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南米パタゴニア南部トレッキング EP.6 〜陸路越境!南米大陸!!編〜

「バスはここで待っているので、貴重品とパスポートだけ持って行けば大丈夫です。並ぶのはあそこ、土産屋はそこ、トイレは〜・・・。」

どこからともなく現れた運転手とは別のおじさんが、注意点を英語とスペイン語でまくし立てています。エル・チャルテンを出発してどれくらいの時間が経ったでしょうか。プエルト・ナタレスに向かうバスはようやくチリに入国します。

ここは南米パタゴニア。昨日までロス・グラシアレス国立公園を満喫した私たちは、次なる目的地パイネ国立公園を目指しています。

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エル・カラファテからプエルト・ナタレスに向かう途中、アルゼンチンとチリの国境の様子。ご覧の通り、バスは大きくて綺麗で乗り心地も良い。(Googleマップ


◇ 陸路で国境を越える


残念ながら陸路での国境越えというものに微塵も興味がなかった私は、嫌らしくも我々のバスを”とおせんぼ”するゲートの横に建つ関所の前に並ぶと、何の高揚感もなく人なりに進んでいきます。

国境周辺の歴史を語るモノクロ写真まじりのボードが両サイドの壁にずらりと掲げられた中、それをボーッと眺めながら出入国審査を済ませると、トイレを済ませて体操をして、早々にバスへと乗り込みました。

【陸路の国境越えにまつわる、もっとずっと楽しいお話の数々。】
★『陸路での国境越えに憧れて
★『<中国>ギネス記録5個持つ水族館へ香港から行く1泊2日~まだ笑顔が私にあった時~
★『ラオス旅行記:さようなラオス 波乱の越境編


◇ 原体験


そもそも、なぜ山なのでしょうか。街並み、夜景、遺跡、古墳、お祭り、寺社仏閣、大聖堂、教会…。世界にはそれこそ無数の絶景や観光スポットが存在しています。後世に遺すべき遺産の数々です。

その中で、なぜ私は山をはじめとする大自然に心惹かれるのでしょう。それにはきっと、子供時代の体験が大きな影響を与えています。

日本で身近な野山を駆け回り、雨水管の中を隣町まで辿ったりしてきた子供が当時の冒険心を失わずに大きくなった時、日本の、そして世界の秘境へと足を伸ばすのはごく自然な流れでした。

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父に連れられ日本第3位の高峰、奥穂高岳に登ったのが5年生の時。

自然の中に身を置くことが、私の原体験なのです。

そんな心の奥底の原体験が、地球上で最も手つかずの自然環境が残された地域の1つであるパタゴニアと共鳴したためここに来た、と言えるかもしれません。

我が物顔で地上を闊歩する現人類の文明社会など、地球の長い歴史からすればほんの上澄みにしか過ぎず、この星はそんなもの足下にも及ばない壮大な歴史とパワーを持っているということを、全生命の中のいち地球人として見知っておく必要があるように思うのです。

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内省が深まるという点において、下山と長距離バス移動は類似している。

さしたる旅の経験もないくせに上から目線でそんなことを考えながらウトウトしたり、イヤホンを共有してドラマ『Nのために』を見たり、丸パンにハムとチーズが挟まっただけの手作りサンドイッチにそろそろ嫌気が差してきたりしていると、国境を超えチリに入ったバスは次なる目的地、プエルト・ナタレスに到着しました。


◇ ラテンの文化


エル・チャルテンを出発してから12時間以上、次なる目的地はチリ共和国プエルト・ナタレス、パイネ国立公園への拠点となる街です。パイネ国立公園もフィッツ・ロイ山系と同様、花崗岩でできた奇岩や特徴的な形の山々が見られる、世界中のクライマーやトレッカーにとっての聖地のひとつです。

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本日の移動行程。距離にして約490km。乗車時間は7〜8時間ほどだが、乗り換えなど含めると移動時間は12時間超。(Googleマップ

エル・チャルテンからプエルト・ナタレスへの直行便はなく、エル・カラファテでバスを乗り継ぐ必要があります。途中ラ・レオナ川そばのラ・レオナで休憩を挟んだのち、私たちは3月6日のお昼頃、再びエル・カラファテの地へ舞い戻りました。

カウンターで乗り継ぎ便の出発時刻を聞くと15時過ぎとのこと。出発まではまだかなり時間があるので、近くのカフェで昼食をとることにします。見つけたのはザ・街角のパン屋さん。パンを何個かと”Café con leche”、スペイン語圏ではお馴染みのミルク入りコーヒーを頂きました。

大学の第2外国語でスペイン語を選択していた私たちにとって、Café con lecheは教科書の世界の飲み物。それを実際に口にできたことは少し感慨深いものがありました。

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ラ・レオナの立て看板。一番遠いTOKYOまでは21,041km。思えば遠くへ来たもんだ。(Googleマップ

その後はバスターミナルに戻り、待合室で豪快にシエスタをかまします。国境を越えてプエルト・ナタレスの宿に着いた頃には、時計は22時を回っていました。

到着したゲストハウスで細長くてクルンクルンのロン毛にいちゃんにひと通り歓待を受けると、離れの個室に通された私たちはシャワーを浴びて夜食を作ります。

共用スペースでくつろぐ陽気な他のお客さんと少し交流したあと、遅めの床につきました。


◇ その者蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし…


パイネ国立公園はチリ側パタゴニアの象徴とも言える場所で、花崗岩の奇峰や美しい氷河湖黄金のパンパ野生動物など、非常に多くの見所があります。

風、荒野、手つかずの自然と動物たち、山と谷…黄金色にたなびくパンパとこれらの情景から、私は出発前、どことなく『風の谷のナウシカ』を連想していました。

言わずと知れたジブリ映画の傑作。原作漫画も超大作。
ジブリ映画の個人的2大巨頭はナウシカともののけ姫。

トレッキングにおける名所は大きく3つ、トレス・デル・パイネロス・クエルノスパイネ・グランデ山です。日本語で言うとパイネのとパイネの、名前を聞いただけでワクワクしてきますね。

コースはこれら山々の麓をなぞるように整備されており、その軌跡からWコースOサーキットと呼ばれる2つのトレイルがあります。

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赤点線がトレッキングルート、青線はバスで移動が基本。

Wコースが約4日でメインどころのミラドールを巡るコースなのに対し、Oサーキットは約7日をかけて国立公園内の自然を余すことなく満喫できる充実のコースです。

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我々のトレッキング計画。青囲いがキャンプ予定地、赤囲いが展望台(ミラドール)。緑矢印はOサーキットの一部で黄矢印がWコース。

当初、私たちはこのWトレックとOサーキットのいいとこ取りルートの踏破を目論み、テント泊で3泊4日の行程を組んでいました。若さに任せた若干無理のある日程です。ところが昨日の移動中のバス車内で、2人の間でこんなやりとりが行われます。

「実際明日どうするよ、ホントにセロン泊まる?」

「セロン寄ったところで絶景ポイントある訳じゃないしなぁ。大平原のトレイルとお花畑のキャンプ場でしょ?」

「往復8時間だし翌日と翌々日の移動かなりしんどいんだよな実際。」

「・・・よし、やめよう。」

エル・チャルテンで得た大成功からくる満足感か、はたまた旅の疲労からくる怠慢か、要因は分かりませんが、私たちは初日のトレイルをパスしてプエルト・ナタレスで英気を養うことにしたのです。

大成功の軌跡→EP.1EP.4
最も印象深いのがEP.4のセロ・トーレ↓

それでも2泊3日の強行軍でWトレック制覇は可能です。むしろ1日休養に当てた分トレッキングをより充実したものに出来るに違いありません。

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いざ行かんWトレック(紫のコース)。
街〜AMARGA〜LAS TORRES:バス
LAS TORRES〜PAINE GRANDE:徒歩(トレッキング)
PAINE GRANDE〜AMARGA:フェリー・バス
○印がキャンプサイト。ほとんどが有料のため、特に無料のサイトは半年前で予約がいっぱいになる。昨年9月にやっとの思いで予約したのが、右上のセロン、その下のラストーレス内のセントラル、中央のフランセスの3ヶ所。

「明日からトレッキングなのに夜更かしして大丈夫なのか?」と思った方すみません。こういうわけで、明日はのんびり街散策と物資調達なのであります。


◇ インカのめざめ


2018年3月7日の午前11時、私たちは遅めの朝を迎えると、荷物を床に並べて必要なものをリストアップします。お腹が空きましたが、昼飯は出先で適当にパンでも食べようということになりました。

プエルト・ナタレスはとても天気が良く、南米らしいカラフルな外壁の家々が並ぶ居心地の良い街です。エル・カラファテと比較してもその規模はかなり大きく、パタゴニア南部の要衝地としての繁栄ぶりが伺えます。

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街角のパン屋でパンと牛乳を買い、近くの公園で食べます。例の手作りサンドイッチよりはましですが、やはりお昼のパン率が異常です。

さらに言えば夜のパスタも含め、昼夜の小麦率が異常です。私たちは公園の遊具で軽く腹ごなしをすると、小麦以外の食料を求めスーパーへ買い出しに出かけました。

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日本の公園ではまず見かけないエクササイズ器具がいろいろある

小麦の過剰摂取による人体への悪影響を防ぐため、今夜のメニューはカレーライスです。あいにくジャポニカ米は売っていませんでしたが、タイ米とカレールウの他、カレーライスに必要なものは全て入手することができました。

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湖畔から目指す山々を望む

滞りなく買い出し、荷造り、カレー作りを終えた私たちは、さっそく久々の白いごはんにありつきます。なんと美味しいこと。時間があるのを良いことに”アメタマ”からやったことが功を奏しています。

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久々の米に舌鼓。マグカップの中は日本から持ち込んだインスタント味噌汁。

そして何より驚いたのは、ひときわ存在感を放つジャガイモの美味しさでした。キメが細かくもっちりと濃厚なそのイモは、イモ本来の持つ甘味と旨味を最大限まで引き上げた味わい深さがあります。

このジャガイモを食べてふと思い出したのですが、ジャガイモの原産地は南米大陸なのです。どおりで美味しいわけです。決して知ってて食べて補正がかかっていた訳ではありません。今回の旅の中で、食に関してもっとも感激したのがこのシーンでした。

本当に美味しいので、少々作り過ぎた感のあるカレーをおかわりに次ぐおかわりで全て平らげ、お腹いっぱい胸いっぱいの状況になると、私は明日からのトレッキングの準備に取り掛かったのでした。

この瞬間から不幸の連鎖が始まっていることなど、当時の私には気がつく術もありませんでした。(EP.7へ続く)

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ライター:ふくだ
Instagram:https://www.instagram.com/c.esshi/
★バックナンバー『南米パタゴニア南部トレッキング』
『EP.1 〜ペリト・モレノ氷河編〜』
『EP.2 ~エル・チャルテン編~』
『EP.3 ~フィッツ・ロイ山トレッキング編~』
『EP.4 ~奇峰!セロ・トーレ!!編~』
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『EP.5 〜虹の大地と肉の大地?編〜』



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