碧空戦士アマガサ 第2章(5)
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(承前)
- 1.相棒(5) -
『言わんこっちゃない』
地面に横たわったカラカサはぽそりと呟いた。
その視線の先には、雨狐の攻撃を避け続ける晴香の姿。そして背後からは、シャッターがガタガタと揺れる音。閉じ込められた湊斗が脱出を試みているようだ。
当のカラカサは、野次馬の目があるため元の姿に戻れず、仕方なく番傘の状態で雨に打たれている。
状況を改めて確認し、カラカサはため息をついた。
『"いい人"だとか関係ないんだよ。なんにもできないじゃん、あの人も』
妖力を持たない晴香は、雨狐に有効打を放つことができない。だから攻撃を避け続けるしかないし、そのうち逃げ出すだろう。少し考えればわかることだ。
にも関わらず、湊斗はカラカサを手放し、あまつさえ晴香に手渡したのだ。気を抜きすぎにも程がある。
『どうせ、あの人も逃げるんだ。他の連中と一緒だよ』
実際、晴香は持ち前の身体能力で雨狐の攻撃を避けながら、徐々に中庭の出口へと移動している。中庭を彷徨うアマヤドリたちには御構い無し。あれもカラカサたちにとっては殲滅対象なのにだ。
『自分たちは逃げるから、あとは湊斗が頑張って……でしょ。いつものことじゃん』
例えばこのまま湊斗が脱出できず被害が出れば、それらも全て湊斗のせいになる。これまでに何度も経験したことだ。自称協力者たちはいつもそうだ。
それが煩わしくて、目撃者たちの記憶をまとめて消すようになったのではなかったか。湊斗はそんなことも忘れてしまったのか──
カラカサの中でふつふつとした怒りが湧き始めた、その時だった。
「……よし、やるか」
晴香がぽそりと呟いたのを、カラカサは妖怪の聴力で聞き取った。
『えっ?』
そして突如、晴香は雨狐に向かって全力でスプリントをはじめた。
晴香の走る経路上にはベンチがあり、そこには先ほど湊斗が抱えていた紙袋が置き去りにされている。
彼女は走りながら手を伸ばし、雨に打たれる紙袋のひとつを手にとって、雨狐に投げつけた。全力疾走の勢いと晴香のパワーにより凄まじい速度で飛んだ紙袋は、中身──大量の衣類を盛大にぶちまけて雨狐の視界を妨害する。
「ヌゥッ!?」
目くらましに紛れ、晴香はカラカサのほうへと進路を変える。
『え、逃げたんじゃ──』
「タキ! 客の避難は完了! さっさと脱出してこい!」
カラカサの声を遮り、晴香は走りながらシャッターに向かって指示を出した。
『避難……?』
「貴様っ……ナメたマネを!」
カラカサのもとへ、晴香は走ってくる。その背後で、雨狐が叫んだ。その頭上に膨大な雨水が集まり、弾丸を形成する。
「死ねィッ!」
「っ──カラカサ!」
『わっ!?』
水弾が放たれる。晴香は跳び、地面を転がりながらカラカサを拾うと、開きながら言った。
「なんとかしろ!」
『えーっ!?』
カラカサは声をあげながらも、水弾に向かって頭を──傘の先端を向ける。
開いた傘の盾に、水弾が直撃。コンクリートをも砕く水弾の衝撃がカラカサを貫き、持ち主である晴香の全身に襲いかかる。彼女は歯を食いしばり耐えている。
カラカサはその様子を、信じられない様子で見ていた。
『な、なんで? 逃げたんじゃなかったの?』
「逃げるわけあるか。客の避難が優先だっただけだ」
ふらつきつつもしっかりと立ち上がった晴香は、カラカサを手に雨狐と対峙する。
そして凛とした眼差しで、言葉を続けた。
「カラカサ、この状況を打開する。力を貸してくれ」
(つづく)
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