濱松哲朗

1988年東京都生まれ。茨城県出身。歌集『翅ある人の音楽』(典々堂・2023年6月)、…

濱松哲朗

1988年東京都生まれ。茨城県出身。歌集『翅ある人の音楽』(典々堂・2023年6月)、評論集『日々の鎖、時々の声』(私家版・2021年5月)。現在、「塔」所属。「京都ジャンクション」同人。短歌史プロジェクト「Tri」メンバー。

マガジン

  • 月詠log(2017.04〜)

    「塔」誌上に掲載された月詠のログです。

  • 掲載記事アーカイブ

    総合誌、同人誌等で過去に掲載されたものを放り込んでいきます。

  • 未刊歌集『春の遠足』

    濱松哲朗の未刊歌集『春の遠足』(2015年・第3回現代短歌社賞次席作品)を公開します。2009年から2014年にかけての約900首から300首を選び、「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」の全3章で構成。マガジンには「誌上歌集版あとがき」、もうひとつのあとがきとも言うべきエッセイ「マサラタウンと松野家」、未収録歌篇を集めた「ひまわりの国――『春の遠足』拾遺」を含みます。

最近の記事

【再録】知ってほしい/知らないでほしい(「短歌研究」2023年4月号)

再録にあたって(まえがき)  雑誌が最新号ではなくなったので、「短歌研究」2023年4月号の特集「短歌の場でのハラスメントを考える」に寄稿した自由記述エッセイを全文公開します。企画・構成に携わった歌人有志によるプロジェクトチームの皆さん、そして企画を担当された短歌研究社のMさん、ほんとうにお疲れさまでした。ここで終わりにするのではなくひとつの通過点として考え続けていきたいと、寄稿者の一人として思っています。  なお、バックナンバーとしては短歌研究社の公式サイトからの購入が

    • 怒り増幅中毒の話

       前回の日記を書いた後、途端に体調を崩した。ちょうど気の滅入るようなことがあったタイミングではあったけれど、分かりやすすぎて自分でもびっくりした。  文章を書く時、自分のなかでエンジンが稼働する気配がする。私が搭載している文章エンジンはどうも環境への負荷の高いタイプのようで、頻繁にヒートアップを起こしては冷却に多大な時間を費やしたりしている。……蒸気機関車かな? 見たり乗ったりする分には大歓迎だが、自分がそうだとさすがに扱いづらい。  ヒートアップといえば。元々あらゆる感

      • 未来解像度の話

         ちょっとまた書きたくなったので、公開の日記というのを久しぶりにやってみようと思います。  ここ数年は手書きの日記を毎日つけていて、そちらは自分以外に読む人がいないので思いっきりあれやこれやをぶちまけているけれど、ここでは試しにまとめてみたくなったことを書いていくつもりです。なので不定期です。いつ何がまとまるかは、その時々の私の思考次第ということで。 *  2023年の最初3か月、私は事あるごとに「死ぬのがこわい」と考えていた。思うだけじゃなくて、「最近、死ぬのがこわくて

        • 「塔」2020年8月号(月詠)

          落下するペットボトルの速度にて夢より戻るわがたましひは 護られてゐるうちはまだ良かつたが木香薔薇で息ができない 辛うじて私はわたしを騙しつつ砂糖をまはし入れるカフェオレ 適切な言ひ訳として金曜はお持ち帰りのやきとりを買ふ 吊り革が額をつつく 面倒な奴と思はれ出してうれしい (p.117 山下洋選)

        【再録】知ってほしい/知らないでほしい(「短歌研究」2023年4月号)

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        • 未刊歌集『春の遠足』
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          【没後10年】河野裕子の本(2020年7月現在)

          河野裕子さん(1946-2010)の歌集その他の著作の「新刊で読める状態にあるもの」を探していきます。 ・基本的に完本で読める媒体の在庫がある場合について版元・版型ごとに太字で示しています。 ・Amazonや版元へのリンクは在庫のあるなしに関わらず付けています。 ・共著以外の関連書籍やムック本、編集委員を務めた『現代短歌大事典』(三省堂、2000年)については今回は省きました。 1.歌集『森のやうに獣のやうに』(第1歌集、311首) 初版:青磁社(第2次)、1972年(解説

          【没後10年】河野裕子の本(2020年7月現在)

          「塔」2020年7月号(月詠)

          止まつてはいけないといふ心意気あるいは思ひ込みの春先 謝つたところで既におしまひにされてゐて絞りかけのオレンジ 段々と嫌はれ慣れてゆくことをアボカドに刃をきれいに入れる 通過するたびに高輪ゲートウェイふくらんでゐるからつぽの影 桜から葉桜へ呼び変へるときかすかにゆれる春の水嵩 在りし日と云へばそのぶん遠のいて汽笛のくづれゆく定期船 (p.97 花山多佳子選)

          「塔」2020年7月号(月詠)

          Profile(2020.07.01.ver.)

          名前と略歴濱松哲朗(はままつ てつろう、Tetsuro Hamamatsu) 1988(昭和63)年、東京都生まれ。茨城県出身。立命館大学文学部卒業。大学在学中の2010(平成22)年に「塔」入会、のちに「立命短歌」(第5次)へ参加。2014年、塔創刊60周年記念評論賞受賞。2015年、第3回現代短歌社賞次席。現在、「塔」所属、「京都ジャンクション」「穀物」同人、短歌史プロジェクト「Tri」メンバー。神奈川県在住。 主な作品・仕事など・未刊歌集『春の遠足』 2009年から

          Profile(2020.07.01.ver.)

          「塔」2020年6月号(月詠)

          あなたも、と初めて知りぬ 派遣には適用外のテレワークなり いくらでも潰せるやうに指の骨鳴らして午後のオフィスに戻る この先の人身事故に停まりたる電車より見上げる春の雨 迷走の夜は呼吸も錆びついて拒絶の言葉すら疎まれる ここにきてやうやく合つてきたやうな身体、わたしの終の住処よ いつもより空気多めにすれ違ふ電車わづかに窓を開けつつ (p.51 山下泉選)

          「塔」2020年6月号(月詠)

          「塔」2020年5月号(月詠)

          帰宅即寝落ちした日の翌朝は一本釣りのやうに目覚める 仕方なく朝のコンビニ 肉まんは買つたそばから口につめ込む 肝心なところで今日もやらかして声と呼吸がこなごなになる 突き放し尽くしたあとの感情はマーマレードのごとき夕映 蛸の足嚙み切るやうな顔をして病院行きのバスへ乗り込む もう誰も嫌ひたくない週末の水辺に立ち尽くすフラミンゴ 空いてゐたはずの隣にカーテンを短く閉ざす夜のさざなみ (p.37-38 前田康子選)

          「塔」2020年5月号(月詠)

          夜の貨物列車

          小さい頃から貨物列車が好きだった。ブルートレインを引っ張る姿も、長い貨車を延々と運んで通過していく様も、良いなあ、カッコイイなあ、と思いながら写真集をめくったり、駅に停まっている列車を眺めたりしていた。 どうして好きになったのかは思い出せない。そもそも何かを好きになるということは、きちんとした筋道を辿って起こる現象ではないはずだ。不意にやってきて、熱を帯び、場合によっては急激に冷めてしまう。実際、僕の貨物列車好きも、鉄道ファンの人には笑われてしまうような些細なもので、もし父

          夜の貨物列車

          図書館と鼻血

          水戸駅北口から茨城県立図書館へ向かう坂道は、中高の6年間を通して何度も往復した道である。 慣れた道だから、茨城に住んでいる頃は特に何も思うことも無かったのだが、離れてしまってから思い返してみると、あの坂はちょっと危険なくらいに急な勾配を持っている。坂を上り切ったところはビルで云うとおよそ4階あたりの高さに相当する。普通の歩道として整備するのなんか諦めて、潔く階段にでもしてしまえば良かったのに、と思うくらい急なものだから、実際にビルとビルの間に、近隣住民とサラリーマンだけが知

          図書館と鼻血

          「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

          はじめに2015年11月発行の「穀物」第2号が完売したので、掲載作「または、最善説」30首を公開します。この連作は、作者としてはあまり出来の良いものではなかったと感じていて、歌集が出る際には改作するか、全く載せないかのどちらかだろうと思いつつ、余裕が無くてずっと放置していたものです。 そうは言いつつも、この連作を作る段階でかなり苦しんだ記憶は今も鮮明に残っていて、これ以降「連作を作る」という行為に自覚的になったきっかけの作品でもあります。そこで、この作品の成立過程を、データ

          「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

          Dead Stock(12首)

          もうすこし美しくなるはずだつた器が誰の心にもある この街を消費してゐる僕たちはイオンに寄つてから大学に行く 新設の書架のひかりを浴びながらレーニン全集、とほい呼吸よ あくまでもそれはいたみで、みづうみにゆらぐ水面のやうに呪つた 君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい 掛け持ちのバイトのやうにやめられるはずも無かつた まだ生きてゐる 暗闇を知つてゐるから見えるんだ点滅をくりかへすたましひ どうせ手も足も出なくて気づいたらみんな故郷に飛ばされてゐる

          Dead Stock(12首)

          「塔」2020年4月号(月詠)

          たぶん見えてゐないのだらう継ぎ接ぎの渋谷駅からあまたあふるる たまに来る寒中見舞ひ さういへば一円切手の人誰だつけ とほくからでも手応へで分かるんだ鉛のこゑを撃つてきたから 仏文科なき大学につやつやとプレイヤード叢書並んでゐたり あの形のものは何でもヤクルトと呼ぶ、ごく稀に林檎ジュースで 明日辞める仕事のことを思ひつつ埠頭に冬の風あつめをり くたくたのスポンジ握りしめながら後づけされる愛は言ひ訳 (p.28 栗木京子選)

          「塔」2020年4月号(月詠)

          「塔」2020年3月号(月詠)

          深海のやうな部屋にて目覚めればいつからつけつぱなしのラジオ 頻繁に猫に会ふから猫道と名づけて今日も抜ける猫道 派手に音はづして笑ひ合ひながら室内楽になりゆく四人 どうせ全部自分で食べる大根に隠し包丁隠さず入れる 古本で買つた文庫の初版から蚯蚓のごとくこぼれるスピン 狂乱のコロラトゥーラに拍手するこの手で殺したのだ、私も 眠るたび心の奥に市が立ちぬくいぬくいと手招いてゐる (p.95)

          「塔」2020年3月号(月詠)

          「塔」2020年1月号(月詠)

          日除けより外へこぼれてゆく時の身体に泥の傾きはあり かひがら、と聞いてあなたは巻き貝のひびきを奥へしづめゆく耳 少しだけ大崎行きは空いてゐてそれきり夏も終はつてしまふ クーピーはすぐに砕けてしまふから花火まみれになる自由帳 午後からは雨と聞きつけ店頭にビニール傘の集ふひととき 繁忙期 まんまと二駅寝過ごして知らない駅に少し親しむ 酔つ払ふために買ひ込むチューハイのロング缶、これもこの世の苦行 (p.133)

          「塔」2020年1月号(月詠)