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運動誘発性痛覚低下。神経メカニズムの解明-Ⅱ

📖 文献情報 と 抄録和訳

一次運動野に由来する層特異的な疼痛緩和経路

📕Gan, Zheng, et al. "Layer-specific pain relief pathways originating from primary motor cortex." Science 378.6626 (2022): 1336-1343. https://doi.org/10.1126/science.add4391
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[背景・目的] 一次運動野の主な機能は、運動を開始することと、自発的な運動行動を制御することである。意外なことに、痛みの知覚も運動皮質の反応を呼び起こす。しかし、運動皮質が痛みの知覚を調節するという従来にない役割の神経生物学的基盤については、ほとんどわかっていない。

[方法] 後足の腓腹神経を切断したときの痛みや足裏を低温に晒したときの痛みを、一次運動野全体の刺激で抑えられることをまず確認し、そのあと、運動野の興奮性神経の活動で起こること、それも第5層および第6層の刺激が効果を持つことを明らかにしている。作用のスタートラインがわかると、後は広範なウイルス追跡と光遺伝学などのテクノロジーを駆使して、運動野神経興奮が脊髄からの痛み感覚を抑制するのか神経回路を調べている。

[結果]
■ 運動野第5層が運動誘発性痛覚低下を引き起こす仕組み
運動野第5層から投射する神経
→運動野興奮神経は視床の不確帯と呼ばれる部分と、元々痛覚抑制作用が知られる水道周囲灰白質へと投射
→脳幹の青班核やRostral Ventromedial Medullaという部分に投射し
→ここから直接痛み感覚を抑えるシグナルが発生する
→すなわち、運動野が興奮すると直接痛み感覚が上記の回路を経て抑制される。

■ 運動野第6層が運動誘発性痛覚低下を引き起こす仕組み
運動野第6層の興奮神経
→視床背内束核へと投射
→側座核のGABA作動性神経へつながり、
→ドーパミンの分泌を変化させる
→痛みによる感情ストレスを和らげる
→負の感情 & 対処行動が抑制される

[結論] 運動野ニューロンは神経障害性疼痛の感覚的・回避的情動的要素を同調させるために層特異的な経路を用い、これを疼痛緩和の目的に利用することが可能である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

以前、運動誘発性痛覚低下の神経メカニズムに関する論文をレビューした。
その論文の結論としては、以下のようなものだった。

等尺性運動による鎮痛効果は、可動部だけでなく遠位部にも及ぶことがわかった。
運動強度は、これらの効果を調節する上で重要な役割を果たす。
運動による痛覚減退は、脊髄ゲーティング機構を介した侵害受容情報伝達の調節に関連し、またトップダウン型の下降性疼痛抑制機構に依存している可能性がある。

つまり、過去抄読の文献では、主に脊髄-効果器にフォーカスを当てて仕組みを検討している。
今回の論文は、もっと直接的に脳内で起こっていることに光を当てた。

その結果、運動誘発性痛覚低下は運動皮質の層特異的に違うメカニズムを有していることを明らかにした。
もしそうなら、各層の活動を引き起こしやすい運動課題は違うのだろうか?
例えば、感情ストレスを和らげたい人には、第6層を活性化させる運動が望ましい、となるだろう。
そのとき、僕たちは運動処方を使い分けられるのだろうか。
それは、どうやって調べればいいのだろうか。
道は、果てしなくのびている…。

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