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碧空戦士アマガサ 第1話「邂逅」 part1(初版)

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加筆・修正・リライトを施した再放送版が配信中です。
再放送版のほうがアマガサの世界への理解が深まると思いますので、そちらを読んでもらえると嬉しいです。
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- 第一章 邂逅編 -

【これまでのあらすじ】
 河崎晴香は超常事件"底なしの水溜り"の調査中、怪人・雨狐と遭遇した。
致命傷を負い絶体絶命の晴香。それを救ったのは、彼女が探す重要参考人、通称"アマガサ"であった。
 晴香が意識を失う寸前、"アマガサ"は「変身!」という声とともに、白い光に包まれ──?

[プロローグ] [1] [2] [3] [4] [5] [6] [キャラクター名鑑]

- 第1話 邂逅 -

 姐さんが大怪我した状態で発見された。あのひとをこんな目に遭わせるなんてゴジラでも無理だろうと思(中略)。姐さんは常人なら全治1ヶ月の傷を1週間で治して帰ってきた。けど、他の被害者同様、事件当時の記憶がないらしい。
 ────超常事件対策特殊機動部隊"時雨"活動日報より抜粋

 晴香はトングで肉を1枚掴むと、網の上に広げた。ジュウと空腹に響く音。煙が立ち上り、彼女の鼻腔をくすぐる。10秒ほど焼いたところで裏返すと、美味しそうな音は更に大きくなり、彼女を至福へと誘う。

 晴香はきっかり10秒間その音を楽しんだ後、自分の箸で肉を引き上げ、ライスの上に──

「いや姐さん、いつも言ってるけど早いですって」

 晴香の最高に幸福な瞬間に水を差したのは、向かいに座るラグビー選手のような体格の男だ。滝本晃明、愛称はタキ。晴香の後輩であり、現在の調査のパートナーだ。

「それほぼ生じゃないっすか。腹壊しますよ」

「大丈夫、牛肉は完璧だ」

「ええ……」

 ここは晴香の馴染みの焼肉屋だ。ランチタイムには少し遅い時間帯で、店には晴香たちを含め2組しかいない。

 先日の事件で大怪我をした晴香は、1週間の入院を余儀なくされた。退院を迎えた今日、晴香は調査状況の整理のためにランチミーティングを実施することにしたのだった。参加者は3名。晴香とタキ、そして電話越しに本部にいる隊員・乾 慎之介。

 彼女たちは、警視庁直属・超常事件対策特殊機動部隊"時雨"に所属する、特殊部隊の隊員だ。主なミッションは先日のような超常事件の調査および解明、解決。晴香の祖父が隊長を務め、晴香は副隊長。タキはIT顧問、乾は諜報班長の任に就いている。

 超常事件は半年ほど前から散発的に発生しており、発生順に番号が振られている。ケース01"溶解するビル"、ケース02"殴り合う町"、ケース03"鬼火の行列"、ケース04"底なしの水溜り"──それぞれかなりの被害が出ている上、捜査に大した進展がないのが現状だ。

 今回、晴香が直接事件の被害者になったことで、事態が動くかと思われていたのだが……。

「……結局、私を含め生存者全員が記憶なしか」

「ですね」

 晴香の言葉に、タキが頷いた。 

 超常事件の共通点は二つ。ひとつは、生存者の証言に"天気雨"という言葉が出てくること。そしてもうひとつは、それ以外の記憶がぽっかりと抜け落ちているということ。現場の監視カメラ映像ですらその時間帯ブラックアウトするので、調査がなかなか進まないのだ。

『死者4名、重体2名、重傷6名、軽傷5名……死者の中には子供も』

「……そうか」

 乾が読み上げた被害状況を聞き、晴香は唇を噛む。

「それで姐さん」と、タキが遠慮がちに口を開いた。

「実際どこまで記憶あるんです?」

「多分、他の被害者たちと同じだ。"アマガサ"の尻尾を掴み、中央公園に踏み込んで、天気雨に降られて……そこまでだな」

『白い雨合羽の男……アマガサ』

 乾が確認するように呟いた。

 "アマガサ"は、晴香とタキが事件現場の映像を眺めているときに偶然発見した男であり、一連の事件の重要参考人と考えられている。

 とある超常事件の現場映像において、事件発生直前、白い雨合羽を羽織り、手に傘を持った男が映っていた。周囲は晴天であったにも関わらずだ。

 その後の乾の調査で、他の事件発生時にも現場付近にいたことが確認され、それを以って重要参考人"アマガサ"として調査対象となった。

「やっぱ、鍵となるのは”アマガサ”だなぁ」

 晴香は焼きすぎた(晴香基準)肉を引き上げながら呟いた。

「ですねー。実際に原因なのかはさておき、アマガサを追っかけて姐さんが怪我したのは事実ですし」

『晴香さんが入院している間、タキさんにも協力してもらって捜査・追跡システムを構築しました。試験段階ですが、実用は可能です』

 乾の言葉を受けて「じゃあ、」と晴香がなにやら言おうとしたその時だった。

「ごちそうさんでしたー」

 店内にいたもう1組が席を立つ。4人組のうち3名は先に外へ出て、ひとりがレジの前に。

 あいよーと店長の間の抜けた声が奥から聞こえてくる。晴香がなんの気なしにそちらに目をやった、その時だった。

 レジの前に立っていた男が、金を払わずに店から飛び出した。

「あーっ!」店長が悲鳴をあげる。

「おいおい集団食い逃げかよ!?」

 狼狽えるタキに向かい、晴香は伝票を投げつけた。

「タキ、荷物頼むわ」

 言うやいなや彼女はテーブルを立ち、上着を手に店を飛び出した。

(つづく)


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