碧空戦士アマガサ 第2章(12)
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(承前)
- 1.相棒(12/完) -
その背からパラパラと壁の破片を零しながら、"鉄砲水"の身体が前方に傾ぐ。その口から漏れるのは、力なき怨嗟の声。
「クソ……が……」
怪人は辛うじて、崩れ落ちるのを踏みとどまった。ゆらりと顔をあげ、残心するアマガサに向かい、唸る。
「……"ついで"の……分際で……!」
中庭に降り注いでいた天気雨は、すっかりその勢いを失っていた。"鉄砲水"はもう限界に近い。アマガサは手にした傘銃を空に向け、雨狐に言い放った。
「──この雨を、終わらせるよ」
「黙れェェッ!」
"鉄砲水"はフラフラと歩み出ながら、アマガサに扇子を向けた。その頭上で水弾の形成がはじめる。しかしアマガサは、ただ冷静に、引き金を引いた。
『妖力、解放!』
カラカサの声が辺りに響いて、その銃口から白い光が放たれる。
中庭に降り注ぐ雨が虹色の光を帯びた。晴香の眼前に残っていたアマヤドリが消滅し、"鉄砲水"の頭上に生成された水弾もまた、消滅する。
「なっ……!?」
驚愕の声を上げる"鉄砲水"の周囲においても同様に、天気雨が虹色に輝きだした。それはやがて大きな虹を形作り、"鉄砲水"に巻きつき、拘束する。
「っ……動けん……!?」
呻く"鉄砲水"を見て、アマガサは傘銃を降ろし、跳び上がった。白銀の身体が虹色に輝く空を舞い、強く輝きを帯びる。
「明けない夜はない、止まない雨はない」
アマガサは呟き、右脚を"鉄砲水"に、左手に携えた傘銃をその反対側に向ける。
「お前らの雨は──俺が止める」
『出力全開!』
カラカサの声と共に、アマガサは引き金を引いた。銃口から白光が迸り、その身体が加速する。
"鉄砲水"はもがくが動けず──音速の蹴撃が、その身体に突き刺さった。
「くそっ……ガッ……アアアア!」
怨嗟の篭った断末魔を残し、"鉄砲水"は爆散した。
虹の光を浴びながら変身を解除して、アマガサ──湊斗は、担いだ傘に呼びかけた。
「お疲れさん、カラカサ」
『おつかれー!』
***
「畜生、全部ぐっちゃぐちゃだ」
中庭に散乱した衣類や日用品──昼間自分たちが買ったものたちを拾い上げ、晴香は肩を落とす。そんな彼女の後ろから、湊斗はカラカサと共に歩み寄る。
"時雨"からの連携を受け、駆けつけた警察による現場検証が続く、ショッピングモール。中庭は支配人や警察官、目撃者、野次馬など、多数の人で賑わっている。
『姐さん、ちょっといい?』
先に呼びかけたのはカラカサだった。「お」と短い返事と共に晴香は振り返る。
そして湊斗が口を開くより早く、「ちょうどいいところにきた」と晴香のほうが話をはじめた。
「お前ら、あの怪人の目的、なんか知らないか? なんか探してたっぽいし、"ついで"を連呼してたし、なんかあると思うんだが」
「へ? え、えーと」
話をしにきたつもりが、逆に話を振られてしまった。戸惑いながらも湊斗は考え、答える。
「探し物の心当たりはない……かな」
「そうか……」
「ただ、長いことあいつらと戦ってて、わかったこともいくつかあるし……まぁ、落ち着いたら話すよ」
「ああ、頼む」
頷く晴香に向かい、今度は湊斗が話を向けた。
「あー、ちなみに晴香さん、ちょっとお願いっていうか……えーっと、相談っていうか……」
「ん」
──ああ、言いづらい。
湊斗は「あー」と言葉を濁す。
相談というのは、タキが推理した"記憶改竄"の件だった。怪人たちのことや、湊斗自身のことが世間に漏れないよう、今ここにいる目撃者や捜査官たちの記憶を弄りたいのだが──それを晴香に素直に言うわけにもいない。
結果として「なんとかこの場から離れてもらいたい」というのが湊斗とカラカサの結論だった。
とはいえうまい言い訳が出てこず「えー」とか「あー」とか言っている湊斗を見て、晴香は片眉を上げてため息をついた。そして胸ポケットから小さな紙を取り出し、紙面を見せてくる。
「100万円の請求が来てるんだが」
「えっ」『げっ!?』
晴香の手にした紙──請求書に書かれた金額を見て、湊斗たちは悲鳴をあげる。晴香は息を吐き、目を逸らして、言葉を続けた。
「目を瞑っててやるから、5分以内になんとかしろ。"いつもみたいに"な」
「え、それって──」
「わかってるとも思うが、私たちの記憶まで消したらぶっ飛ばすからな」
晴香はそう言うと、中庭の入り口付近にいた相棒──タキの方へと歩き出した。その後ろ姿を見ながら、湊斗は思わず吹き出す。
「全部、お見通しだったね」
『姐さん完璧すぎて、もはや怖いや……』
「それはあるねぇ……」
そんな会話をしながら、湊斗は相棒と共に、"記憶改竄"の準備をはじめ──こうして、この事件もまた迷宮入りの超常事件として処理されることになる。
真っ赤な夕焼け空の下、その秘密を知る四者は互いに視線を合わせ、片眉をあげるのだった。
(第2章 第1話「相棒」 完。第2話につづく)
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