濱松哲朗
記事一覧
「塔」2020年8月号(月詠)
落下するペットボトルの速度にて夢より戻るわがたましひは
護られてゐるうちはまだ良かつたが木香薔薇で息ができない
辛うじて私はわたしを騙しつつ砂糖をまはし入れるカフェオレ
適切な言ひ訳として金曜はお持ち帰りのやきとりを買ふ
吊り革が額をつつく 面倒な奴と思はれ出してうれしい
(p.117 山下洋選)
「塔」2020年7月号(月詠)
止まつてはいけないといふ心意気あるいは思ひ込みの春先
謝つたところで既におしまひにされてゐて絞りかけのオレンジ
段々と嫌はれ慣れてゆくことをアボカドに刃をきれいに入れる
通過するたびに高輪ゲートウェイふくらんでゐるからつぽの影
桜から葉桜へ呼び変へるときかすかにゆれる春の水嵩
在りし日と云へばそのぶん遠のいて汽笛のくづれゆく定期船
(p.97 花山多佳子選)
Profile(2020.07.01.ver.)
名前と略歴濱松哲朗(はままつ てつろう、Tetsuro Hamamatsu)
1988(昭和63)年、東京都生まれ。茨城県出身。立命館大学文学部卒業。大学在学中の2010(平成22)年に「塔」入会、のちに「立命短歌」(第5次)へ参加。2014年、塔創刊60周年記念評論賞受賞。2015年、第3回現代短歌社賞次席。現在、「塔」所属、「京都ジャンクション」「穀物」同人、短歌史プロジェクト「Tri」メン
「塔」2020年6月号(月詠)
あなたも、と初めて知りぬ 派遣には適用外のテレワークなり
いくらでも潰せるやうに指の骨鳴らして午後のオフィスに戻る
この先の人身事故に停まりたる電車より見上げる春の雨
迷走の夜は呼吸も錆びついて拒絶の言葉すら疎まれる
ここにきてやうやく合つてきたやうな身体、わたしの終の住処よ
いつもより空気多めにすれ違ふ電車わづかに窓を開けつつ
(p.51 山下泉選)
「塔」2020年5月号(月詠)
帰宅即寝落ちした日の翌朝は一本釣りのやうに目覚める
仕方なく朝のコンビニ 肉まんは買つたそばから口につめ込む
肝心なところで今日もやらかして声と呼吸がこなごなになる
突き放し尽くしたあとの感情はマーマレードのごとき夕映
蛸の足嚙み切るやうな顔をして病院行きのバスへ乗り込む
もう誰も嫌ひたくない週末の水辺に立ち尽くすフラミンゴ
空いてゐたはずの隣にカーテンを短く閉ざす夜のさざなみ
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「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿
はじめに2015年11月発行の「穀物」第2号が完売したので、掲載作「または、最善説」30首を公開します。この連作は、作者としてはあまり出来の良いものではなかったと感じていて、歌集が出る際には改作するか、全く載せないかのどちらかだろうと思いつつ、余裕が無くてずっと放置していたものです。
そうは言いつつも、この連作を作る段階でかなり苦しんだ記憶は今も鮮明に残っていて、これ以降「連作を作る」という行為
Dead Stock(12首)
もうすこし美しくなるはずだつた器が誰の心にもある
この街を消費してゐる僕たちはイオンに寄つてから大学に行く
新設の書架のひかりを浴びながらレーニン全集、とほい呼吸よ
あくまでもそれはいたみで、みづうみにゆらぐ水面のやうに呪つた
君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい
掛け持ちのバイトのやうにやめられるはずも無かつた まだ生きてゐる
暗闇を知つてゐるから見えるんだ点滅をく