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読書のお部屋

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2024年5月の記事一覧

もっと おおきな たいほうを

もっと おおきな たいほうを

ウサギはラジオの仕事を終えると、急ぎ足で駅へ向かった。飛び乗った電車の窓からは、夕暮れの景色が、心地よいリズムを刻んで流れていく。やがて小さな駅に到着すると、彼女は静かに図書館へと足を向けた。

閉館間近で慌ただしい窓口を通り過ぎ、児童書コーナーに向かうと、求めていた本を探し始めた。彼女が手にしたのは、二見正直さんの「もっと おおきな たいほうを」という絵本だった。閲覧席に腰を下ろすと、最初のペー

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よかったね ネッドくん

よかったね ネッドくん

その日、カメが図書館の静けさの中で本の海に潜っていると、肩を落としてトボトボと歩くウサギが現れた。彼女の表情は曇りガラスのように霞がかかっており、どこか彼女の不運を物語っていた。

彼女は細い身体を、力なく閲覧席の椅子にあずけると、小さな声で話し始めた。「長い列に並んだのに、買いたかったスイーツが目の前で売り切れてしまったの。私はこの星の中で一番の不幸な人なの」

カメはそんな彼女に、「ウサギさん

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あの時の日記帳

あの時の日記帳

その日、カメは部屋の本棚から一冊の日記帳を取り出した。ページをめくると、あの時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。

今日、図書館で返却作業をしていたら一冊の絵本に出会った。表紙には砂漠を横切る孤独な道と、その道をひたすら歩く旅人の姿があった。一旦ページをめくり始めると、その指は途中で止まることはなかった。

その旅人はバスを待っていた。馬に乗った人が通り過ぎても、自転車に乗った人が通り過ぎてもバスは来な

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1つぶのおこめ

1つぶのおこめ

その日、図書館に辿り着いたウサギは、窓際の閲覧席でページをめくっていたカメのもとへ急いだ。彼女は静かにカメに問いかけた。「心を澄ませるような本が読みたいんだけど」カメは一瞬考えをめぐらせた後、彼女の意図を尋ねることなく、黙って手元の絵本を差し出した。

絵本を受け取ったウサギは、彼の隣にふわりと腰をおろすと、ページをぱらりと開いた。そして魔法に掛かったように、夢中でページをめくり続けた。最後のペー

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ふしぎなたけのこ

ふしぎなたけのこ

その日、ウサギは駅へと続くいつもの道を軽やかに歩いていた。道の両側には若葉がきらめく木々が立ち並び、風が穏やかに吹いていた。彼女はその風に長い髪を揺らしながら、こんもりと繁る竹林に差し掛かった。

ウサギはふと足を止めて、竹林を見つめた。彼女の目の前のたけのこは、数日前に見た時よりもずっと大きくなっていた。「こんなに早く大きくなるものだったかしら?」と彼女は心の中で問いかけた。その小さな疑問は、静

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