彼女と彼女の隠した方程式
「方程式(フォーミュラ)」
彼女は、僕が気になっている子は、不可思議な力で謎の悪漢を3人倒すとそれだけ言った。
彼女こと、田原編芽(たはら あみめ)は天才である。よって必要以上の説明は行わない。無駄か、理解されないかだからだ。よって全て無駄である。
「フォーミュラ、方程式ということは、数学的な理解力がパワーになる超能力ということか!?」
僕は彼女と共にいることで磨かれた洞察力で超能力のアタリをつける。彼女と友人関係であるということは、超能力のひとつやふたつで動揺していられないということを示している。
「27点」
彼女の採点は厳しい。
「記憶が、方程式が、人を選ぶ、そして世界を歪める力を貸してくれる。」
「シュレーディンガー、波動関数。」
恐らくは、その波動方程式の力で悪漢をやっつけたのだ。これ以上の補足説明はない。
「うおおあああ!」
悪漢の1人が何時の間にか気がついて彼女を再度襲撃した!危ない、と思うひまさえ無かった。
だが彼女はその場から消失した。
鉄パイプが地面を叩く音がして、べち、と彼女が男を後ろからはたく音がして、男は倒れた。
彼女は消え、現れ、叩いた。単純明快にワープした。
「すごい…」
焦燥と嫉妬、羨望、綯い交ぜになった感情を持った視線は、彼女の長すぎる前髪に阻まれて届きはしなかったが。
ズン…と音がしてビルが揺れた。地震、には感じなかった。まるで爆発、
「ぐっ!…田原くん、逃げろ!」
ダイナミックに転がりながら部屋に中年男性が1人飛び込んできた。それを追うように山のような男がまた1人、こっちはゆるりと歩いて。
「教授!」
叫んだ瞬間、彼女の体は消え、大男の頭上に現れた。同時に男の側頭部に彼女の膝がめり込んでいる、が。
「俺は健康だからよ。」
膝蹴りが効いた様子もなく、彼女を抱え上げた。そのまま-
「駄目だっ!」
考えるより先に体が動いていた。僕は後先も考えず山のような男の体に飛びかかり、押し込んだ!
「ぐっ」
男は呻き、彼女を取り落とす。そして驚くべきことに男は僕を押し返せずにもがいた。男の苦しむ手が、僕の上着を引っ張り、破いたが、僕はなお岩のように男を押し込んだ。
「あれは…!」
教授と呼ばれた男の声がする。
「方程式(フォーミュラ)だ!間違いない…」
「あれが…!?」
彼女の声がする。僕も、彼女と同じ、仲間に…!
「『立ち会いは7つ』!大横綱、白鵬の勝利の方程式だっ!」
僕の背中に、方程式が、それも、大横綱白鵬の…!
「ジャンルがぁっっ!違うっっ!」
僕は慟哭の叫びとともに男のベルトを握る。右四つ!
【字余り】
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