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碧空戦士アマガサ 第2章(11)

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承前

- 1.相棒(11) -

 ──"疾風怒濤"という概念が人の形を取ったとしたら、それは今の晴香のような姿だろう。

 "鉄砲水"との攻防を続けながら、湊斗はそんなことを考えていた。

 晴香はリュウモンの力を借り、超自然の風を身に纏い戦っている。数十のアマヤドリの群れを相手に一歩も引くことなく、殴り、蹴り、時に風撃を見舞い、次々に怪人たちを消滅させていく。

 戦いの最中、その竜巻のような暴れっぷりを見て、湊斗は思わず笑ってしまった。

「いやぁ、晴香さん味方で良かった……おっと」
 不意に"鉄砲水"が放った大ぶりの一撃を、湊斗はバク転回避した。

「よそ見をするなら死ね!」

 怒鳴り声と共に、"鉄砲水"は湊斗に扇子を向けた。
 その頭上に形成された水弾が、着地したばかりの湊斗に向かって飛来する。と──

『湊斗!』

 背後から声。カランと下駄の音を響かせ、声の主──カラカサは跳躍した。湊斗はそれをノールックでキャッチすると、流れるような動きで開き、先端を水弾へと向けた。

 轟音と共に、水弾が爆ぜる。

 爆ぜ散った水によって作られた虹の下で 、湊斗は涼しい顔で佇んでいた。"鉄砲水"を見据えたまま、湊斗は傘を肩に担ぎ、呟く。

「……さて、俺らも負けてらんないね」

 彼はカラカサを閉じ、天に掲げた。

「行くよ、カラカサ!」
『おうよ!』

 そして、高らかに叫ぶ。

「変身!」

 傘の先から白い光が撃ち出され、湊斗の身体へと降り注ぐ。光は天気雨に乱反射して虹となり、その身体に収束していく。

 光が収まったとき、そこに白銀の戦士"アマガサ"が顕現した。

 天に掲げた真紅の傘銃──西洋のランスにも似たそれの先端を敵に突きつけ、アマガサは凛と言い放った。

「──俺は傘。この雨を止める、番傘だ」

「ちぃっ……!」

 舌打ちと共に、再度"鉄砲水"が水弾を放つ。アマガサは揺らぐことなく、傘銃の先端から光弾を放つ。
 両者は衝突し、対消滅した。轟音がモールを揺らし、水蒸気が立ち昇り──それを切り裂いて、三発の光弾が"鉄砲水"を襲った。

「っ──!?」

 "鉄砲水"は咄嗟に、手にした扇子で光弾のひとつを打ち払い、残りの二発は身を翻して回避する。
 そうして"鉄砲水"が体制を崩した隙をつき、アマガサは間合いを詰めていた。

「貴様ッ──」「遅い」

 短いやり取りと同時に、アマガサはローキックを放つ。"鉄砲水"はそれを脛で防御し──そこでアマガサは即座に脚を引き、同じ脚でハイキックを放った。
「ぐッ!?」
 "鉄砲水"はぎょっとしながらも、辛うじてそれを防御した。ズンッとひときわ重い音が中庭に響く。アマガサの動きが止まった。
「この……"ついで"の分際で……!」
 苛立ちと共に、"鉄砲水"が反撃に転じようとした──その時だった。

「シッ……!」

 アマガサの口元──仮面で覆われたそこから、細く鋭い呼気が漏れた。

 防がれた蹴り足を起点に、アマガサが宙返りした。

 アマガサの反対の足が地から浮く。

 その足が、"鉄砲水"の顔面へと迫る。

 ──"鉄砲水"はその始終を見ていたが、反応できなかった。

 変則的なサマーソルトキックが、"鉄砲水"の顎を蹴り上げた。

「ガッ……!?」

 アマガサの攻撃に脳を揺らされた"鉄砲水"の全身から力が抜ける。期を逃さず、アマガサは着地と同時に蹴撃を繰り出した。

 変身したアマガサの体内には妖力が循環しており、その身体能力は飛躍的に高まっている。それはシンプルな身体強化であるが、それ故に湊斗の武術を強化し──その破壊力を何十倍にも膨れ上がらせる。

 マシンガンのように放たれる蹴りは、"鉄砲水"が崩れ落ちることも悲鳴をあげることも許さず、ただひたすらに急所を貫き、穿ち、抉る。そして──

「──シャッ!」

 最後に、気合いの込もった叫びと共に放たれた後ろ蹴りが、"鉄砲水"の鳩尾にめり込む。

「ッ──」

 悲鳴すらなく、"鉄砲水"は吹き飛び、モールの壁に激突した。

(つづく)


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