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南米パタゴニア南部トレッキング EP.1 〜ペリト・モレノ氷河編〜

パタゴニア。日本国内で発せられるこの単語の90%以上は、アメリカのアウトドアブランドを意味していると思う。では、残りの10%は?

そう、南米大陸のパタゴニア地方です。

◇ch.0 patagoniaとPatagonia

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パタゴニア地方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

私は幼いころから自然が大好きで、山・川・海・草むら・市内の雨水管の中など、いろんなところで虫を捕ったり、秘密基地を作ったり、波に揉まれたりして成長してきました。
地域のこども文化センターの前を流れる用水路の中をひたすら辿っていたら隣町を流れる川に出たときは驚いたなぁ。直径1mもない土管の中を膝まで浸かって移動して、マンホールから外を覗いたら駅前のドラッグストアの看板が見えたりして・・・灯りは豚の鼻が光るキーホルダーだけでした。今思えば、迷って地下で行方不明になるかもとか想像すると鳥肌立つけど、当時はそんなこと微塵も考えずにただ好奇心に任せてとりあえず前進あるのみでした。

話が逸れたようだけど実は逸れてはいません。今回のこの旅も、そんな好奇心を軸にして、ちょっとリッチになったお財布と、自然の中で立派に育った頭で考えた計画性を付け加えて出来ているからです。あの日の雨水菅は豚鼻の青い光に照らされて、10年余りの時を経て地球の裏側にまで到達しました。

知らない人のために少しだけ解説すると、パタゴニア地方は南米大陸の南緯40度付近を流れるコロラド川以南の地域の総称。アンデス山脈を境にチリとアルゼンチンの2カ国に分かれ、その面積はアルゼンチン側だけで80万平方キロメートル以上、山脈と荒れた台地とフィヨルドからなる世界有数の秘境のひとつです。

ちなみに皆さんがよく知る“あの”パタゴニアも、名前の由来はこのパタゴニア地方。そこにはこんな思いが込められているそうな。

『パタゴニアという言葉は「ティンブクトゥ」や「シャングリラ」と同義語、つまりはるか彼方の、地図には載ってないような遠隔地というイメージがあり(、中略)私たちの心に「フィヨルドに流れ込む氷河、風にさらされた鋭い頂き、ガウチョ、コンドルが飛び交う空想的な風景」を呼び起こします。「パタゴニア」は私たちにとって素晴らしい名前』なのです。(パタゴニア公式HPより)

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山好きを名乗る好奇心の塊として、何としても現地に訪れてパタゴニアを全身で体感しておかなければならない。2016年秋にヒマラヤでのトレイルから帰国して以降、パタゴニア行きは半ば強迫観念のごとく私の頭の片隅を占領し続けていました。

◇ch.1 風と氷の大地

一言でパタゴニアと言っても、その広さは日本の約3倍、距離にして南北に2000キロメートルはあろうかという広大な地域です。そのため今回は行き先を南部に絞り、ロス・グラシアレス国立公園のエル・カラファテとエル・チャルテン、パイネ国立公園のプエルト・ナタレス、世界最南端の町ウシュアイアの3か所を陸路で巡ることとしました。

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高速バスでの総移動距離はおよそ1500キロにもなる。
※北部にもマーブルカテドラルやアウストラル街道など、世界一と言われる名所が各地に点在しているのですが、それはまたの機会に取っておきます。

・ 最果ての地へ

羽田空港を発ちまず向かうのはアメリカ合衆国のジョン・F・ケネディ国際空港。ここを経由してアルゼンチンのブエノスアイレスに入り、さらに国内線に乗り換えた後3時間のフライトを経てようやく南部パタゴニアの玄関口であるエル・カラファテにたどり着きます。

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長旅頑張ろうね。

荒野のトレイル前にタイムズスクエアに立ち寄ることで究極の自然と究極の人類社会という世界の両極端を一挙に体験した時、人はどのような思いを抱くのだろうか…などと物思いにふけっていたのも束の間、JFK到着後は体調が優れず、この先に待つ長旅への影響を考慮して空港から1歩も出ずに11時間。ひたすらロビーのベンチで眠り続けて体力温存を図ったのでした。

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ベンチで眠る筆者(撮影は同行していた友人)

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復活

ブエノスアイレスでの乗り継ぎは空港を変える必要がありました。ラプラタ川を横目に見ながらミニストロ・ピスタリニ国際空港からホルヘ・ニューベリー空港まで高速バスで移動します。

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ラプラタ川で釣りをする人々。いったい何が釣れるのだろうか…
※ラプラタ川:アルゼンチンとウルグアイの国境を流れる河川の総称。

そういえば、この旅に登場する地名のほとんどは皆さんに全く馴染みのないものだと思いますが、稀に川の名前や海の名前など、地理や世界史の教科書で学んだことのある名前が登場します。ラプラタ川、まず1つ目。何で習ったのかは不明。次に何が出てきそうか、地図を広げて予想してみても面白いかもしれません。

そんなこんなでエル・カラファテに到着したのが現地時間2018年2月27日の午後7時。日本を出発してから約44時間後のことです。宿泊先はここから先はずっとゲストハウスかテントなので食事も基本は3食自炊ですが、この日はあえて朝夕2食付きの宿を選びました。30時間も飛行機に揺られた直後に自炊するなんて私にはできません。

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エル・カラファテのメインストリート
山の写真ばかりで街や人々の写真が全然残っていなかった…

・ 風と氷の大地

チェックイン後、明日以降の食料の買い出しと明日の氷河トレイルツアーの申し込みを済ませた後は軽く町ブラ。エル・カラファテの町は平屋が多く、メインストリート沿いにはスーパーやトレッキング用品店、観光ツアーのお店などが並んでいます。雑多な印象はまるでなく、ヨーロッパからのトレッカーが多いせいか、雰囲気はのんびりのどかな欧州感漂う田舎町といったところでしょうか(ヨーロッパの田舎町行ったことないけど)。
現地の人々もおおらかで優しいため、観光業が支えるこの町は経済的にもそこそこ潤っているんだな、という印象を受けました。

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街のはずれ、湖畔の静かな散歩道。
静かとはいえ風速は常に15m/s

そんなのどかなカラファテですが、この田舎町のあるパタゴニアは「風と氷の大地」と呼ばれるほど、年間を通して吹きすさぶ強風に見舞われると同時に数多くの氷河が存在します。その風速は40~60メートル毎秒ともいわれ、冗談抜きで常に台風の強風域の中にいる感覚です。また、パタゴニア氷原は南極大陸とグリーンランドに次ぐ世界で3番目に大きな凍結した陸塊として知られています。

滞在2日目、広大な「風と氷の大地」でまず最初に向かったのは、ロス・グラシアレス国立公園内にあるペリト・モレノ氷河でした。

◇ch.2 人生観が変わる? 氷河の大崩落 ~ペリト・モレノ氷河~

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ペリト・モレノ氷河はパタゴニアで最大級の大きさを誇り、世界的にも珍しく「成長している」氷河に分類されます。氷河が成長すると何が起こるか。そう、定期的な氷河の大崩落が見られるのです。「氷河の崩落を見て人生観が変わった」人もたくさんいるほど壮大な光景なんだそう。それを陸から、それもこんなに間近で見学できるのは世界でここだけのようで、さらには氷河の上を歩くことが出来るツアーも組まれています。
もちろん我々も、氷上トレイル込みのツアーに申し込んでいました。

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アルヘンティノ湖(Lago Argentino)

・ 氷上トレイルツアー

カラファテからアルヘンティノ湖の湖畔をバスで走ること1時間半、今度は船に乗り換え、湖上から眼前に迫る氷河を望みます。アンデス山脈から氷河の上を駆け下りてくる強風に芯まで冷やされながら、水面からの高さが70mにもなる巨大な氷の壁を見学するのですが、写真の通り、現物でもその大きさにあまり実感が湧きません。こんなにも“でっかい氷”を想像すらしたことがないので脳内の処理が追い付かなかったのかも知れません。

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船で接近して撮影するも写真からはその大きさがあまり伝わらず。

陸地の展望台にいる観光客との比較でようやくその大きさは「理解」できましたが、「実感」は2年が経った今でも湧いていません。人は想定外に遭遇すると思考が追い付かなくなるという初めての経験をすることが出来ましたが、想定外だったせいか残念ながら(?)人生観は変わりませんでした。

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右岸の緑の中に木道とそこを歩く人々が見える。
氷河は高いところで70メートルに達する。

そしてここでもう1つ、想定外の事態が発生します。なんと氷上トレイル付きと思って予約したツアーが、船上見学のみのツアーだったのです。船はひと通り見学を終えると、氷河に着岸することなく来た時と同じ航路で港へ戻ってゆきました。さようなら、透き通る青色をした悠久の氷のトンネルを抜け、大地が生んだ極めて純度の高い氷を削り出して作った丸い氷でウイスキーを嗜む夢…

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Lago Argentinoを眺めて気持ち切り替え中の筆者

・ コンドルは飛んでいく

気持ちを切り替え、遊歩道からの氷河見学を続けます。青い空に白い雲、それを貫く黒い尖峰の間を悠々と流れる青白く透き通った氷河、それが流れ落ちるコバルトブルーの湖…日本にもいくつかある観光名所”○○の青い池”をバカにするつもりはないけども、ないけども、、ないけどもありゃただの水たまりだね。

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もはや説明不要の美しさ。落ちたカケラがなんだか甘くて美味しそう。

ちなみに上を歩かなくても大満足の氷河ツアー、期待していた大崩落は真夏の暑い季節でないと見るのは難しいらしく、ペリト・モレノ氷河は愛想笑い程度の崩落しか見せてくれませんでした。愛想笑い程度でも十分な大迫力でして、何より凄いのが崩落の際の音。ドゴォォォンという轟音が氷が水面に潜り込む映像に少し遅れて聞こえてきます。この時差が発生することからも、全体のスケールの大きさが感じられました。

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この程度の氷塊でもなかなかの迫力。崩落直後の断面はより一層鮮やかでキレイに見える。崩落の波紋は数分かけてゆっくりと湖面へと広がっていく。

他にも帰り際に氷河を見ながらカラファテの実のお酒を飲めたり、頭上を舞うコンドルを目撃出来たりした上、何よりガイドのお姉さんが美人だったことで、凡ミスはあったものの個人的には大大大満足のパタゴニア「氷の大地編」でしたとさ。

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カラファテの実のお酒とペリト・モレノ氷河。望遠レンズを使っていることに気がつかなくて、一生ピントが合わなかった。
※カラファテの実:メギ科の植物で、「その実を食べると再びパタゴニアに戻ってこられる」という言い伝えがある。味は少し野性味のあるブルーベリーのようで、地元ではジャムなどに広く利用されている。

翌日からはエル・チャルテンに移動しいよいよトレッキングが始まります。
広大なパンパを高速バスで走り抜けた先には、いったいどんな感動が待ち受けるのでしょうか。(続く)






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