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日本ヤンキー (1分小説)

2030年、ついに、「日本ヤンキー」が国の天然記念物に指定された。

世界中で注目されていたとあり、今夜のニュースは、どこもトップ扱い。

現在観測されている天然の日本ヤンキーは、全国で25名。

主に、西日本を中心に生息しているが、夜行性で、日中は人目に触れないだけに、一般人が捕獲することは非常に難しいらしい。

「昔は、コンビニ前に大勢いたんだけどね。だんだんと少なくなって、今じゃ、捕獲すれば、賞金付きの存在になってしまった」

テレビを見ていたバアちゃんは、70年代のヤンキーの映像を見て、目を細めた。

“長ラン”と呼ばれる不自然なまでに丈の長い制服、その全面に縫い付けられてある『夜露死苦』『薔薇連合4代目レディース』などという、理解不能なメッセージ。

ガッチガチのリーゼントに、昆虫を意識したのだろうか、茶色い楕円型のサングラス。

テレビに映る映像のどれもが、ボクにとってはカルチャーショックだった。

日本に、こんなダサすぎる時代があったなんて。

まだ、戦時中のつつましい暮らしを見せられた方が、事実として捉えられる。

「バイクがうるさい、秩序が乱れるだのって、世間が騒ぐから、みーんないなくっちゃったんだよ」

バアちゃんの時代には、ヤンキーが校内中にウジャウジャいたらしい。

ウンコ座りで、タバコ吸い、タン吐き放題。グランドでは、毎日、改造車のチキンレース。現代では考えられない、エキサイティングな青春。

「昔はワルはワル、マジメはマジメ。線引きがキッチリと分かれてて、お互い生息しやすかったもんさ。逆に、今は違いがないから怖いよ」

ヤンキーが絶滅寸前になった最大の原因は、ヤンキーに憧れる若者がいなくなったからだと、テレビの評論家は力説。

彼らに憧れるほど、世の中に反骨精神を持っている若者が、いなくなったのだ。

平和になったもんだ。

確かに、トサカを立てたり、裾広がりの制服を着てまでして世間に楯つくなんて、現代を生きるボクらにはあり得ない。

ボクの周りは、友達も彼女も、他の人たちも、外見は似たり寄ったり。

外からの見分けがつかない分、中身の見当もつかない。怖いと言えば、怖い世の中。

誰がいつキレるかなんて、仲間うちでも分からないから、ボクは、あからさまに自分を出さないようにしている。

周りもそんな感じ。それがもう、自然なのだ。


テレビを見入っていると、「おや、時間だね」

バアちゃんは時計にチラリと目をやり、二階へ消えていった。

家が広いので、突然一人にされると無性に寂しい。

キョロキョロしていると、10分ちょいでまた戻ってきた。

そして、戻ってきたバアちゃんの姿に、ボクはがく然とした。

今まさに見ていた、70年代ヤンキーそのものの姿に、変身していたのである。

「お前が、急に『泊まりに来る』なんて言うから。まあ、いつかはバレるか」

学ランには、紫の龍が4匹も踊っている。

「ヤンキーだったの?」
恐る恐る聞いてみた。

「現役だよ。これから集会に行ってくるワ」


まさか、25人の中の1人がこんな近くにいるなんて。

集会には、バアちゃんの他に、あと2人が参加するらしい。単なる老人会じゃないのか?

しかし、考えようによってはオイシイ話だな。捕獲すれば、懸賞金は1人につき500万か。

バアちゃんと仲間たちを警察に売れば、いい値にはなる。

バアちゃんは、そんなボクの心を見透かすように、竹刀でペシッと頭をはたいた。

「怖い世の中になったね。まったく」

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