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本とのつきあい

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本に埋もれて生きています。2900冊くらいは書評という形で記録に残しているので、ちびちびとご覧になれるように配備していきます。でもあまりに鮮度のなくなったものはご勘弁。
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2022年3月の記事一覧

『いつもの言葉を哲学する』(古田徹也・朝日新書)

『いつもの言葉を哲学する』(古田徹也・朝日新書)

2021年12月発行。ウィトゲンシュタインについての分かりやすい本を書いた人だと後で気づいた。言語についての堅い話がお得意である。が、これは至って分かりやすい。「いつもの言葉」なのだ。なにげなく広く使われている言葉遣いだが、ふと考えると、何かおかしい。違和感が消えない。そんな言葉があるものだ。私は実はかなり多い。こだわる必要のない場面もあるし、事実使っているのだが、何か引っかかる。抵抗がある。そん

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『感染症としての文学と哲学』(福島亮大・光文社新書)

『感染症としての文学と哲学』(福島亮大・光文社新書)

2022年2月の発行。著者は中国文学科卒業だというが、そんな気配は少しも感じられない。西洋文学中心かと錯覚していた。文章が巧い。読ませる力があり、それはまた、読者がすいすい読めていながらちゃんと内容が把握できていくということである。一読して何が言いたいのかが伝わり、また少し複雑なところは、ただ読めば説明が即座になされるというようなスタイルで、読者に悩ませる暇を与えないのである。
 
もちろん、20

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『シャローム・ジャスティス』(ペリー・B・ヨーダー:河野克也・上村泰子共訳:いのちのことば社)

『シャローム・ジャスティス』(ペリー・B・ヨーダー:河野克也・上村泰子共訳:いのちのことば社)

題が内容のすべてを表すようなものである。「シャローム」というのは旧約聖書の原語であると言ってよいヘブライ語で「平和・平安」、「ジャスティス」は英語の「正義」というところだろう。これらが一体化するものであるというのが、本書が一貫して主張するところである。それが、理論的概念的に展開するというのではなく、副題にある「聖書の救いと平和」とあるように、聖書の理解という意味で説かれるのが特徴であると言えるし、

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平家物語にハマっている

平家物語にハマっている

アニメーションが、今年1月から放映されている。幸い福岡の地上波テレビでも放送され、欠かさず見ている。もちろん、日本の古典文学と言えるあの『平家物語』であるが、語り手たる架空のキャラクターを入れて、巧妙なアレンジを呈している。
 
語り手は「びわ」と呼ばれるようになった、琵琶弾きの少女。平家の武士に父を殺されるが、清盛の長男の平重盛に拾われて平氏と共に暮らすようになる。母を探す目的もあったが、平家の

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『神様2011』(川上弘美・講談社)

『神様2011』(川上弘美・講談社)

小川洋子さんが、毎週1冊の本を紹介する、FMラジオの「パナソニック メロディアス ライブラリー」で、次週扱うという予告を聞いて注文したのが日曜日。月曜日に届き、火曜日に読み始め、読み終わった。なんといい時代なのだろう。
 
番組で取り上げることになるのは、3月11日直前の放送日だからだというが、このタイトルに付く「2011」は、もちろんその東日本大震災のことを意味している。しかも、福島の放射能漏れ

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『遺体』(石井光太/新潮文庫)

『遺体』(石井光太/新潮文庫)

2011年10月に発行されたものの文庫版が、2014年に発行されている。
 
東日本大震災の後間もなく取材に入り、関係者と接触する。東北に特に関係があるのでもない。著者は、いわばルポライターである。現場での取材をモットーとして、報道されない人間の真実に近づいて描こうとする。東日本大震災は大きな課題となった。だがもちろん、それは自分の仕事のためだということで素材にしているというわけではないだろう。こ

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