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運動誘発性痛覚低下。神経メカニズムの解明-Ⅳ

📖 文献情報 と 抄録和訳

身体的ストレスと運動制限による運動誘発性痛覚低下と疼痛延長のメカニズムの解明

📕Tanaka, Kenichi, et al. "Elucidation of the mechanisms of exercise-induced hypoalgesia and pain prolongation due to physical stress and the restriction of movement." Neurobiology of Pain (2023): 100133. https://doi.org/10.1016/j.ynpai.2023.100133
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🔑 Key points
🔹適度な運動は中脳辺縁系ドーパミン作動性ネットワークを活性化する。
🔹脳の報酬回路の活性化が運動誘発性痛覚減退に重要である。
🔹適度な運動はストレスによって誘発された身体的・感情的障害を回復させる。

[レビュー概要] 持続的な疼痛信号は脳機能障害を引き起こし、疼痛をさらに長引かせる。さらに、ギプスなどによる物理的な動きの制限は、ストレスを引き起こし、痛みを長引かせる。近年、リハビリテーションを含む運動療法が慢性疼痛の緩和に有効であることが認識されている。一方、身体的ストレスや動きの制限は痛みを長引かせる。本総説では、疼痛遷延の制御に関与する神経回路と運動誘発性痛覚低下(exercise-induced hypoalgesia, EIH)のメカニズムについて述べる。また、これらの現象における中脳辺縁系ドーパミン作動性ネットワークの重要性についても述べる。

■ このレビュー論文の目次
・運動誘発性痛覚低下に関与する中枢神経系経路
・運動によるエネルギー代謝と疼痛緩和
・運動による自律神経活動と疼痛緩和
・固定、拘束ストレス、ギプス固定による痛みの長期化
・ストレスによる痛覚過敏と痛みの延長
・抑うつ・不安関連慢性疼痛状態における脳報酬回路の機能障害
・豊かな環境が疼痛緩和に及ぼす影響

図. 痛みとストレスの悪循環に対する運動の効果。
<脊髄レベル>
■ 不活動:脊髄では、ギプス固定によって誘導されるTLR4を介したミクログリアの活性化が慢性疼痛を増悪させるが(📕Huck, 2021 >>> doi.)
■ 運動:運動は抗炎症性サイトカインの産生を増加させ(📕Almeida, 2015 >>> doi.; 📕Bobinski, 2018 >>> doi.)、ミクログリアのヒストンアセチル化レベルを上昇させる(📕Kami, 2016 >>> doi.)。

<脳レベル>
■ ストレス:脳では、ストレスが視床下部CRHニューロンを活性化し、慢性疼痛を増悪させる。
■ 運動
・一方、運動は内因性β-エンドルフィン系の活性化を通じて慢性疼痛を改善するが、このβ-エンドルフィン系はドーパミン作動性系の活性化と関連している(📕Wakaizumi, 2016 >>> doi.; 📕Kami, 2018 >>> doi.; 📕Kami, 2022 >>> doi.)。
・さらに、腹側被蓋野のドーパミン作動性ニューロンは、視床下部の室傍核のCRHニューロンの活性を間接的に抑制する神経パターンを有している可能性があり、運動によるドーパミン作動性システムの活性化を介して生じる多幸状態は、ネガティブな情動反応やストレスによる慢性疼痛の増悪を緩和することが示唆される。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これまで、運動誘発性痛覚低下(EIH; exercise-induced hypoalgesia)の威力とメカニズムについて、いくつかの文献抄読をしてきた。

今回のレビューは、特に脊髄、脳レベルで起こっている化学物質系の運動による変化に焦点を当てて解説してくれている。
帰結がしっかりと「だから疼痛が軽減する」というところに着地するところが気持ちいい。

毎度、同じ文章で締めるが…、
Exercise is Medicine(EIM)、運動は薬である。
そして、運動がなぜ薬なのか、その仕組みまでもが知られつつある。
痛いから動かない?
No!痛いから、動くのだ。治すために。
EIHの概念は、僕たち理学療法士の仕事を、全肯定してくれる。

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