「お疲れ様でした」

静まり返った食堂。俺は一人、丸椅子に腰を下ろしていた。今日、俺はこの食堂を占める。理由は単純。歳だ。
「もう終わりか」
 老いというのは実に嘆かわしいものだ。もっとバリバリ働きたいが体が辛くて仕方がない。だから今日で終わりだ。すると食堂の扉が開いた。
「いらっしゃい! おっ! 来てくれたのか」
 入って来たのは顎髭を生やした常連の男性客だった。もう何十年も来てくれているお得意様みたいなもんだ。

「いつもので」
「あいよ!」
 俺はすぐに調理を開始した。しばらくするとまた扉が開いた。次も常連だ。

「店長。店じまいだったってんで来ましたよー」
「おう! ありがとよ!そこ座っててくれ!」
 調理と注文。老体に鞭を打ってせわしなくこなしていく。

「店長! 手伝うぜ」
 顎髭を生やした男性客が料理をテーブルに運んでくれた。そして次から次へとお客さんが店に入って来た。いつのまにか店は大繁盛。そしてそんな俺を手伝ってくれる人も出て来た。

 涙が滲んで来た。こんなにも心が温かくなったのは何年ぶりだろう。ああ、よかった。続けてよかった。

 店を閉じた後、店の前で待っていた大勢の客の前で暖簾を下げた。

「お疲れ様でした!」
 お客さんから溢れるたくさんの労いの言葉。俺は胸が高鳴って、涙を隠すように頭を下げた。


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