見出し画像

運動誘発性痛覚低下:神経メカニズムの解明

📖 文献情報 と 抄録和訳

運動による痛覚減退の効果とその神経機構

Wu B, Zhou L, Chen C, Wang J, Hu LI, Wang X. Effects of Exercise-induced Hypoalgesia and Its Neural Mechanisms. Med Sci Sports Exerc. 2022 Feb 1;54(2):220-231.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:N2-P2振幅とは?
- N2波とP2波は痛み刺激に敏感であり、その振幅は痛み情報処理に関連する脳活動を正確に反映できる(📕Meng, 2013 >>> doi.;Rütgen, 2015 >>> doi.)。
- さらに、N2波とP2波は交絡因子が少なく、痛み評価のための安定した指標である(📕Meng, 2013 >>> doi.)。

[背景・目的] 運動による痛覚低下は、しばしば文献に報告されている。しかし、この現象の根底にある神経機構は不明なままである。本研究では、等尺性運動の強度が痛覚に及ぼす影響を無作為化比較法により検討し、熱誘発脳反応の動的変化を追跡することにより、その神経機構を検討した。

[方法] 研究方法48名の被験者を、運動強度の異なる3群(高、低、対照)のいずれかに無作為に割り付けた。運動前後における主観的な疼痛報告と圧迫刺激 or 熱刺激によって誘発される脳反応を評価した(図1)。

画像1

✅ 図1. 実験デザイン。実験全体は2相(すなわち、相1と相2)からなり、各相で3つのセッションが行われた:介入前(相1で~10分、相2で~20分)、介入(~25分)、介入後(相1で~10分、相2で~20分)であった。48名の参加者を3つの群(20%MVC群,40%MVC群,対照群;各群16名)に無作為に割り付け,介入を行った.PPTとPPRの評価は第1相で、HPTの評価とHPR/EEGの記録は第2相で実施された。これらの評価と脳波記録は、各フェーズの介入前と介入後の両セッションで行われた。EEG記録中、参加者の前腕、運動した肢または運動していない肢に20回の熱刺激を与えた(各肢に10回)。
用語;pressure pain thresholds (PPT)、pressure pain ratings (PPR)、heat pain thresholds(HPT)

[結果] 1)運動肢の手背と上腕二頭筋(収縮筋に近い方)で圧痛閾値と熱痛閾値が上昇し、運動していない肢の人差し指で圧痛評価が低下することが観察された。2)高強度等尺性運動は、低強度等尺性運動よりも上腕二頭筋と手背の痛み感度を低下させた。3)高強度等尺性運動と低強度等尺性運動の両方は、運動肢の熱刺激によって誘発されるN2振幅とN2-P2ピーク間振幅、および事象関連電位の大きさを減少させることを示唆した。

画像2

✅ 図2:時間領域における熱誘発脳反応に対する等尺性運動の効果。左図:各グループのN2波とP2波のグループレベルの波形と頭皮のトポグラフィー(Cz)を表示した。各グループにおいて、介入前と介入後の運動した手足と運動していない手足の前腕部の熱刺激によって誘発されたHEPを重ね合わせて表示した。頭皮のトポグラフは、N2波とP2波のピーク潜時でプロットした。右図:熱誘発脳反応に対する等尺性運動の効果は、介入前と介入後のセッションの差(介入後-介入前)として評価される。運動肢のほぼすべての熱誘発脳反応(P2振幅を除く)の低下は、2つのMVC群で対照群のそれよりも有意に大きかった。

[結論] 等尺性運動による鎮痛効果は、可動部だけでなく遠位部にも及ぶことがわかった。運動強度は、これらの効果を調節する上で重要な役割を果たす。運動による痛覚減退は、脊髄ゲーティング機構を介した侵害受容情報伝達の調節に関連し、またトップダウン型の下降性疼痛抑制機構に依存している可能性がある

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

運動誘発性痛覚低下(EIH; exercise-induced hypoalgesia)、運動による痛覚減退の効果。最初目にしたとき、『この文献には理学療法士にとって、大変に重要なことが書かれている』と思った。
そして、アブストを読んでみて、『難!!!』と思った。
さらに、アブストの結論最終部「運動による痛覚減退は、脊髄ゲーティング機構を介した侵害受容情報伝達の調節に関連し、またトップダウン型の下降性疼痛抑制機構に依存している可能性がある」に対し、『なぜいきなりゲートコントロールと下降性疼痛抑制機構が出てくる?』と混乱し、逃避したくなった。
みなさんも、そうではなかったか?
そのとき、とある格言が頭をよぎった。

苦悩は活動への拍車である
そして我々は、活動のなかにのみ生命を感ずる

カント

この苦悩こそ、生命。更なる活動への拍車になるはず。
『オソイホドハヤイ』、労苦を喜ぶ精神。やってみよう!!!、そう思えた。
重要な結果と、結論最終部の関係は、考察を読み込んだところ、以下のようにまとめられる(と思う)。

【重要な結果①】運動によりPain↓ + N2-P2振幅減少
- 神経メカニズム①ゲートコントロール理論:運動がボトムアップ型のゲートコントロール機構を解した侵害需要伝達の調整に関連することが先行文献により報告されているから、それを支持する結果と解釈。
【重要な結果②】運動によるPain↓が当該箇所より遠位(手背)にも及んだ
- 神経メカニズム②下降性疼痛抑制系:疼痛抑制が当該箇所より遠位に及んだことは、ゲートコントロール機構からは説明できず、トップダウン型の下降性疼痛抑制系も関与している可能性を示唆している。

Exercise is Medicine、運動は薬である。
そして、運動がなぜ薬なのか、その仕組みまでもが露(あらわ)になりつつある。
痛いから動かない?
おいおい、古いことをおっしゃるな。
痛いから、動くのだ。治すために。そうだろ?
運動誘発性痛覚低下(EIH; exercise-induced hypoalgesia)の概念は、僕たち理学療法士の仕事を、全肯定してくれる。
よって、・・・好きだ!

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス