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国立国会図書館(NDL)デジタルコレクションの個人送信追加分を好き勝手に眺めてみた。(001・全歌集篇)


はじめに

2024年4月30日(火)、国立国会図書館(NDL)のデジタル化済み資料を閲覧できるサービス「国立国会図書館デジタルコレクション」(以下「デジコレ」と略記)の図書館向け/個人送信向け対象資料が新たに約26万点追加されたというお知らせがありました。

これはかなり嬉しいニュースです。特に「国内刊行図書(昭和44(1969)年から平成7(1995)年までに整理されたものの一部)」の追加は得るものが大きい。勿論デジコレを使うには利用登録が必須で、国内在住であることなど条件はありますが、それでもPCやタブレット、頑張ればスマホでもこれだけの資料が読めてしまうというのは画期的です。

デジコレ上の資料には下記の3つの公開範囲がありまして、

ログインなしで閲覧可能
インターネット環境があれば利用登録なしで閲覧できる資料。
送信サービスで閲覧可能
NDLに利用者本登録済みの国内在住者が、個人端末や各地の図書館の端末で閲覧できる資料。
国立国会図書館内限定
NDLに行かないと閲覧できないデジタル化済み資料(当然利用者本登録は必要)。

今回のニュースは要するに、③から②にたくさんグレードアップしましたよ、というものです(ちなみに、現時点では全文検索には未対応のものが多いように感じました。あくまで私の閲覧した範囲ですが)。

では具体的にどんな資料が個人送信に追加されたのか。デジコレ上の資料には「デジタル化製作日」と「公開開始日」の記載はありますが、公開範囲がいつ繰り上がったか、どの資料が今回の個人送信追加分なのかを判断できるソースがありません(個々人の記憶と勘を除く)。

実は今回の追加資料一覧は、NDLのお知らせページにしれっと上がっています。.zipで。仕方ないのでそれをダウンロードしてなんやかんやして、26万件分のリスト(めっちゃ重い)を作りました。今回はこのリストとデジコレ本体を見比べながら、個人的に「うひょー!」となったものを列挙していきます。

1.「タイトル」を「全歌集」で検索する

81件追加あり。勿論これでは『定本○○歌集』のような、実質的に全歌集だけど「全歌集」とは銘打っていないタイプの本は落ちてしまうけれど、ひとまずここから。

個人的におおっ! と思ったのはこの辺でしょうか。

『真鍋美恵子全歌集』(沖積舎・1983.11)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12535618
第1歌集『径』から第8歌集『雲熟れやまず』までを収録。これまでは第2歌集『白線』(女人短歌会・1950.12)から第5歌集『蜜糖』(新星書房・1964.03)までが個人送信対象でしたが、全歌集が読めることでかなり網羅できるようになりました。なお、全歌集以降は『彩秋』(沖積舎・1986.11)『冬の海鳴る』(沖積舎・1989.10)の2冊。

とりとめなきことに一日の暮れにしか大いなる月の昇るをし見つ

真鍋美恵子『白線』

この家に古りたる鏡光りをりむらさきに海草が煮えてゐる昼

真鍋美恵子『羊歯は萠えゐん』

『齋藤史全歌集 昭和3年~昭和51年』(大和書房・1977.12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12550352/1/363
齋藤史の全歌集は2回出ていますが、これはタイトルの通り古い方で、第8歌集『ひたくれなゐ』(不識書院・1977.06)まで収録。この次の『渉りかゆかむ』(不識書院・1985.09)も今回個人送信対象になりました。

かなしみを我一人とぞ思ふなよ五尺いささかの身の丈がさま

齋藤史『うたのゆくへ』

若き日はおのれをもあざむき易くして五指に五つの花咲かしめき

齋藤史『風に燃す』

『大西民子全歌集』(沖積舎・1981.12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12548367/1/282
これも古い方(生前刊行)で、第7歌集『風水』(この全歌集が初出)までを収録。この次の『印度の果実』(短歌新聞社・1986.06)も今回追加されています。

女ゆゑスムーズにゆくとふかげ口もされつつきりのなき仕事に追はる

大西民子『不文の掟』

前歯もて手袋を脱ぎししぐさなど思はれて恋ほし雪の降る日は

大西民子『野分の章』

『木俣修全歌集』(明治書院・1985.10)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12495213/1/681
ページ数や画像コマ数を見てください。……お分かりいただけただろうか。1300ページ超。物理的にも身体的にも読むのが大変だった全歌集が、デジタル化されたことで格段に読みやすくなった例だと思います。

シニシズムに執せしことも消しがたき履歴のひとつ身はけふ生きて

木俣修『落葉の章』

逆吊さかつりの鰤さむきかな夜の店にすゑもののごときいろを放ちて

木俣修『去年今年』

『前田透全歌集』(短歌新聞社・1984.10)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12535623/1/217
雑誌の「詩歌」は変わらず国会図書館限定公開だけれど、全歌集で初期の自由律作品から晩年の作品まで網羅的に読めるようになりました。

そのとき、人はまたかなしめる葦でもあつた、といふ思ひさへうすれ

前田透「初期歌篇」(1940)

やはりチモールなのだあの音は風に鳴りている
丘のタマリンド

前田透『冬すでに過ぐ』

『前田夕暮全歌集』(至文堂・1970.06)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12534914
透の父・夕暮の全歌集も。自由律に振り切っていた時期のある人の初句索引って見ているだけでちょこちょこ面白いです。ちなみに息子が父を論じた、前田透『評伝 前田夕暮』(桜楓社・1979.05)も読めるようになりました。

肉體的な、現實的な都市!眞逆さまに空におちてくる大阪!

前田夕暮『水源地帯』

ある夜の街の一角から、私の體のなかにまぎれ込んだ彼の影――

前田夕暮『青樫は歌ふ』

『定本五島美代子全歌集』(短歌新聞社・1983.04)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12473686
濱田美枝子さんの『『女人短歌』小さなるものの芽生えを、女性から奪うことなかれ』(書肆侃侃房・2023.06)を読んで五島美代子が気になった人もこれでひと安心です(?)。

女すでに人格形成の後にしてあひあひしとふは及びがたきかも

五島美代子『炎と雪』

わが留守をハンガアにかけしわが服のみ見つめゐるといふ子を何とせむ

五島美代子『時差』

『館山一子全歌集』(短歌新聞社・1969.05)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12562273
五島美代子と同じく、アンソロジー『新風十人』に参加した館山一子も読めます。読めます、というか、私も今回初めて読んだのですが、すごくないですかこれ。

ほんたうの事を言ふと後でひとりさびしい思ひをしなければならないそれをひとはこはがつて居る

館山一子『プロレタリア意識の下に』

追ひ討つに似てさびしかり一夜いちや寝てふたたび向ふ木机のまへ

館山一子『李花』

2.「タイトル」に「全歌集」は付かないが実質的に全歌集のもの

『部類 長沢美津家集』(新星書房・1985.10)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12541854/1/363
第16歌集『八十扉』までの作品を10に分類して並べ直すという、近現代ではあまり見ない佇まいの本。こちらも「女人短歌」関連で興味ある人がいるのではないでしょうか。

たちどまる足もとよりつつみくる昏れのこりたる地の果のいろ

長沢美津『汐』

火の熾る音たちしよりくれなゐの火焔のなかにいろなきほむら

長沢美津『往来』

『定本 宮柊二短歌集成』(講談社・1981.06)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12538853/1/7
第9歌集『忘瓦亭の歌』までを収録。検索すると『定本 宮柊二全歌集』(立風書房・1971.12)もヒットしますが、こちらの方が新しいので収録分は多いです。ちなみにラスト3冊『純黄』(石川書房・1986.05)『緑金の森』(短歌新聞社・1986.06)『白秋胸像』(伊麻書房・1986.07)も個別に読めます。

いへごもりものきくらせりかへりみればハイネのごとくわれはうたはず

宮柊二『晩夏』

ほむらだつことくなりてわがいのち夜半よは溲瓶しびんおとほそぼそし

宮柊二『獨石馬』

『河野愛子歌集 1940-1977』(沖積舎・1982.10)

https://dl.ndl.go.jp/pid/12497805/1/236
第4歌集『鳥眉』まで(未刊歌集『ほのかなる孤独』『夏草』を含む)を収録。第5歌集『黒羅』(不識書院・1983.08)がまさかの蔵書なし……第6歌集『反花篇』(短歌新聞社・1986.09)は読めます。

吾が亡がらに斯くしとしととあらむ髪思ひて淋し髪洗ひつつ

河野愛子『木の間の道』

まなかひに春は昏れゆく日の白さ首のべて鳥は死にに行くらむ

河野愛子『鳥眉』

『定本 塚本邦雄湊合歌集』(文藝春秋・1982.05)

本巻:https://dl.ndl.go.jp/pid/12564858/1/781
別巻:https://dl.ndl.go.jp/pid/12564859/1/9
……は??? マジでこれも良いんですか??? 第12歌集『天變の書』までと間奏歌集その他を収めた、言わずと知れた例のゴツい本。これも手首を傷める本の筆頭(持って読むものでもないか)。

兵士ねむる革椅子のかげ、古びれし地球儀の海みどり濃かりき

塚本邦雄『水葬物語』

死に死に死に死にてをはりの明るまむ靑鱚あをきすはらてのひらに透く

塚本邦雄『星餐圖』

全歌集だけでこんなに長くなってしまった……この話しばらく続きます。

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