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オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その15


15.   何もない部屋



仕事が終わり、
自分の部屋に戻った。


まだ何もない畳の四畳半の部屋。
来た時に持ってきたカバンとギターと
大阪から宅急便で送った布団が敷いてあるだけ。
壁にはお店からもらったレインコートを掛けてある。


テレビがない静寂は好きだが
何故か寂しさを感じてしまう。


その寂しさを紛らわせるために
読んでいた漫画はもう擦り切れてしまった。


たぶん
アパートの壁が薄すぎて隣のクソッタレ部屋から
テレビの音が聞こえてくるからかも知れない。


テレビの音だけではない。
ポテトチップスの袋を開ける音やら
ジュースの缶を開ける音まで聞こえてくる。
もちろん坂井の独り言も。


電話の音が鳴った。
テレビの音にしてはリアルすぎた。

「あ、もしもしぃ」

坂井の声で「もしもし」と聞こえてくる!
あいつ部屋に電話を引いたのか?
このボロアパートに電話が引けるのか?


部屋を見渡した。
あった。
壁の柱の所に電話の線を挿すところがある。


用意がいいな。坂井は。
きっと親がしてくれたのだろう。


「@$%&」
生粋の青森弁だ。
何を言っているのか、さっぱりわからない。

「@$%&青森@$%&東京@$%&」


固有名詞のところだけしか聞き取れない。
これは大変だ。
今まで使っていた言葉と全く違う言葉を
話さなければならないだけで、ものすごくストレスのはずだ。
しかも仕事は新聞配達と学校。
倒れても仕方ない。
しかし新聞配達の仕事は話す必要が全くなかった。


「うんうん。@$%&」


英語くらい何を言っているのかわからない日本語が
隣の部屋から薄い壁を突き抜けて聞こえてきた。



それを聞きながらビールを飲む私。
全然寂しくないではないか。


しかし
音声しか聞こえてこないテレビが
余計に見たくなってしまう。
隠されれば隠されるほど見たくなるものだ。


テレビを買おうか。
お給料で買うのももったいない気がする。
実家にあるからだ。
私専用のテレビデオが。
ビデオデッキと合体した素晴らしいテレビが!

よしっ!
実家に連絡して私の部屋にあるテレビデオを
送ってきてもらうことにしよう。
送料だけで済むではないか。


テレビの台も。ついでにギターのアンプも。
ポットもコタツもカーテンも。
実家の私の部屋の物を丸ごと
送ってきてもらおう!


新しく買うより安く済むだろう。
よし、それでいこう。
早速、実家に電話だ。

こんな時のために
ずっと使わずに取っておいた
お土産にもらったテレホンカードが
2枚ある。


500円分が2枚。
何分話せるだろうか。


私は外に出て
公衆電話を探した。


結構歩いた。
銭湯まで歩いたけどなかったので
コンビニまで行こうとしたら
途中の道の角にあった電話ボックス。


中に入って緑色の電話機にカードを入れた。
50と表示された。
実家の電話番号はまだ指が覚えている。


掛かった。母の声だ。
「もしもし。」


「もしもし、あ、俺。あのさー。」


「おー、直樹か。元気なんか?
ご飯食べてるか?大丈夫か?」


「うん元気やで。
ご飯も新聞屋さんの人が作ってくれるから
腹いっぱいや。」


「そうか。良かった。
またお店になんか送らんとあかんな。
ハムでええかな?」


ガチャン・ガチャンと音を立てて
見る見るテレホンカードの残高が減っていく。


こんなに早く減っていくとは思わなかった。
用件を先に言わないとあっという間に
残高が0になってしまう。
もう45になっている。
あぁ44。


「あ、あのさっ。俺の部屋の物で色々と
送ってきて欲しいものがあるねん。」

早口になる私。

「あー。そのことやけどな。」

母の長くなりそうな話の出だしっぷり。


「あんたの部屋、今度、フミ(妹)が使うから
ちょうど良かったわ。全部丸ごと送ろうか?」


「いや、全部は厳しい。入らへんわ、きっと。
あ、あのさ、めっちゃ電話代が凄いから
今から言うのだけ送って欲しいねん。メモしてくれる?」


「お、おっと、わかったわかった!ちょっと待ってや!
紙とペン、紙とペン・・・」


とうとう実家の私の部屋は妹が使い
私はもうどこにも帰る場所がなくなるのだな。


それが自立というものか。


退路を絶てば成長するとかなんとか
聞いたことがある。
母がそこまでの計画で私の自立のために
退路を絶っているとは思えないが。


「ええよ。何から行こう?」


寿司屋の注文みたいだ。


「えーっと、テレビとテレビ台。コタツ。
ギターのアンプってわかるかな。スピーカーみたいなのがあるやろ?」


「なんや、デッカいのばっかりやな。送れるんかな?
まあええわ。なんとかする!それから?」


「いや、それくらいで。」


「いやいや、本とかCDとか雑誌とか
邪魔なもんがいっぱいあるねんけど、
捨ててええか?あかんのか?送ろうか?」


「いや、それはちょっとこっちも狭いから無理やわ。
押入れにでも入れといて。」


「あと、あれや!あんた、あの太鼓はどうすんの?
一回も叩いてるの聞いたことないけど・・・」


ミニドラムセットの事か。
安かったので勢いで買ってしまったが、
確かに一回も叩いていない。


「す、す、捨てといてー!
んじゃ、よろしく!!」


「わかった!風邪とか引かんように!気をつけーや!」


テレホンカードの残高が20を切ったところで
電話を切った。


残高が無くなっていくスピードに
会話のスピードも早くなり、
なんか盛り上がったような気分。
なぜか大きな声を出していたような気がする。
汗をかいてしまった。


一回の電話に300円か。高いな。
ビールのロング缶が飲めるな。


まあでも、ミニドラムセットを買わなければ
たらふく飲めたな。


テレホンカードを使い切ったら
今度は手紙にしよう。


〜つづく〜

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

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