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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2024年1月の記事一覧

『中村哲 学習まんが世界の伝記NEXT』(ペシャワール会監修協力・集英社)

『中村哲 学習まんが世界の伝記NEXT』(ペシャワール会監修協力・集英社)

学習まんがであるから、小学生のためのものと見てよいだろうと思う。これを電車の中で読んだから、大変なことになった。涙が止まらないのである。そして鼻水も次々に出てくる。
 
子ども用だから、とても素直に描かれている。回りくどいことなく、スッと入ってくるように展開するし、いわば教育的につくられているのは当然である。醜いものを見せようとはせず、その他は子どもの想像力に任せるような、きれいな作品である。
 

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『イエスの降誕物語 クリスマス説教集』(及川信・教文館)

『イエスの降誕物語 クリスマス説教集』(及川信・教文館)

日本基督教団の牧師である。その説教集が何冊か出版されている。私は好きだ。
 
神の言葉を自分における出来事として聴く。それを語る。また、安易にキリスト教を弁護しない。むしろ、キリスト教世界や教会の中に、とんでもない罠が潜んでいることを感じており、それを告げるのに憚らない。
 
私がもし牧師だったら、きっとこの人のように語るだろう。考えるだろう。だから好きだ。非常に共感できる、ということだ。
 

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『神の国 説教』(及川信・一麦出版社)

『神の国 説教』(及川信・一麦出版社)

体を壊しての中で、教会で説教を語り続ける。偶々その教会から転任してゆく頃に、ルカによる福音書から講解説教を展開した。今回、その中から特に「神の国」を含む聖書箇所から語られた説教だけが集められた。ユニークな編集である。
 
神の国。それは、神の支配を意味する語である。教会で説教を聞く者は誰でも知っている。土地のことを指す言葉ではない。そして、一般にしばしば「天国」と呼ばれているものがそれであることも

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『アリアドネからの糸』(中井久夫・みすず書房)

『アリアドネからの糸』(中井久夫・みすず書房)

まずタイトルについてご説明申し上げる。著者は「あとがき」で、「ご存じ……」と書いているが、私のように知らない方もいるかもしれない、と考えたからである。「ギリシャ神話の迷宮の王ミノスの娘で、迷宮の奥に怪物をさぐろうとするテセウスに、帰りの道に迷わないようにと糸を渡す」との説明が施されている。著者が「アリアドネからの糸」という題をつけたのは、「その能力がないのに、準備不足なのに、糸を渡されてしまったと

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『街とその不確かな壁』(村上春樹・新潮社)

『街とその不確かな壁』(村上春樹・新潮社)

2023年の春、本書の発売がニュースになっていた。650頁ほどの本だから割は合うが、3000円くらいかかるというのは痛い。またそのうち手に入るだろう、ということでのんびり構える程度のファンである。だから、半額くらいで入手できるようになるまで半年待っていたことになる。それだけの時間をかけるほどの価格かどうかはさておき、読みたいときに読めばよいという考えも、私らしくてよいかもしれない。
 
小説である

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