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甦る歴史の恐怖!城が舞台の怖い話アンソロジー『怖い日本の名城』監修者コメント&収録話「白鷺城奇譚集」内2篇掲載

日本のお城には怪異がいまも巣食っている
全国各地の城にまつわる怪奇現象の数々を厳選収録した歴史怪談集!


内容・あらすじ

北は北海道から南は沖縄まで、日本全国各地の城で起きた恐怖体験談を怪談作家が集い綴った歴史ミステリー裏ガイド

八王子城(東京)…武士や現代の幽霊も蠢く都下最恐の城
大阪城(大阪)…武将の霊も…。怪奇現象が頻発する名城
弘前城(青森)…花見の時季に姿を現す鎧武者の男
姫路城(兵庫)…日本初の世界文化遺産には怪異が巣食う
松前城(北海道)…訪れる者を襲う耳塚の怨念
浦添城(沖縄)…ハクソーリッジで蠢く日本兵

――など、全18城掲載。
甦る歴史の恐怖! 城が舞台の怖い話

監修者コメント 住倉カオス 

 日本にはかつて二万五千とも四~五万とも言われるほどの城があった。明治政府による「廃城令」が出されたあとに多くは取り壊されるなどして姿を消したが、それでも現在一般的に見学できる場所は二百ほどあり、江戸時代以前からの天守が残されている城も十二ある。
 空前の城ブームと言われて久しいが、なぜ城は我々を魅了するのだろうか?
 建造物の残っていない城址で思いを馳せると、甲冑に身を包んだ戦国武将の姿が目に浮かび、天守の残っている城では、かみしもの武士たちの息遣いを感じる。堀の周りを歩いて自分が武将だったらどうこの城を攻めるかを考えるのも楽しい。
 城には残酷な歴史物語がつきものである。
 戦国時代の情け容赦ない城攻め。一族郎党が皆殺しにあった城、追い詰められた城内の婦女子が自害し滝壺に身を投げた城、下剋上により無残な死を遂げた城主、冷酷な城主により手討ちにあった小姓、平和な世になったが権謀渦巻く江戸時代の城。数多くの伝説もそのなかに息づき、歌舞伎や講談の元となった逸話も多い。「播州皿屋敷」「宮本武蔵の妖怪退治」「仮名手本忠臣蔵」そんな伝説や史実の影響が今でも残り、城趾では幽霊の目撃談が語られることもある。数百年前の歴史上の出来事と現代がシンクロし、新たな怪談が生まれ続けているのである。
 この本は「城」というタイムカプセルが紡いだ怪異譚を、怪談語りの名手たちが紹介する。また、物語の冒頭に楽しみの一助となるべく城の解説を書かせていただいた。(首里城・浦添城のみ小原氏執筆)
 北は北海道から南は沖縄までの「城」にまつわる極上の怪談を、ぜひ本書を片手に城巡りをしながら楽しんでいただけたら幸いである。

本書「まえがき」より全文抜粋

試し読み

白鷺城奇譚集

川奈まり子

【黒鷺城の奇跡】 
 姫路城は白鷺城しらさぎじょうの別名に表されるように鮮やかに白い姿を誇るが、第二次大戦中は真っ白な外壁が空爆の目標にされやすいと指摘され、黒い網で城をすっぽりと覆われた。
 つまり黒鷺城になったわけだが、結局、昭和二十年七月三日の姫路大空襲によって姫路市の七十六・七パーセントが壊滅的な打撃を被ることになった。
 ところが姫路城だけは、なんと無傷。見渡すかぎりの焼け野原。そこに黒い城のシルエットがあたかも絶海の孤島のように浮かんでいたのである。
 黒いカモフラージュが功を奏した? それとも城に命中した焼夷弾が不発だったのか?
 真相が明らかになったのは平成七年(一九九五)七月。
 姫路大空襲のときのB29の機長が「(姫路城の)上空に差し掛かったとき、レーダーが水面の存在を示したので、そこには焼夷弾を落とさなかった」と語ったのである。
 この証言から「濠が城を守った」とする意見もあるが、少し無理があるようだ。
 なぜなら城下町を流れる川の周囲も爆撃され尽くしていたのだから。
 ――姫路城を守護したものは何か? その正体について、次項で解き明かしていきたい。

【おさかべ伝説】
 宮本武蔵が主人公として活躍する『白鷺城異聞』という歌舞伎がある。
 これは、明治時代に出版された宮本武蔵の実録本『今古實録 増補英雄美談』にある姫路城の怪談を基にしたものだそうだが、そこからさらに遡ると姫路城を護る神々の存在にたどりつく。
 だが、まずは件の宮本武蔵が登場する怪談をざっとご紹介したい。
 ――江戸時代の初め頃のこと。
 当時、姫路城では怪異が頻発していた。天守閣から怪しい声が聞こえるだの化け物が出ただのと噂され、夜になると誰も天守閣に近寄らなかった。
 このままでは城の守りがおろそかになると城主が悩んでいたところ、宮本七之介という若い足軽が恐れることなく夜通し天守閣の番をしてみせた。
 実は、この七之介は、後の剣豪・宮本武蔵の仮の姿であった。
 武蔵は勇気と剣の腕を城主に見込まれて化け物退治をおおせつかり、あらためて天守閣に登った。すると深夜、妖しい女が現れて彼にこう告げた。
「わらわは小刑部おさかべ大明神なり。そなたに恐れをなして齢数百年の古狐が逃げていった。褒美として刀を進ぜよう」
 しかし、この女の正体は古狐で、武蔵に差し出した刀は豊臣秀吉から拝領した家宝だった。家宝盗人の罪を着せようという悪だくみが露見。武蔵によって成敗された。
 ――と、こんな話なのだが、古狐がその名を騙った「小刑部大明神」とは何か。
 それは、今日まで実際に姫路城の大天守最上階と、播磨国総社の境内、旧城下町の立町の計三ヶ所に祀られている長壁おさかべ神社の神「|刑
部《おさかべ》大神」に他ならない。
 長壁または刑部や小刑部と表記される「おさかべ」は、姫路城が築かれる遙か前から「姫山」と呼ばれてきたこの地を護ってきた地主神だという。
 姫山の名は、三つの長壁神社に刑部大神と共に祀られている祭神「富姫神とみひめがみ」に由来するという説がある。
 富姫神とは、奈良時代末期の光仁天皇の皇后・井上内親王が、実子である皇子・他戸おさべ親王と母子相姦して生んだ富姫のこと。不義の子として都を追われた富姫が、流浪の末に夫婦となった飾磨しかま郡司と住んだ土地が、後に姫山と呼ばれるようになったというのである。
 さらに、もう一柱の祭神・刑部大神は、敗者の怨霊を祀る御霊ごりょう信仰によって神格化された他戸親王のことだという。
 井上内親王と他戸親王は実在し、史実として、彼らは夫であり父である光仁天皇を呪詛した罪で地位を剥奪された上で殺されたと言われている。
 姫山の地主神については、古代の刑部氏が祀る神を示す説や、民俗学者の宮田登が主張した「おさかべは蛇のことであり、大蛇が地主神として崇拝された」という説もある。
 だからもしかすると、富姫神を媒介として古代の地主神と他戸親王が結びつき、刑部大神になったのかもしれないが……それにしても業の深い神である。
 ともあれ、そんな次第で長壁神社は姫路城が建つはるか以前から姫山に祀られていた。
 だが豊臣秀吉は、姫路城の主になると城下町に神社を移した。そして秀吉公の後に城主となった木下家定の時代を経て、やがて関ケ原の合戦へ。
 その後、第一代播磨姫路藩主・池田輝政いけだてるまさが城の主となるのだが……実は、宮本武蔵の怪談をはじめとする姫路城天守閣の伝説は、この池田輝政の奇怪な逸話が基になっている。
 ちなみに姫路城を白くしたのも輝政だ。
 戦国時代、城といえば黒かった。その方が実用的で安上がりだからだ。しかし輝政は新しい時代の幕開けを察知して美による城の権威づけにこだわり、「白漆喰総塗籠造」によって姫路城の外壁と屋根瓦の目地を真っ白に塗り固めたのであった。
 ――ところが、慶長十三年(一六〇八)に城が完成した頃から、夜になると誰もいない天守閣に明かりが灯り、すすり泣く声が聞こえてくるようになったのだという。
 この怪異は常態化し、さらに翌年十二月十二日、こんな書状が輝政に届いた。
「輝政と夫人は天神に呪われるであろう。呪いを解きたければ、城の鬼門に八天塔を建立して大八天神を祀れ」
 天神とは天狗のことで、大八天神は最も霊力が強い八山の天狗を指し示すが、なぜか輝政は、秀吉が城下町に移した神社の祟りがこの書状と怪異の原因だと思い込んだ。
 そこで、当時は城下町の播磨総社の摂社になっていた長壁神社を城内に遷座した。
 しかし天守閣の怪は止まず、二年後の慶長十六年(一六一一)、彼は病に倒れた。
 一連の事件から数十年後の寛文七年(一六六七)に出された『諸国百物語』によれば、このとき輝政の病を平癒させるために円満寺の明覚という高僧が祈祷した。するとろうたけた美女がどこからともなく現れ、「祈祷を中止せよ」と明覚に命じて姿を消したとか……。
 このことから今度は先の書状の指示に忠実に従って、城の鬼門に「八天堂」を建てた。
 だが輝政の病は中風、つまり脳卒中脳血や脳血栓といった脳の血管障害で、いったん快復したものの二年後に再発。結局、五十一歳で亡くなってしまった。
 さらにその二年後には、家督を継いだ輝政の嫡男・利隆も急病死した。
 ――こうした出来事の結果、おさかべは次第に女の妖怪と化してゆく。
 井原西鶴の『西鶴諸国ばなし』に書かれた「長壁姫」は人心を操り、八百匹の眷属を率いているとされた。また、北尾政美の黄表紙『夭怪着到牒ばけものちゃくとうちょう』には、ギリシャ神話のゴルゴンのように顔を見た者を即座に死に至らしめる「刑部姫」が登場。
 江戸時代の奇談集『老媼茶話ろうおうさわ』の「長壁姫」は十二単を着た美女で、肝試しで天守閣に来た小姓の森田図書を気に入って錣(しころ。兜につけて首を守る防具)を与えた。
 鳥山石燕は『今昔画図続百鬼』の中で、蝙蝠を従えた十二単の老婆の妖怪「長壁」を描き、平戸藩主・松浦静山の随筆『甲子夜話』に登場する長壁姫は、姫路城の大天守最上階に隠れ棲み、年に一度だけ城主の前に姿を現した。
 そして明治生まれの作家・泉鏡花は、こうした伝説の数々を戯曲に昇華させて『天守物語』を書いた。そこでは白鷺城の天守閣第五重は人外の魔境であり、美しい妖女・天守夫人こと富姫が異形の眷属たちと共に優雅に暮らしているのだ。
 現在の大天守最上階の社殿は文政十二年(一八二九)に改めて祀られたものだというが、言霊によって姿を得たおさかべ姫が天守閣のヌシとして今もそこに棲んでいそうな気がする。
 長壁神社の由緒には、祭神の刑部大神と豊姫神は火災など災いの神として霊験あらたかだと記されている。だから大空襲の被害を免れたのか、おさかべ姫または地主神の神通力のお蔭か。いずれにせよ姫路城の天守閣の守りは固そうだ。

―了―


★著者紹介

川奈まり子 (かわな・まりこ)

八王子出身。怪異の体験者と土地を取材、これまでに5000 件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としてイベントや動画などでも活躍中。著書に「一〇八怪談」「実話奇譚」「八王子怪談」各シリーズ、『僧の怪談』など、共著に『実話怪談 恐の家族』のほか「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」「怪談百番」各シリーズなど。日本推理作家協会会員。

小原 猛 (こはら・たけし)

沖縄県在住。沖縄に語り継がれる怪談や民話、伝承の蒐集などをフィールドワークとして活動。著書に「琉球奇譚」シリーズのほか、『沖縄怪談 耳切坊主の呪い』『琉球妖怪大図鑑』『琉球怪談作家、マジムン・パラダイスを行く』『いまでもグスクで踊っている』『コミック版琉球怪談〈ゴーヤーの巻〉〈マブイグミの巻〉〈キジムナーの巻〉』など。

住倉カオス (すみくら・かおす)

出版社のカメラマンとして多くの心霊取材に携わる。アマゾンプライムのChannel恐怖にて「住倉カオスの怪談★語ルシス」を主宰。著書に『百万人の恐い話』『百万人の恐い話 呪霊物件』、共著に『実話怪談 樹海村』『実録怪談 最恐事故物件』『恐怖箱 怨霊不動産』『呪物怪談』など

さむ 

占い師、宗教学の研究者、京都大学・非常勤講師。同大学大学院博士課程満期退学。世界宗教と民間信仰の混ざり方に興味がある。実証研究で占いを始めたら、その日から当たるということになり、兼業占い師に。趣味は本物の霊能者探し。X @oracle_sam2022

つるんづマリー

1975 年兵庫県姫路市生。97 年バンド「つるんづ」結成。2008 年『漫画アクション』(双葉社)で漫画家デビュー。現在『実際にあった怖い話』(大都社)、『思い出食堂別館』(少年画報社)で漫画連載。関西を中心に怪談イベントにも出演。単行本『魚共村奇譚』①、②『つるんづ怪談』発売中。

服部義史 (はっとり・よしふみ)

北海道出身、恵庭市在住。幼少期にオカルトに触れ、その世界観に魅了される。全道の心霊スポット探訪、怪異歴訪家を経て、道内の心霊小冊子などで覆面ライターを務める。現地取材数はこれまでに8000 件を超える。著書に『実話奇聞 怪談骸ヶ辻』『実話怪奇録 北の闇から』『蝦夷忌譚 北怪導』『恐怖実話 北怪道』など。

高田公太 (たかだ・こうた)

青森県弘前市出身、在住。O 型。実話怪談「恐怖箱」シリーズの執筆メンバーで、元・新聞記者。著書に『恐怖箱 青森乃怪』『恐怖箱 怪談恐山』『絶怪』、共著に「煙鳥怪奇録」「奥羽怪談」各シリーズ、『実話奇彩 怪談散華』『青森怪談 弘前乃怪』『東北巡霊 怪の細道』など。2021 ~ 22 年にかけてWeb で初の創作長編小説「愚狂人レポート」を連載した。

戸神重明 (とがみ・しげあき)

群馬県出身在住。著書に「怪談標本箱」シリーズ、『幽山鬼談』『いきもの怪談 呪鳴』『上毛鬼談 群魔』『群馬百物語 怪談かるた』、共著に『高崎怪談会 東国百鬼譚』『群馬怪談 怨ノ城』など。多趣味で昆虫、亀、縄文土器、スポーツ観戦、日本酒などを好む。

丸山政也 (まるやま・まさや)

2011 年「もうひとりのダイアナ」で第3 回『幽』怪談実話コンテスト大賞受賞。著書に「奇譚百物語」「信州怪談」各シリーズ、『怪談実話 死神は招くよ』『恐怖実話奇想怪談』など。共著に『エモ怖』のほか「てのひら怪談」「みちのく怪談」「瞬殺怪談」「怪談四十九夜」各シリーズなど。

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。著書に「大阪怪談」シリーズ、『関西怪談』『北海道怪談』『紀州怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。共著に「京都怪談」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『怪しき我が家』『読書で離婚を考えた』など。

神沼三平太 (かみぬま・さんぺいた)

神奈川県茅ヶ崎市出身。大学や専門学校で非常勤講師として教鞭を取る一方で、全国津々浦々での怪異体験を幅広く蒐集する。主な著書に『怪奇異聞帖 地獄ねぐら』『実話怪談揺籃蒐』『実話怪談 凄惨蒐』『甲州怪談』『湘南怪談』『千粒怪談 雑穢』など。共著に『怪談番外地 蠱毒の坩堝』のほか、「恐怖箱 百物語」シリーズなど。

岡 利昌 (おか・としまさ)

1980 年広島生まれ。岡山の大学に進学し、同地で学生時代を過ごす。現在は書店員として働く傍ら、実話怪談、ホラー小説、 コミック原案等を手掛ける。主な著書に『広島怪談』『広島岡山の怖い話』、104名義の既著に『霊感書店員の恐怖実話 怨結び』がある。


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