抽象絵画との出逢い
抽象絵画再考 序章「抽象絵画との出逢い」
20世紀の抽象絵画を手掛かりに、21世紀に瞑想体験と抽象絵画をブリッジしたメディテーションフィールドを開始、その可能性を追う画家の美術論考。
はじめに
抽象絵画や抽象表現主義の専門的な記述は多方面であるので、この連載では触れず私の創作視点での抽象絵画論を記述します。
私のメディテーションフィールド絵画は、具象、抽象の何方で解釈されても良いものです。
美術史上の分類やドグマは、21世紀の新しい美術の誕生を阻害する事も時にはあります。
2020年2/1−2/22 TARTAROS JAPAN個展「IDEA」みんなのギャラリー展示より
抽象表現主義の代表的作家であるマークロスコは「私の作品は抽象画では無い。生きて呼吸している」と言った様に、作者自身の制作意図は後付された美術概念とは相容れない事もあります。
この論考は、その様な創作者視点での美術論として提示するものです。
私が抽象絵画に表現の可能性を見出した最初の入口に抽象表現主義のマークロスコとバーネットニューマンが居ます。
2015〜16年、瞑想体験を絵画表現に置き換える試行錯誤を始めた頃、瞑想に頻繁に現れるピラミッドをモチーフとして描く時期がありました。
Black Pyramid Black Sea
2016 38×45㎝ TARTAROS JAPAN
Ink, acrylic, oil, canvas
当時イメージに近い絵画表現の画家を探していたところ、巨大な三角形の抽象絵画や、ピラミッドの彫刻を作っていたバーネットニューマンに興味を持ち、周辺の抽象表現主義の作家を含めて研究し始めました。
バーネットニューマンと作品
マークロスコの瞑想的な空間と色面にも強い興味を持ち、画集も購入して研究しました。
マークロスコと作品
この二人は共通するバックボーンがあります。
抽象絵画に至る前に、シュルレアリスムのオートマチックペインティングという手法で幻覚的なドローイングや絵画を追及していた事、ユダヤ系アメリカ人である事、主題モチーフに宗教的なテーマや感覚が用いられる事です。
両者の詳しい推敲は別項で語るとして、私の作品との関係性に絞ってお話します。
先ず彼等がシュルレアリスムから抽象画に至った経緯に興味を惹かれます。
幻覚的なドローイングは後のシンプルな抽象作品とは大きく異なる印象です。
幻覚を超えた神秘的な感覚や空間、鑑賞体験そのものを表現の核にした移行意図が感じられます。
シュルレアリスムを経て具象的なイメージは排除され抽象化されたシンプルな画面に向かったと事が理解出来ます。
バーネットニューマンの初期ドローイング
マークロスコの初期シュルレアリスム的な絵画
私は先ずここに瞑想の抽象化の可能性を感じました。瞑想の特殊な覚醒感覚は言葉や概念では表現出来ない体感感覚を伴うもので、その体感感覚を純粋に追体験するには余分な情報の無い視覚体験が必要です。
ここで簡単な抽象美術の見方を説明すると、
具体的描写があると、鑑賞者は「これは何ナニを表したものだ」「これは何ナニだから私は興味は無い」と観念的に判断する事が先行して、作品を鑑賞しがちです。
抽象化された画面や形では、色や形の純粋な鑑賞体験に限定される故に思考を挟まずダイレクトに感覚的、精神的な領域に訴える力を持つのです。
抽象表現主義の作品は、更に大画面である事で包み込まれる様な瞑想感覚も得られます。
バーネットニューマンの巨大なカラーフィールドペインティング
晩年のマークロスコの抽象画で空間が設計された無宗教のロスコチャペル
私はロスコの作品しか実物を観ていませんが、十分に瞑想感覚に近い体感と視覚体験が混在した独特の鑑賞体験でした。
これは一般的な具象絵画では得られない感覚です。
ロスコの画集に瞑想体験と抽象絵画をブリッジする言葉があります。
1959年ロスコがイタリアを訪れたとき
「自分ではそうとは知らずに、今までずっと神殿を描いて来たんだ」と語ったとあります。
潜在的な具象モチーフを無意識に抽象化して描いていた事実を語っているのです。
クレメントグリーンバーグが定義した抽象表現主義のドグマとは正反対の見解だといえます。
ロスコは何時間、時には数日から数週間に渡って絵を眺め続けたといいます。
これは瞑想と同じ様に深い精神状態を維持して制作していた事が伺えます。
マークロスコの神殿を思わせる作品
抽象絵画は一般的には具象的なイメージや記号は完全に排除された画面で無ければならないというドグマに支配されています。現代美術では特にそういう傾向が強い作品が多い印象がありますが、2010年代に入り別の傾向が現れ始めています。
ヒルマアフクリント(1862年 - 1944年スウェーデンの女性画家、神秘主義者。彼女の絵は最初期の抽象絵画の一つとされる)を起点とした神秘主義と抽象絵画の関係性を欧米の美術館が評価し美術史に加えた事です。
最近は神秘主義的な具象モチーフと抽象絵画を横断する若い画家が欧米で活躍し始めています。
日本では、こういった世界の動向への注目度は非常に低いのですが、欧米では現在進行系の現代美術事象なのです。
ヒルマアフクリントと作品
instagram等でこういった状況を観察していた私は、自分のメディテーションフィールドの方向性に確信を持つ様になりました。
カラーフィールドや抽象表現主義の基底には深い瞑想体験と神秘体験があり、それが人々の心や身体にまでに影響を与え、感動させている本質であるという視点を発見したからです。
メディテーションフィールドは、私自身の瞑想体験を抽象絵画にし、深く瞑想的な体験を追及した絵画シリーズです。
2020年2/1−2/22 TARTAROS JAPAN個展「IDEA」みんなのギャラリー展示より
次回は、私の初期のメディテーションフィールドについて
「瞑想絵画、具象から抽象へ」
でお話したいと思います。
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