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#映画レビュー

Scrapperスクラッパー/シャーロット・リーガン監督(2023)

Scrapperスクラッパー/シャーロット・リーガン監督(2023)

 ミュージックビデオの製作からキャリアをスタートし、BBCからそろそろ長編を撮ってみないかと提案されたというイギリス出身のシャーロット・リーガン監督の一作目。
はじめての作品では、ワーキングクラスを描きたかったという事ですが、ケン・ローチやショーン・メドウス(「This is England」)のような貧しい労働者階級の悲惨さ、出口のなさを描くイギリスの映画特有の曇った空と煤のついたようなグレーの

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全然、日本で公開されないので、イギリスから取り寄せてケン・ローチの「The Old Oak」を観た。

全然、日本で公開されないので、イギリスから取り寄せてケン・ローチの「The Old Oak」を観た。

2023年のカンヌ・フィルム・フェスティバルがワールド・プレミアとなった当時87歳のケン・ローチの最終作となるである最新作「The Old Oak」。
昨年、秋には世界的に公開されましたが、日本では 未だにいつ公開されるかわからないので、イギリスからブルーレイを取り寄せました。
BBCでのディレクターとして、社会主義的な視点で、イギリスの下層階級をリアルに描いてきたケン・ローチ。1990年代に入る

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シャンタル・アケルマン映画祭 2024

シャンタル・アケルマン映画祭 2024

英国映画協会が世界各国の研究者・批評家からの回答をもとに10年ごとに集計している「オールタイムベスト100選」で、2022年末に『ジャンヌ・ディエルマン』が第1位に選出されてから日本でも注目されているシャンタル・アケルマン映画祭という事で、東京日仏学院に行って来ました。一昨年から数えるとアルケマンの映画祭は3回目でかれこれ13作品を観ましたが、今日はドキュメンタリー三部作である「東から」「南」「向

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サムライ/ジャン=ポール・メルヴィル監督作品(1976)

サムライ/ジャン=ポール・メルヴィル監督作品(1976)

フィルム・ノワール初心者なので、やっぱりジャン=ポール・メルヴィルからと思い、まずはアラン・ドロン主演の「サムライ」から観る事にしました。
「私の夢は、カラー作品で白黒映画を撮る事なんだ」とメルヴィルは語ったそうですが、
ブルーがかった鈍いグレーの色彩は美しく、カメラ追う物や出演者の仕草だけでなく、カメラのフレームが捉えた構図に写り込む細部まで計算し尽くされている事に魅入ってしまいました。
もちろ

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ファスビンダーのケレル/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1982)

ファスビンダーのケレル/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1982)

ファスビンダーの遺作。
70年代後半にヴェルナー・ヘルツォーク、ヴィム・ヴェンダースとともにジャーマン・ニューシネマの旗手として日本に紹介されました時には、人間を超えたディモニッシュなものを描いたヘルツォーク、ロードムービーのイメージのヴェンダースに比べファスビンダーをいまいち掴めなかったのですが、少なくとももっとアンダーグランドでロックな感触を感じていました。
この映画を観たのは新宿歌舞伎町に会

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ハッピー・アワー/濱口竜介(2015)

ハッピー・アワー/濱口竜介(2015)

 世界三大映画祭受賞は黒澤明監督以来と騒がれていますが、まだ一般的に彼の名前がメデイアによく出るようになったのは、アカデミー賞受賞の「ドライブ・マイ・カー」からですが、現在公開中の「悪は存在しない」の美しさと凄みを考えるとどうしても観たかったのが、演技未経験の4人の女性遠主役に据えた5時間17分の長尺作品「ハッピー・アワー」
 映画が始まると突然、ゴダールの映画に出て来そうな抜けた青空、リヴェット

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悪は存在しない(Evil Does Not Exist)         /濱口竜介監督作(2024)

悪は存在しない(Evil Does Not Exist)         /濱口竜介監督作(2024)

「ドライブ・マイ・カー」で実現されたコラボレーション。この作品でも音楽を担当する石橋英子さんによるライブ時に流す映像の依頼から始まったと言われる作品。
「ワン・プラス・ワン」を想起させる配色のタイトルにジャズのドラムロールと60年代のジャン・リュック・ゴダールを感じるのも束の間、カメラは森に深く入りアンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」や北欧の冬やECMレーベルのジャケットくらいしか見た

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「ペトラ・カン・フォントの苦い涙」 ライナー・ヴェルナー・ファスピンダー  監督作品「苦い涙」フランソワ・オゾン監督作品

「ペトラ・カン・フォントの苦い涙」 ライナー・ヴェルナー・ファスピンダー 監督作品「苦い涙」フランソワ・オゾン監督作品

大好きなファスビンダーの作品「ペトラ・カン・フォントの苦い涙」は昨年、菊川のストレンジャーで観たのが初めてでしたが、この作品をオゾン監督がリメイクした「苦い涙」公開された年でした。
「ペトラ・カン・フォントの苦い涙」ライナー・ベルダー・ファスビンダー監督作品

2度の離婚に失敗し落ち込むもののビジネスでは、成功を収めているファッションデザイナー 
ペトラ・カン・フォントは自宅兼アトリエで、奴隷のよ

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王国(あるいはその家について)         草野なつか監督 2018年作品

王国(あるいはその家について) 草野なつか監督 2018年作品

英ガーディアン紙・英国映画協会〈BFI〉による年間ベスト作品に選出された日本映画ということで、気になっていた映画。
ガーディアンというのは、元々は、マンチェスターで刊行された、近年、名匠マイク・リーも映画化した「ピータールーの虐殺」と言われる民衆弾圧事件も取材した、中道左派・リベラル寄りの新聞で、音楽の情報も多く(Haward DevoteやMicheal Headの特集も読んだことがあります)、

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「Stop Making Sense」4Kリストア版@IMAXシアター

「Stop Making Sense」4Kリストア版@IMAXシアター

約40年振りに観ました。83年作ですが、僕が見たのは、85年。レイト・ショーのみの公開でした。
当時は、メンズ・ビギがプロモーションをサポートしており、店舗にも大きなポスターが貼ってありました。あの時代、肩幅を強調したジャケットが大人気でしたが、あのスーツは肩だけでなく、身頃も巨大で来日時に観た能にインスパイアされたそうです。
改めて、彼らの音楽をまとめて聴いてから観たので、その辺の話から、映画に

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古澤健監督『STALKERS』

古澤健監督『STALKERS』

Stranger 映画館で古澤健監督の「Stalkers」を観た。 支配人の岡村忠征さんが昨年のベストワンに推す映画であり、彼がStrangerの運営から1月末で離れるとの事で、そのフィナーレを飾る映画でもあるので、そこに岡村さんの想いや下心があるのではと思いながら、急遽伺う事にしました。
現地には岡村さんだけでなく、監督の古澤さんもいらっしゃり、岡村さんか「面食らうと思いますよ」と声掛けられ、こ

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「ミツバチのささやき」/ビクトル・エリセ

「ミツバチのささやき」/ビクトル・エリセ

1983年 ゴダールの「パッション」を皮切りに、ヨーロッパのアート系の映画を数多く上映し、ミニ・シアターブームを牽引したシネ・・ヴィヴァン六本木の8番目の作品として、上映された映画。調べてみると当時、この映画は単館シネヴィヴァンでの公開時だけで、5万人弱の人が見たそうです。もうすぐエリセの31年ぶりの新作「瞳をとじて」が公開されるので、40年ぶりにこの映画を見てみます。
大きなカップを小さな手で持

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「枯れ葉」 アキ・カウリスマキ@ストレンジャー映画館

「枯れ葉」 アキ・カウリスマキ@ストレンジャー映画館

フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ。2017年の突然の引退宣言から、復活した最新作。
シンプルなストーリーですが、賞味期限切れのパンを持ち換えろうとしてスーパーのパートを首になった女性とアル中で金属工場を首になった男性のラブ・ストーリー。労働者を描いた「プロレタリアート三部作」の延長線上にある作品と言えます。
カウリスマキ独特の役者は無表情、セリフは棒読みが何とも言えぬ情感を醸し出す、正に“沁み

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アナザー・ラウンド/トマス・ビンターベア監督作品 レビュー@note

アナザー・ラウンド/トマス・ビンターベア監督作品 レビュー@note

最近、たて続けに見たデンマーク人監督トマス・ビンターベアの作品。
なぜこの監督に興味を持ったかと言うと僕の大好きなラース・フォン・トリアーらと共に、「純潔の誓い」と呼ばれる、映画を製作する上で10個の重要なルールを決めるという デンマークにおける映画運動【ドグマ95】を立ち上げた人だから。
 本作は、仕事でも家庭でも倦怠感、無力感の”中年の危機“に直面した4人の男性高校教師が『「人間は血中アルコー

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