「無機質な命を彩る」

朧げな視界が右往左往に揺れる。絵を描くたびに作品に命を吸い取られていく気がした。両頬を強く叩いた。開けた視界を使って、再びペンを動かした。

「ダメだ。書き直し」
 監督から指摘を受けて,また命を紙に注ぐ。何度も何度もその繰り返し。隣では同僚が無表情でコーヒーを流し込んでいる。近くのゴミ箱を見ると山ほどのコーヒーやエナジードリンクの缶が転がっている。

 飲もうとも考えたが、僕は仕事はあと少しだ。再び、鉛筆を握った。

 しばらくしてアニメが完成した。血も汗も涙も全て紙に注いだ。果たしてどんな作品になっていることだろう。

 再生を始めるとキャラクターは動きを始めた。アニメが始まってしばらくしたあと、視界が歪んだ。僕は泣いていた。苦労がようやく報われた気がしたからだ。

 後の試写会でも僕は泣いていた。自分達の血潮の結晶が賛美を受けていたのだ。これだからアニメ制作はやめられない。

 しばらくして僕はまた別のアニメの作画を担当した。前の作品よりも躍動感溢れる作品なのできっと過酷だろう。しかし、それでも完成した高揚感を味わうためなら僕は喜んで、肉体を捧げよう。そう決心して僕は鉛筆を握った。

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