では「ムーサ」が神の名であり、9人の娘

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『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

『宗教と子ども』(毎日新聞取材班・明石書店)

当然、と言ってもよいと思う。2022年7月8日の安倍元首相銃撃事件から、毎日新聞社に、ひとつの取材が始まった。
 
宗教とは何か。これを問うことも始まった。特にその狙撃犯が位置しているという「宗教2世」という存在に、世間が関心をもった。次第にその眼差しは、彼らを被害者だという世論を巻き起こしてゆく。そして、子どもに宗教を教えてはいけない、というような風潮が、「無宗教」を自称する人々により、唯一の正

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『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

『現代思想04 2024vol.52-5 特集・<子ども>を考える』(青土社)

曲がりなりにも教育を生業としている以上、「子ども」が特集されたら、読まねばなるまい。「現代思想」は、多くの論者の声を集め、内容的にも水準が高い。そして同じことを何人もが述べるのではなく、多角的な視点を紹介してくれる。「こどもの日」ということで、こどもへ眼差しを向けてみよう。
 
確かに多角的だった。全般的な対談に続いては、「家族」「法律」「制度」「学び」「未来」といった概略に沿った形で、論述が進ん

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『説教25 説教塾紀要』(教文館)

『説教25 説教塾紀要』(教文館)

自分の手の届く世界ではなかった。説教のプロたちの営みは、遠い雲の上の世界だった。「説教塾紀要」の存在は知っていたが、自分が読むようなものではない、と思っていた。
 
だが、主宰の加藤常昭先生の最後の説教が掲載されていると聞き、迷わず購入の手続きをとった。2024年3月発行の最新版である。
 
2023年10月8日のその礼拝の末席を私は汚していた。加藤先生と時を共有してその説教を聴くのは、初めてだっ

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