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SF - Sumo Fiction

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狂気に満ちた相撲SFの世界(手動収集)
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2019年10月の記事一覧

俺の心音は120デシベルを超えて、なお

 壁の汚れに似た曇天を否定するように、原色のレーザー広告が空に飾られていた。
 広告の中の女が俺に微笑む。そんなマニキュアをたった一本買ったところで、俺の小指の先すら塗りつぶせない。
 耐用道路を選んで歩く。なるだけ早く、しかしトルクは抑えて。
「うるせぇぞ! 何にも聞こえやしねぇ!!」
 足元の指向性マイクは俺の駆動音の中から野次を拾い上げた。すまんね、どうにも。心の中だけで謝罪の言葉を呟く。

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RGコンフィデンシャル

"馬頭嵐"こと前頭筆頭、田並久寿男(たなみ・くすお)は、今夜のねぐらを熱海の寂れた旅館に決めた。さしたる理由はない。この一週間、追っ手をかわしてきた幸運が、今夜も続けばという、淡い期待があるだけだ。

追われる者に特有の神経質さで、馬蹄型に配置された客室を、一つずつチェックしてまわる。待ち伏せの危険は薄いが、彼はまだ生きていたかった。一組四人の子連れの家族のほかに、宿泊客はない。少しだけ安堵すると

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乱れ大銀杏

 勝った負けたが力士の咎なら惚れた腫れたは男女の咎でしょう。そう彼女は言った。

何が咎であろうか、好き合った男女が、つかの間を共に過ごすことの。

隠れて待ち合わせた彼女との密会で、彼女は…いや、俺の所属する部屋の、女将さんは言った。

「優勝してください。2度。」

つまりそれは、道ならぬ道を通す唯一の方法。潔癖を尊ぶ角界に無理矢理言うことを聞かせる御免状。神に等しき力人の証、横綱を巻けと言っ

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われら新天星開発公団

われら新天星開発公団

泥7節から10節ころのボルスは俗に「新人殺し」と呼ばれる。岩泥混質の滑らかな挙動に目測を狂わされたパイロットが操作を誤り、大概は張り手を横から浴びて爆散する。5建高の巨躯と相反する反応速度から、8期公団までは泥節中の「整地」が禁止された程だ。
今は違う。爆炸弾頭に燃束、何より新型の機体がある。ボルスの挙動をサイトに捉えつつ、飛んでくる熱誘導ミサイルも……え?
ミサイル?

「モリタ!3番機!」

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【つの版】非実在力士名鑑06・航空力士編

【つの版】非実在力士名鑑06・航空力士編

ドーモ、三宅つのです。ここが何なのかは下記マガジン等をご覧ください。あなたはこれを自由に素材として使用できます。

逆噴射小説大賞の開催に先立って、胡乱海では「航空力士」という胡乱存在が流行し、つのもなんか書いてしまいました。ついでに非実在力士名鑑の続きをいくつか書きましたので、ここに収録します。天高く力士肥ゆる秋……ふと秋の空を見上げれば、力士が空を飛んでいるかも知れません。すなわち力士とは秋の

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彼女と彼女の隠した方程式

「方程式(フォーミュラ)」

彼女は、僕が気になっている子は、不可思議な力で謎の悪漢を3人倒すとそれだけ言った。

彼女こと、田原編芽(たはら あみめ)は天才である。よって必要以上の説明は行わない。無駄か、理解されないかだからだ。よって全て無駄である。

「フォーミュラ、方程式ということは、数学的な理解力がパワーになる超能力ということか!?」

僕は彼女と共にいることで磨かれた洞察力で超能力のアタ

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オスモー・イン・ザ・スカイ③

 大阪・新国技館。分断日本の西の片割れ、日本共和国(ジャパニーズ・リパブリック)における相撲の聖地。そのほど近くに、ある組織が存在する。
 日本航空相撲協会(JASA)西日本支部。平時であらば、興業やオスモウ・エアショーの手配に腐心する組織であろうが、こと戦時に於いて、その組織や業務の色彩は、否が応にも変わってくる。
 この日、秘密裏に持たれた会合も。「そうした事柄」に関するものであった。

「共

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きみと、力士の彼方の夢を見る

 地球外気圏内へ到達したケプラー442b星人達は驚愕した。青く緑豊かな星だと推測されてきたこの惑星は肌色だった、より正確に言えば、地球の上空が肌色の何かによって完全に覆われていたのである。

 「どうなってる、まさかこれが"地球人類"なのか……?」

 調査員の一人が表面拡大映像を見て慄く。そこに映っていたものは、幾重にも重なり密接し合いながら地球上空を飛行する無数の成人男性。彼らの人種は様々った

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魔法航空力士少年┳聖丸

聖丸は空に浮かぶ巨大な球体を睨む。半径およそ100mの蒼い球体型土俵(エンゲージリング)、中央に仕切る河童力士は聖丸を見下ろして仕切りを誘う。
「気合い入れていくでゴワス!」
力士妖精オヤカタが聖丸の背中に回り、角融合八卦炉(かくゆうごうはっけろ)に力水を注ぐ。
「おう!!」

聖丸の『友を助けたいという覚悟』が角力(かくりょく)に変換され、角融合八卦炉(かくゆうごうはっけろ)を回す。
ギュン……

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地獄角力乱和

その日、事件は起こった。邪悪なる闇行司となった式守伊之助の手によって、大関大三玉の清めの塩がゾンビパウダーにすり替えられたのだ。

満員御礼結びの一番、大三玉がゾンビパウダーを土俵に撒くと同時に皆既日食が始まった。その瞬間、土俵に染み込んだ力士の怨念が解放され大三玉を包み込み、苛んだ!

苦悶の声と観客たちのざわめきに何事かと振り向いた横綱聖条路は無念と怒りの赤いスモウ・スピリットに包み込まれ苦悶

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力士が飛んだ日

力士が大型化を始めたのは19世紀初頭の事だった。それまで単純労働のためのものと思われていた力士たちは【運輸】という新たな土俵に立った。

レールを必要とせずあらゆる地形をすり足で越えていく力士力機関車は大陸内の流通を劇的に進歩させ、港には1万トンの積荷を乗せた横綱級力士船が行き交う。

様々な流通網が力士によって支えられる中、未だに彼らが立ち入れていないのが空だった。

一般には知られていないが、

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航空相撲2

十両力士の鰯雲は聞いたことのない初顔合わせの力士と立ち会い、違和感を覚えた。

違和感と言うよりも、その立ち会いは異様であった。

片方の力士が空高く舞い上がり、それをもう片方が中腰のまま見送ったのだ。

世は航空力士全盛の時代。空を飛び、上を取り、抑え込み、相手を地面に叩きつける。鰯雲はそう教わり稽古をしてきた。まして学生相撲でも空を飛ぶこの頃、ちびっこ相撲ぐらいでしか地上戦などありえないだろう

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暁星をもう一度

暁星をもう一度

「爺さんの『切札』か。あれは使わせねぇぞ」
誠は、「来訪者」にすげなく言い放った。
「だいたい今の航空相撲にあれは無理があるだろうが」
しかし、来訪者もまた決然と言い返す。
「『あの手』を上回る初速を出すRTUはこの世に存在しません。だからこそ、なのです」
「おめぇさん、まさか」
誠の顔が俄に曇る。この男の……角光関のやろうとしていることは、本物の狂気の沙汰に他ならない。
「二段加速射出式立ち合い

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闇太陽と摺り足のプリンス

闇太陽と摺り足のプリンス

 びゅうびゅうと吹きすさぶ風に耐え兼ねて千切れた藁の塊が転がりながら街道を横断していく。砂塵の先に列をなす荷役の摺り足が見え始めた。彼らは一様に裸で腰に一本の布を廻しただけの軽装である。ズリッズリッと彼ら荷役特有の足音が聞こえてくる。「ちゃんこ」の到着だ。

 クーデター以降、前政権に見捨てられた寒村ハカタにもこうして食糧が届けられるようになった。村長は、ほっと安堵して間近に迫った護送荷役力士群(

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