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筋力トレーニングは疼痛耐性を高める

📖 文献情報 と 抄録和訳

レジスタンストレーニングは雄雌マウスのアンドロゲン受容体の活性化を介して筋肉痛から保護する

📕Lesnak, Joseph B., et al. "Resistance training protects against muscle pain through activation of androgen receptors in male and female mice." Pain 163.10 (2022): 1879-1891. https://doi.org/10.1097/j.pain.0000000000002638
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> not applicable
🔑 Key points
🔹ヒトの場合、筋肉痛を軽減するために運動が勧められることが多い。
🔹レジスタンストレーニングは、ネズミの活動依存性筋肉痛を予防または逆転させることも知られているが、その仕組みはよく分かっていない。
🔹Lesnakらは、活動誘発性筋痛覚過敏のモデルマウスを開発し、この動物が痛みに対する感受性の上昇を示すことを明らかにした。
🔹痛覚過敏誘導プロトコルに先立ち、8週間のレジスタンストレーニングを行うと、マウスの疼痛発現が抑制された。また、活動誘発性疼痛が確立した後にレジスタンストレーニングを行うと、確立した痛覚過敏も抑制された。
🔹レジスタンストレーニング中にアンドロゲン受容体を阻害すると、マウスのレジスタンストレーニングによる鎮痛効果が阻害された。

[背景・目的] 慢性疼痛の治療のために、レジスタンストレーニングを中心とした運動が臨床でよく処方されます。鎮痛のための有酸素運動のメカニズムは頻繁に研究されているが、レジスタンストレーニングのメカニズムについてはほとんど知られていない。我々は、マウスを用いたレジスタンストレーニングモデルを開発し、レジスタンストレーニングが、アンドロゲン受容体の活性化を介して、筋肉痛の発生から保護されると仮定した。

[方法-結果]

■ 筋力トレーニングは筋力を増大させた
活動誘発性筋痛覚過敏は、疲労性筋収縮を伴うpH5.0刺激を2回注射することにより生じた。レジスタンストレーニングは、マウスに重りをつけたはしごを登らせ、週3回実施した。レジスタンストレーニングは急性に血中乳酸を増加させ、長時間のトレーニングは前脚の握力と1反復最大筋力で測定した筋力を増加させ、レジスタンストレーニングモデルとしての運動プログラムの有効性を確認した。

■ 疼痛刺激前の筋トレは疼痛発現を抑制した
疼痛モデル導入前に8週間のレジスタンストレーニングを実施すると、男女ともに筋痛覚過敏の発現が抑制された。

■ 疼痛刺激後の筋トレは男性のみ疼痛を軽減させた/その仕組みの調査
疼痛モデル導入後に開始したレジスタンストレーニングは、雄マウスのみで筋痛覚過敏を回復させた。抵抗トレーニング1回で雄マウスのテストステロンを急性に増加させたが、雌マウスは増加しなかった。アンドロゲン受容体拮抗薬であるフルタミド(200 mgペレット)を8週間のトレーニングプログラムを通して投与すると、男女ともに運動による筋肉痛の予防が阻害された。しかし、レジスタンストレーニング動物にフルタミド(1、3、10 mg/kg)を単回投与しても、既存の運動誘発性筋肉痛に対する保護作用には影響がなかった。

[結論] したがって、レジスタンストレーニングは、急性に乳酸とテストステロンを増加させ、時間経過とともに筋力を増加させる。8週間のレジスタンストレーニングは、筋肉痛の動物モデルにおいて、アンドロゲン受容体の活性化を介して痛覚過敏の発生を防ぐ。

📕Science誌による論文評
Lift away the pain, Mattia Maroso. Science. Vol 378, Issue 6616 pp. 150-151 >>> doi.

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「〇〇が痛いんです・・・。」

という患者を前にしたときに、
筋力が・・・、とか。
姿勢が・・・、とか。
そういう具体的な話を患者は求めているし、セラピストも提供しようとしている。
だが。
現実は、もう一つ深いところに仕組みを持っているかもしれない。
仮に、具体的なコンポーネントの話ではなくて、単純に、通常運行できなくなっているとしたら?
ギーギーと、錆で、音が鳴っているとしたら?
それは、『運動不足』によって。
それなのに、一回の運動の質やそれに必要な材料を求めようとすることは、正鵠を得ているとは言えないのではないだろうか。

どうも僕たちは、鍵穴が明らかになったところにしか介入しない心を鍛えがちだ。
でも、オーソドックスな筋トレや有酸素運動が、目に見える鍵穴-鍵関係では説明のつかない効力を経験したことが、誰しもあるだろう。
それを、そのとき、真剣に考えたか?
仕組みがわからないからと言って、ヘラヘラして黙殺しなかったか。
その仕組みこそ、『運動誘発性痛覚低下(EIH; exercise-induced hypoalgesia)』だ。

この研究では、有酸素運動のみらず、筋トレでもEIHが生じることと、そのミクロな仕組みの一端を明らかにした。
端的に考えれば、筋トレや有酸素運動は、疼痛耐性閾値を『引き上げる(痛みを生じにくくする)』

「基礎疼痛耐性 (Basic pain tolerance, BPT)」、という言葉をつくってみた。
BPTは、生理学的な負荷には疼痛を生じさせないが、過負荷には疼痛を生じる健常な疼痛耐性のことだ。
有酸素運動と、筋力トレーニングの刺激量によってこの疼痛耐性ラインは上下に動く。
たとえば、疼痛耐性がBPTより随分と下回り、日常で加わるような生理学的な負荷よりも下ったら、どうなると思う?
目に見えるところで正常な動作であっても、疼痛が生じるわけだ。
それに対して、目に見える力学で鍵穴-鍵の思考過程を取ろうとすることは、妥当ではない気がする。
ただ一言、「運動不足」なのだ。
具体的な話に入る前に、まず単純に運動不足を解消してみよう。
基礎疼痛耐性(BPT)を獲得できているかを疑おう。
身体は、目で見えるよりもっとミクロな世界で、疼痛耐性を調整している。
深淵な代謝の世界・・・、である。

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