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(12)女子高生が同級生に将棋の駒の動かし方を教えたら、半年後に近畿3位になった話

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※記憶に基づいた実話だが、個人情報特定を避けてストーリーに影響がないところは改変するかもしれない。

※正確には8ヶ月後である。

4ヶ月後なう

今回は私の話。長め&少し専門的です。

高校選手権女子個人戦、初戦(2回戦)の相手がほぼ確実に藤枝明誠の人(Gさんとしておこう)に決まり、ただぼんやり「強くなりたい」と思っていたのが、具体的に「Gさんに勝ちさえすれば、ベスト4に入って高校竜王戦に出られる」に変わった。

初めは絶望していたが、やるべきことが明確になった。

「角換わり棒銀」対策である。

(6)に書いたが、当時の私は定跡をひとつも知らなかった。

棒銀っていうのがあるのは知ってた。囲いや格言も知ってた。手筋の本を読むのも好きだった。

ほかに好みの展開はあったが、基本的には成り行きで指し手を決めていた。定跡を知らないので、得意戦法もなかった。

~~おまけ話~~

▲7六歩△3四歩の出だしなら▲2二角成△同銀▲4五角と進めていた。
高校女子の大会なら、半分以上の確率で△5二金左▲3四角に△3三銀▲2三角成と馬を作れた。
あとは相手の子が「習っていない形」に動揺して駒をタダで取らせてくれるので、取った駒で攻めればよかった。
楽に勝てるので、味をしめて何度もやっていた。

後手番で角道を止められても、振り飛車相手には「飛車さえ成れれば勝てる」と思っていたので、舟囲いに囲ったあとは歩頭に桂馬を跳ねて、桂損しても角交換から飛車先を突破すればいいと思っていた。
駒損しても飛車が成れば取り返せるし。

~~以上おまけ話~~

藤枝明誠高校が伝統的に角換わり棒銀を勉強しているという話は、3月の(桃子ちゃんと出会った)高校女子選抜大会で知った。

私はそれまで「角換わり棒銀」という戦法があることを知らず、でも「角換わりに5筋は突くな」という格言は知っていたので、とりあえず5筋は突かない矢倉囲いにして指していた。

しかしそれで、藤枝明誠高校の子にこてんぱんに負けた。
どうやら「角換わり棒銀」というのは、きちんと勉強しておかないとすぐにつぶされるらしい。

Gさんとの対戦が決まって少しして、私は学校帰りによく立ち寄っていた、京都駅近くのアバンティブックセンターに行った。
よく立ち寄っていたのはブックセンターではなく、アバンティ内の中古CD屋なのだけれども。
この年3月に突然ハマったCHAGE & ASKAの中古アルバムを集め始めていた。
(いつも買うから、少しずつ値上げされていた気がする)

ブックセンターの将棋コーナーで、とにかく棒銀の本を探した。

見つけたのが2つ。

棒銀大作戦(青野照市九段)

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(一緒に買った「矢倉大作戦」とともに)

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(棒銀大作戦のほうが読み込まれている)

棒銀戦法(石田和雄九段)

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(どっちも創元社だったのか。創元社すごいな!)

初めに「棒銀大作戦」を読んだ。次の一手形式で全体量が少なかったし、「将棋ゲームブック」と書いてあるので読みやすそうだったからだ。

しかし、何度か読んでみて、これはあかん、と思った。
いつも棒銀が優勢になっている。
違う、そうじゃない。私は棒銀をやっつける方法が知りたい。
毎回毎回棒銀に爽快に勝たれていては困る。

次に石田九段の「棒銀戦法」を読んだ。どちらの本も原始棒銀や早繰り銀の項があったが、そんなところは無視して角換わり棒銀だけを読んだ。
強くなるために読んでいるのではなく、Gさんに勝つために読んでいるので、他のページはどうでもいい。Gさんに勝てそうな作戦を探した。

ひとつの光を見つけた。
石田本には、受ける側は避けなければならないはずの銀交換をさせて、反撃する指し方が紹介されていた。
これも別に優勢にならなかったけれども、少なくともこの本の通りに指せば、ぶっ潰されることにはならなさそうだった。

ポイントを押さえれば多少は手順前後できるのも、定跡を知らない私にはありがたかった。先手でも後手でも使えそうだった。
具体的に書くと、△5四角を打って、△4四歩と突いて、銀交換のときに△3三金と上がる、アレである。(わからない人は気にしないでください)
△5四角に対する▲3八角を「升田新手」と言う。……と、大人になってから知った。
升田先生(升田幸三実力制第4代名人。つまり偉い人)が新手を指してくれていなかったらきっとこの変化は載っていなかった。升田先生ありがとう。

△3三金と上がったときの絶妙なバランスがそれまで味わったことのない新しい感覚で、将棋にこんな手順があることが衝撃的だった。
魔法のような手順だ。
読めば読むほど、これならどうにかなる気がした。

でも、読むだけだった。

相変わらず実戦の95%は6枚落ち上手の日々。覚えた手順を試す機会もなかった。

そしていよいよ、山形に向かう日が来る。

(13でようやく、まずは山形へ…)

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