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運動は薬に勝る。変形性膝関節症患者の疼痛緩和効果において

📖 文献情報 と 抄録和訳

変形性膝関節症の痛みに対する運動療法、非ステロイド性抗炎症薬、オピオイドの類似効果:ネットワークメタ解析を含むシステマティックレビュー

Thorlund, Jonas Bloch, et al. "Similar Effects of Exercise Therapy, Nonsteroidal Anti-inflammatory Drugs, and Opioids for Knee Osteoarthritis Pain: A Systematic Review with Network Meta-analysis." Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy 52.4 (2022): 207-216.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 変形性膝関節症の疼痛に対するオピオイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、運動療法の有効性を比較すること。

[方法] デザイン:システマティックレビューとネットワークメタ解析。文献検索:MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの各データベースを、創刊から2021年4月15日まで検索した。引用の追跡にはWeb of Scienceを使用した。研究の選択:基準として変形性膝関節症の痛みに対して、運動療法、NSAIDs、オピオイドを任意の組み合わせで比較した無作為化対照試験。データ統合:変形性膝関節症の痛みに対して、運動療法、NSAIDs、オピオイド、プラセボ/対照薬を比較したネットワークメタ分析。プラセボ/コントロールのアンカーを作成するために、以前のレビューからの追加試験も含まれた。

[結果] 直接比較した13試験(1398例)を対象とし、追加で101試験のデータを補足した。変形性膝関節症の痛みに対するNSAIDsの治療効果は、オピオイドと同程度であった(標準化平均差[SMD]、0.02;95%信頼区間[CI]、-0.14~0.18;GRADE[勧告、評価、開発および評価]の格付け:低確実性)。運動療法はNSAIDsよりも大きな効果を示した(SMD, 0.54; 95% CI, 0.19 to 0.89; GRADE: very low certainty)。運動療法とオピオイドの比較については、研究が不足しているため、推定することができなかった。ネットワークメタ解析では、運動療法が「最良」の介入となり、NSAIDs、オピオイド、プラセボ/対照介入がそれに続いた(GRADE:確信度が低い)。

[結論] 変形性膝関節症の痛みに対する治療法として、運動療法が最も優れており、次いでNSAIDs、オピオイドの順であった。治療法間の差は小さく、臨床的な関連性はないと思われ、順位に対する全体的な信頼度は低かった。この結果は、変形性膝関節症の痛みに対する運動療法、NSAIDs、オピオイドの比較有効性に関する限られたエビデンスを強調するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これは、驚いた。
近年、運動の健康への効果が続々と報告され「Exercise is Medicine (EIM)」という言葉がつくられているほどだ(🌍 参考サイト >>> site.)。
死亡リスク、骨強度、抗がん、若返り、炎症抑制、疼痛軽減、認知機能改善、脳構造の改変など・・・、多くの分野で運動の威力が実証され、「もはや薬レベル」との捉え方。運動は薬(の一種)である。
運動は過剰処方のリスクが低く(以下note参照)、安心して処方できるという点は大きな強みだ。

とはいえ、疼痛緩和は薬剤の主戦場だ、さすがに威力は強いだろう。
そう思っていた。
しかしながらその主戦場において・・・、
運動は、僅差ではあるものの薬剤に勝った、ようだ。
ジャイアントキリング、これは凄い結果。
運動誘発性痛覚低下(EIH; exercise-induced hypoalgesia)の仕組みについては、以下noteを参照されたい。

今回は、戦勝記念に薬と比較した運動の強みについて、改めて考えたい。
結論から述べる。

運動は「内発的」、薬は「外来的」。

✅ 内発的治療と外来的治療の定義
- 内発的治療:自分自身が動くことから始まる治療
- 外来的治療:外から何かが加わることから始まる治療

主目的においては内発的治療も、外来的治療も、同等の効果(短期的)を示すように見える。
たとえば、運動と薬剤の疼痛緩和に対する効果のように。
だが、大きく違う点は、内発的治療は生命力を強め、外来的治療は生命力を弱めることだ。
生命力とは、その1つの生命体に宿る生きる力、内側からほとばしる力、自分自身で害悪に対処する力、回復する力、自力・・・、まとまらないがそんな感じの力。

この点を考える上で、リンゴ栽培を考えると分かりやすい。
以下、「奇跡のリンゴ(📗本 >>> amazon.)」から学んだことである。
・現代のリンゴは、過剰な量の化学肥料漬けになっている
・その結果、信じられないくらい大きく、甘い果実が実る
・他方、害虫に晒されやすく、多量の殺虫剤(農薬)が必要になる
・薬の力で害虫に対処してきた現代のリンゴには、自力で害虫に打ち勝つ生命力がない
・その結果、ますます多くの農薬が必要になってきている
・木村秋則さんは化学肥料・農薬を使わずにリンゴを実らせるというリンゴ栽培の奇跡を起こした✨

どうだろうか。
人間と薬の関係に、似ていると思わなかったろうか。
たとえば、疼痛に対して薬剤でなんとかしてしまうことは、自分でなんとかする力(生命力)を奪っていることかもしれない。
そして、運動でなんとかすることは、いよいよ、生命力を強めるのだ。
薬剤は使うほど生命力を弱め、運動はするほどに生命力を強める。
疼痛を惹起するような害悪に対する抵抗力、長期的にどちらが望ましいか、研究報告を待たずしてわかることだ

天然物だけがもつ、生命力。
僕たち理学療法士は、それを強める、その専門職だ。
肥料や殺虫剤の手助けなしには生きられない現代のリンゴよろしく、外から添加すればするほど生命力を弱める仕事であってはいけないと強く思う。

全ての介入報告において、「生命力パラメータ」を算出することを提唱したい。
生命力パラメータとは、その治療のもつ「内発的/外来的の割合」のことである。
医療において、運動と薬剤は、この両極をなす2つだ。
運動は100%内発的、薬剤は100%外来的。
掘り下げれば、それぞれの適応がある。
もちろん、薬剤が必要な場面も多いだろう。
が、全般的には、負けるわけにはいかないと思っている。

危険から守り給えと祈るのではなく、
危険と勇敢に立ち向かえますように。
痛みが鎮まることを乞うのではなく、
痛みに打ち克つ心を乞えますように。
人生という戦場で味方をさがすのではなく、
自分自身の力を見いだせますように。
不安と恐れの下で救済を切望するのではなく、
自由を勝ち取るために耐える心を願えますように。
成功のなかにのみあなたの恵みを感じるような
卑怯者ではなく、失意のときにこそ、
あなたの御手に握られていることに気づけますように。

(ラビンドラナート・タゴール『果物採集』より 石川拓治訳)

● 類似の関連研究(New)

📕Weng, Qianlin, et al. "Comparative efficacy of exercise therapy and oral non-steroidal anti-inflammatory drugs and paracetamol for knee or hip osteoarthritis: a network meta-analysis of randomised controlled trials." British Journal of Sports Medicine (2023). >>> doi.

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