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随筆

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たったひとつの冴えない武器

たったひとつの冴えない武器

小説をちゃんと書き始めて、丸1年が経ちました。

ほんの数文字で伝えられる言葉を物語にのせて、何十万字もかけて伝える行為は、とんでもない所業です。小説家って、正気じゃないと思います。

言葉ではない芸術、言葉がなくても伝わる信頼関係、とても素敵なことだと思う。言葉がいらないことは、なんだかとても善いことのように描かれがちだ。

でも私たち物書きは、言葉にしか頼れない。世の中に張り合う術が、これひと

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ブーゲンビル島の戦い

ブーゲンビル島の戦い

 お盆を少し過ぎた、8月末。
 秋が近づくというのに、汗が噴き出るほどの暑さだった。山奥にある母の実家に、遅めの墓参りに来た。
 「先祖代々之墓」と記された墓石の側面に、文字が見えた。

《昭和一九年三月廿一日 ブーゲンビル島に於て戦死 俗名 村上 農夫也》

 この戦いが始まり、どれほどの年月が経っただろう。運よく、いやもしかすると運悪く、なぜか私は生き残っている。

 敵兵と直接交戦した経験は

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「本気で忘れるくらいなら、泣けるほど愛したりしない」がずっとわからない

「本気で忘れるくらいなら、泣けるほど愛したりしない」がずっとわからない

「最後の雨」は我々世代にも歌い継がれる名曲で、今もたびたび耳にする。

でも、このサビ部分の歌詞の意味が本当にわからなくて、かれこれ10年以上悩んでいる。

「本気で忘れる」は、これから思い出すこともないほど跡形もなく忘れるという意味でまず間違いないだろう。

跡形もなく忘れるくらいならば、と訳しておく。

「泣けるほど愛したりしない」は、たりが重なっていないのが気になるけどひとまず置いておく。

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うまくいかないときに読む話

うまくいかないときに読む話

作品づくりには健康な肉体と精神が必要だとよく聞くけど、これは本当にその通りだと思う。不健康な肉体あるいは不健康な精神の場合、自分に精一杯で作品どころではない。

ただ、不安定な状態でとっっても素晴らしい作品をつくる人もいる。そもそも左右されない人とか。そういう人のことをきっと、天才って呼ぶんじゃないの。

これまでもこれからも、どんなにいい文章が書けても、わたしは自分を天才だと思うことは一生ない。

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"20代のうちにすべきこと"の罠

"20代のうちにすべきこと"の罠

「若いうちに〇〇しとけ」「20代のうちにしておくべきこと」とかは、「この問題の答えは1だから1って書きなよ」と言われることに似ている。

言われたとおり解答欄にただ1と書くとき、なにか自分の身になる学びはあっただろうか。問題を解くために、自分の頭で一生懸命考えただろうか。

正しいかもわからない計算式で答えを割り出そうともがく時間のほうが、大事。それは間違っててもいいよ。

これはやっておけよ〜っ

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退屈なのは誰のせい?

退屈なのは誰のせい?

赤ちゃんにだじゃれや回文を言っても意味を理解して笑わないように、受け取る側の知識がないと楽しめないことは多い気がする。

今日は有名な作品の舞台を観にいったのだけど、知識がなさすぎてなーんもわからんかった。でもそれは自分のせいなのだ。

もっと予備知識があればこの台詞が熱いんだよなとか、こういう背景があるからこんなリアクションをするんだよなとか、いろんな整合性が取れてより作品の深部まで楽しめる。

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正しい夢

正しい夢

エッセイや小説をちゃんと書こうと思う。

もうずいぶん前からその夢をもっていたのに、追うことからも叶えることからも逃げてきた。

どうせ叶わないだろうなという気持ちがあったし、諦める理由がつかなくなることを恐れていたから明言もしなかった。

だけどようやく、その夢を追うことを自分の手で正解にしたくなった。

体が大きくなるのに反比例して、あんなに大きく膨らんでいた夢はだんだんと萎んでいく。成長した

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来世は推し活を楽しめる人間に生まれたい

来世は推し活を楽しめる人間に生まれたい

"推し"をつくれない。いや正確にはいたことがあるし、今でも応援している人やコンテンツはある。

推し活ができる人は、心の使い方がうまい。推しを原動力にして自身を鼓舞できる力は才能だ。

きちんと心の中でいろんな棲み分けができているからこそ、正しく楽しめるのだなと思う。マージで羨ましい。

推し活ができたほうが、ぜったいに人生は豊かだと思う。誰かを応援しながら自分も楽しく過ごせるなんて、win-wi

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並行世界

並行世界

書いては消して、書いては消して、世に出すかずっと悩んでいたけど(冒頭でもそんな話をしている)、人の文章を見て気づいたこともあったので、このテーマの文章を初めて出してみようと思う。

前提として、わたしは東北に住んでいたけど被災者ではないと思っている。2〜3日の停電程度で、高校の合格発表が延期になったぐらいで、家も無事だし家族も友達もみんな変わらず近くにいるから。

北海道に来てからは胆振東部地震も

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宝箱

宝箱

大切な人は、ずっと宝箱にしまっておきたい。そうしたら誰かの悪意に触れることもないし、自分のことだけをずっと見てくれる。相手が望むなら、わたしも宝箱の中で大切にしまわれてもいい。

朝、電車を降りてから高校に向かう通学路。大きめの通りに面したパチンコ屋さんの駐車場を歩いて突っ切りながらそう思ったことを、なぜか鮮烈によく覚えている。

文字通りわたしたちだけの世界で、ずっと囲われていたいと本気で思って

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脱走の記録①

脱走の記録①

3歳くらいだったかなあ、もう少し大きかったかな。幼稚園に友達がいなくて行きたくなくて、ほぼ不登園の状態だった。その日も家でお母さんと一緒にいたことを覚えてる。

お母さんは郵便局に行く用事があって、みっちゃんも一緒に行く?と聞かれた。家出たくないなと思って、お留守番してる〜と答えた。はず。

たぶんお母さんはまだわたしが家の鍵を開けられるとも思ってなかっただろうから、戸締まりをしてそのまま出かけて

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2010年10月2日

2010年10月2日

中学3年生、文化祭兼合唱コンクールの日。
現時点で「自分の人生を大きく変えた1日は?」と聞かれたら、迷わずその日を答える。

先生とか友達がほめてくれるから、中1くらいから文章を書くことがすきになった。勉強なんかは人並みだったからなおさら、自分の武器ができたみたいでうれしかったのです。

合唱コンクールのとき、歌う前にクラス紹介とかがんばってきたことなんかを読み上げる役目があった。他の行事とかでは

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主人公視点から

主人公視点から

当然人生の主人公は自分で、あるときまでは自分の物語のことだけを考えてたと思う。だけどいつからか、「他人の物語のなかで自分はどういう立ち位置なのか」を考えるようになった。

家族・友人・仲間ポジションの物語もあれば、憎むべき敵や気に入らないヤツのポジションになってる物語もあるはず。だし、モブはモブでも主人公に寄与するいい感じのモブなのか、いらない一言を言ってくるウザキャラのモブなのかもしれない。

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繋

中学生のとき、職場体験で隣町の病院に行った。

はじめに看護師さんからいくつか注意事項の説明があって、「患者さんの情報は、学校の先生や友達、家族にも絶対に話さないでくださいね」って言われてた。

1週間あった期間のうち、確か2,3日目だったはず。病室に入って、少しだけ患者さんと1対1で話すタイミングがあった。

自己紹介をすると、「あんた仁賀保の人だか?」と聞かれた。あんまりない苗字だから、ピンと

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