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宝箱

大切な人は、ずっと宝箱にしまっておきたい。そうしたら誰かの悪意に触れることもないし、自分のことだけをずっと見てくれる。相手が望むなら、わたしも宝箱の中で大切にしまわれてもいい。

朝、電車を降りてから高校に向かう通学路。大きめの通りに面したパチンコ屋さんの駐車場を歩いて突っ切りながらそう思ったことを、なぜか鮮烈によく覚えている。

文字通りわたしたちだけの世界で、ずっと囲われていたいと本気で思っていた。人のことを大切に思わない人間がいる世界に、大切な人を放り出しておきたくなかった。いつか自分を見なくなるんじゃないかと不安だった。

みんな愛する人に対してはそう思うものだと思ってたけど、誰かに話したときのリアクションでそれがあんまり普通ではないことを知った。

とにかくなぜだか不安で仕方なくて、焦燥感と嫉妬に塗れていた頃。初めてドキドキでも恋でもなく、愛するという感覚をおぼえたのはもう少し前だったか。

そのとき大事だと思っていた人以外は別に世界に必要ないと思ってたし(過激思想)、自分の桃源郷をつくることを本気で夢見ていたみたいだ。心地よい環境に身を置きたいという意味では今も同じか。

いまならよくわかる。新たな人との出会いで人間性や魅力が洗練されていくことも、変化がないとわかりきっている未来など愛せないことも。

あの暴力的で排他的で、利己的でしかない気持ちはいつのまに緩んだんだろう。0になったとはいえないけど。

あの一瞬にあった、すべてを傷つけてしまいそうなほど鋭くて抱えきれないほどの大きな感情。もしかしたら世界の誰かのどこかのココロまで旅をしているのかもしれない。

決して戻ってきてほしくはないけど、ごくたまに思い出してみたくなる。体感してみたくなる。身体が真っ二つにされるような痛みに、その場から動けなくなる苦しさ。それから狂おしいほどの愛おしさも。

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