ていたらくマガジンズ__3_

碧空戦士アマガサ 第2章(1)

- 第2章 調査編 -

(これまでのあらすじ)
 天気雨と共に起こる超常現象で人々が犠牲になる──通称"超常事件"。河崎晴香はその解決を使命として組織された機動部隊の副隊長だ。
 調査の中で晴香は、超常事件を引き起こす怪人・雨狐、およびその"天敵"を自称する青年・天野湊斗と遭遇する。
 100体の怪人を前に、晴香は湊斗に協力を要請する。初めは頑なであった湊斗は、晴香の正義への熱意に負け、要請を受け入れたのだった。

[目次] [プロローグ] [第1章] [キャラクター名鑑]

第2章 前編[1][2][3][4][5][6]
後編 [7][8][9][10][11][12]

- 1.相棒(1) -

 業務連絡。ついこないだ大怪我で入院した晴香さんですが、退院したその日にまた怪我したとかで、今日明日は休むそうです。タキさんも同様。とりあえずトラブル時は乾までエスカしてください。
   ────超常事件対策特殊機動部隊"時雨"活動日報より抜粋

 都内某所、古い家屋の並ぶ住宅街の一角に、今時珍しい町道場がある。"河崎道場"と看板が掛けられたそこは、警視庁武術顧問・河崎光晴が営む古武術道場だ。そして、晴香とタキの下宿先でもある。

 時刻は午前6時。いつもなら朝稽古で賑わう道場は、ため息すら聞こえるほどに静かだ。壁際に正座した門下生たちは、皆一様に道場中央へと視線を向けていた。

 そこでは、晴香と湊斗が対峙していた。
 両者ともに胴着に身を包み、2mほどの間隔をもって構えている。二人の間には立会人として道場師範・河崎光晴が佇んでいる。

 異様な緊張感の中、光晴がスッと息を吸い──口火を切る。

「はじめィッ!」

 開戦の合図とともに両者は同時に踏み出し、間合いを詰める。
 先に仕掛けたのは晴香だ。渾身の叫びと共に放たれた拳を、湊斗は軽く受け流した。
 その口からシュッと細い息が漏れる。晴香は咄嗟に脛をあげた。ズシン、と湊斗のローキックが炸裂。脛で受けなければ足を折られていた。晴香は獰猛な笑みを浮かべ、攻勢を強めていく。

 タキを含めた門下生たちが見つめる中、一進一退の攻防が続く。その戦いのすべてを、光晴はじっと見守っている。

 ──事の発端は、先日の雨狐戦……100体のアマヤドリとの戦いの後まで遡る。

***

「道場の居候?」
「そ。どうせ行くトコないんだろお前」

 湊斗の言葉に、晴香は頷いた。

 たくさんの人が倒れ伏す、オフィスエリア。アマヤドリの最後の一体を倒すと同時に天気雨はやんだが、雨の精神汚染の影響か誰も目覚める気配がない。そんな人々の間を歩き回りながら、タキは慌ただしく本部に連絡している。

 そんな様子を眺めながら、根無し草で行き場のない湊斗に対して晴香が持ちかけた提案が、河崎道場にしばらく滞在することだった。

「私たちとしても、すぐ連絡取れる場所にお前がいたほうがなにかと都合が良いしな」

「まぁ、実際今日も野宿だったろうし……助かるよ」
『久々に暖かいところで寝られるなぁ』
 湊斗の傍に佇むから傘お化け──カラカサが楽しそうに言った。

「あー、ただな……」
 乗り気な湊斗とカラカサ。しかし晴香は、ひとつの懸念点を告げる。

「門下生になるか、もしくは"時雨"に入隊する必要がある」

「なにかあるの?」
 なにか特殊な事情があるのかと、湊斗が身構える。
 晴香は神妙な顔で口を開いた。

「じゃないと、たぶん家賃を取られる」
「それは困る」
 湊斗はほぼ無一文だった。

 かくして、湊斗は河崎道場の門を叩くに至る。

 晴香の計らいで"流れの武道家"と紹介された湊斗を見て、師範・光晴は厳しい眼差しで言ったのだった。

「明日の朝稽古で晴香と組手をやってくれ。結果はそれで決める」

***

 両者の実力は互角。少なくとも、タキにはそう見える。

 晴香の拳を湊斗はいなす。湊斗の蹴りを晴香は防ぐ。晴香の強みはケタ違いのタフネス。一方の湊斗はスピードがある。どちらも一長一短といった具合だ。

 しばし打ち合いが続き、晴香の声と、湊斗の息の音と、打撃音だけが道場内を満たしていく──その時。

「ォラァッ!」

 気合の入った声とともに、晴香は少し大振りに右拳を繰り出した。湊斗はその拳に手を添えていなす。少しだけ晴香の体制が崩れた。
 湊斗は後ろ回し蹴りで、晴香の腿を狙った。晴香は咄嗟に脛を上げそれを受ける。

 さらに湊斗はその体制から、同じ脚でハイキックへと繋いだ。晴香はそれを屈んで回避し、反撃に──否。頭の上で両腕をクロスさせる。

 ドウッ!

 そこに湊斗の踵が落ちてきた。重い衝撃が晴香を揺らす。ハイキック姿勢からの変則蹴りだ。

「危ね」
 晴香は呟く。目を見開いた湊斗に向かい、晴香は足払いを掛けようとした。しかし──「セァッ!」湊斗が叫んだ。

 刹那、晴香の眼前に、湊斗の蹴り足が迫っていた。

 晴香が受け止めた脚を起点に飛び上がり、反対の脚で蹴りを放ったのだ。それは俗にサマーソルトキックと呼ばれる空中殺法だ。 

「どぁっ!?」
晴香は咄嗟に仰け反り、その勢いのままバク宙する。湊斗もサマーソルトキックの勢いで宙返りし、空中で体制を整える。

 ズダンッ!

 着地は同時。

 晴香は即座に攻撃に転じ、湊斗の顔面に右ストレート。
 対する湊斗もまた着地と同時に攻撃に転じ、晴香の顔面に左ストレート。

 両者の拳は、互いの鼻先1cmのところで寸止めされた。

「──そこまでッ!」

 光晴の声が、道場に響く。両者は構えを解くと互いに二歩下がり、一礼した。板張りの床に汗が落ちる。朝稽古でこんなにも汗をかいたのはなん年ぶりだろう、と晴香は思った。湊斗も同様に汗まみれだ。

「いや、大した腕だね」

 胴着で汗を拭う二人を見ながら、光晴はそう言った。緊張が解けたのか、他の門下生たちからも声が漏れる。

「ありがとうございます」
 湊斗は肩で息をしながら、光晴の言葉に応えた。
「だろ? 強いんだよこいつ」
 孫娘の言葉に、光晴は柔らかな笑みを浮かべて立ち上がる。その体躯はしなやかに伸び、ぴんと張った背筋は歳を感じさせない強さを放っている。

「蹴りが多いね。空手?」
「ええ、ベースは。ただ、ほぼほぼ我流です」
「ほー。大したもんだ」
「で、試験結果は?」
 湊斗と光晴の会話を遮り、晴香が声をかけた。

「うむ。戦いを見るに悪い奴ではなさそうだし、腕もたつようだ」

 光晴は門下生たちを見回した後、湊斗へ向かって言った。

「合格。入隊を許可しよう」

「よっしゃ」
 ガッツポーズを取る晴香のそばで、湊斗はほっと胸を撫で下ろした。

(つづく)


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