運動誘発性痛覚低下の威力。3つの下肢筋と各運動強度で証明
📖 文献情報 と 抄録和訳
健康な若年成人における異なる有酸素運動強度での運動誘発性低痛覚の効果
[背景・目的] 運動誘発性痛覚低下(Exercise-induced hypoalgesia, EIH)とは、1回の運動後に生じる痛み感受性の低下のことである。しかし、同一人物で低強度も含めた異なる強度の運動を行った場合のEIH効果を比較した研究はほとんどない。どの運動強度がより効果的にEIHを発揮するかは不明である。本研究の目的は、同一人物における異なる運動強度の疼痛感受性への影響を検討し、比較することである。
[方法] 健康な若年成人ボランティア73名(女性35名、男性38名)を対象に、実験的クロスオーバー研究を行った。各参加者は、30%の心拍予備能(heart rate reserve, HRR)での有酸素運動、50%のHRRでの有酸素運動、70%のHRRでの有酸素運動、および静穏休息からなる30分の4回の実験セッションを完了した。EIHは、大腿四頭筋、上腕二頭筋、僧帽筋の圧痛閾値(pressure pain threshold, PPT)および疼痛時間和(temporal summation of pain, TSP)を用いて評価された。
[結果] 低・中強度運動は,すべてのPPTを増加させ,TSPを減少させた(いずれもP<0.05).高強度運動では,すべてのPPTは増加したが(すべてP<0.05),大腿四頭筋と上腕二頭筋のみ(P<0.05)でTSPは減少し,僧帽筋は減少しなかった(P=0.13).大腿四頭筋の相対的なPPT変化(P < 0.05)を除いて、運動強度間の相対的なPPTとTSPの変化の差は見られなかった(P > 0.05)。
[結論] 中・高強度運動だけでなく,低強度運動でも痛覚減退反応が得られることが示された.
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
運動誘発性痛覚低下(EIH)の威力についての最新の論文。
EIHの最大の強みは、『無方向性』にあると思っている。
とくに運動器の理学療法において、その思考過程はある程度『物理・力学・現象論』である。
その疼痛を出している現象を特定し、その現象を軽減させるための介入を考えていく。
つまり、精緻に鍵穴を特定し、それにピッタリ合う鍵をつくり、扉を開ける。
それが、かっこいいPT。
だが、EIHの世界は、ニュートン力学の世界というよりは、もう少しミクロだ。
それは、物理的な経路ではなく、生化学・神経生理学的な経路から効果を出す。
その結果、介入は無方向性でも成り立つ事になる。
特定のポイント、特定の強度、というよりは、運動をすることで駆動される仕組みだから。
今回抄読した研究は、とくにその点を証明したように思う。
つまり、EIHが運動をすることで全般的に効果を与える「エアコン」的な介入であることを。
これならば、鍵穴の課題が明確でなくても使える。
応用を考えてみよう。
たとえば、膝OA。
精緻にその問題点を特定し、介入することは難易度の高いことだろう。
だが、EIHの考え方を用いれば、『当該関節にとって過負荷にならないように有酸素運動ができる介入』を選択すればいい。エルゴメータとか。
その有酸素運動をすることで、生化学的、神経生理学的経路から改善が期待できるかもしれない。
運動器疾患の疼痛への介入は、『鍵穴-鍵経路』と『EIH経路』の両道を知っておいた方がいいだろう。
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