碧空戦士アマガサ 第2章(9)
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(承前)
- 1.相棒(9) -
「そうだ、扇子! 晴香さん、アマヤドリと戦えるかも!」
湊斗が言及したのは、先日の事件"殴り合いの町"で大量の怪人と戦った際に、彼から手渡された扇子のことだった。曰く、その扇子はリュウモンという名の九十九神であり、力を借りることで雨狐の妖力に干渉できるらしい。
「時間は稼ぐから、カラカサ。説得よろしく」
晴香にカラカサを手渡しながら湊斗はそう言って、中庭の雨狐たちと徒手空拳で戦い始めた。
「これが……九十九神?」
晴香は手にした扇子を開いた。表面に見事な龍が描かれている。これが"リュウモン"という名前の由来だろう。
扇子を見つめる晴香の横からカラカサが顔を出す。そして、扇子を頭の先端でつついた。
『おーい、リュウモンのじいちゃん。起きてー。出番だよー』
カラカサがノックするが、扇子は応答しない。
カラカサの言葉からすると、眠っているのだろうか……それとも死んでいる? もしかして私、騙されている? などと考えながら、晴香が扇子を裏返したり近づけたりしていると。
『なんじゃい、カラカサ』
突如、手元でその扇子が跳ねた。
「うわっ!?」
死骸だと思っていたセミが急に動いたような気分になり、晴香は思わず手を離した。
しかし扇子は落下することなく、逆に晴香の目の高さまで浮かびあがる。表面に描かれた龍が顔を動かし、じろりと晴香を見た。
『ん……なんじゃこの小娘は。湊斗はどこ行った』
「小娘て」
晴香は言い返そうとしたが、よく考えれば百年以上経った道具が九十九神になるとのことだし、そういうものなのかもしれない。
口を閉じた晴香の傍で、カラカサとリュウモンの会話は続く。
『えっと、この人は晴香さん。彼女に協力──』
『なんじゃ、ただの人間じゃねぇか。おめーら戦いやめたのか?』
『やめてないよ! っていうか真っ只中だよ!』
『じゃあなんで湊斗ひとりで戦っとるんだ!』
『あんたに協力してくれって話すためだよ!』
何故か喧嘩が始まった。
晴香は所在なさげに両者のやり取りを見つめている。タキもそれは同様で、しばらく続く言い争いの中、二人は顔を見合わせる。
協力を要請するカラカサに対し、リュウモンと呼ばれた九十九神は頑なに拒絶を重ねる。
『この小娘になにができる! ただの人間じゃろうて!』
『どうせまた使い捨てられるんじゃ! お断りだ!』
『湊斗ならまだしもコイツラには無理じゃ!』
あんまりにもあんまりな言われように、流石に晴香の額に青筋が浮かんだ。
「このじじい、好き勝手──」
『……お願いだよ、じいちゃん』
口を挟もうとした晴香は、カラカサの声で言葉を止めた。
なにか覚悟したような、というか、なにやらスッキリしたような──そんな声だった。
『……あん?』
癇癪を起こしていたリュウモンもその変化を感じ取ったのか、同様に口を閉ざした。
『……オイラもね、ついさっきまで似たようなこと考えてたんだ』
カラカサは軽く深呼吸し、言葉を続ける。
『今までの人とおんなじで、湊斗に全部責任を押し付けて、利用するだけ利用して。協力とは名ばかりで……って』
言葉を切り、若干申し訳無さそうな顔で晴香に視線を送る。
『でもね、一緒に戦ってみて、もしかしたら違うかもって……オイラはそう思ったんだ。だからさ』
リュウモンを見据えてそこまで言うと、カラカサは頭を下げた。
『……晴香さんを助けてあげてほしいんだ。ほんとに』
そして顔を上げ、リュウモンと晴香を交互に見て。
『大丈夫。晴香さんは、いい人だよ』
どこか恥ずかしそうに、言葉を続けた。
『オイラも、オイラの相棒も認めた、いい人だよ』
(つづく)
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