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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その61


61.   明日もまた明日になって、そのまた明日もまた明日!



10月5日。
新聞にもテレビにもそう書いてある。
間違いなく今日の日付だ。
そして、お給料日だ。



しっかりと9万円のお給料から3万円を抜き取って
押入れの中の靴箱に入れた。



第1回目の成功。



この全6回に渡るカナダに行く為の貯金作戦の
今日が第1回目だ。



あとは、
11月5日
12月5日
1月5日
2月5日
3月5日と全6回。


3万円ずつ貯めて合計で18万円。
18万円もあれば、カナダに行く飛行機代と
向こうで最初のお給料がもらえるまでの
1ヶ月分の生活費には足りるだろう。余裕だ。



4月5日にも少し3月に働いた分がもらえるだろうけど、
一旦大阪の実家に戻る費用で消えるだろう。
計算済みだ。



3万円が収まった靴箱を見た。
誇らしいかぎり。
靴箱の上に紙を貼った。
こう書いてある。

【🇨🇦カナダに行く為の3ステップス🌈】
①手続きを進める
②お金を貯める
③みんなに言う


手続きも順調だ。
デキる男はプロジェクトを同時進行させるものだ。




まずは【パスポート】。
パスポートを取るのに必要な書類も実家の母親に頼んでおいた。
【戸籍謄本】と【住民票】だ。
大阪のままにしているので母親に送ってもらうことにした。




あと必要なのは【運転免許証のコピー】だ。
これは少し手こずりそうだ。



免許証の有効期限が近いのだ。
もしカナダに一年間行ったとしたら、その間に切れてしまう。
まあ、大阪に戻ってから門真にある運転免許試験場に聞きに行こう。
ついでに【国際運転免許証】なるものも欲しい。
簡単だろう。



そして
何と言っても【証明写真】だ。
昨日撮りに行った。機械のやつだ。
5年間も使えるパスポートの顔写真を
メデューサと共に写ることが出来たなんて光栄だ。
これでもう世界中どこに行っても
ミュージシャンだと思われるだろう。



後は、
銀行の【残高証明書】を頂くのと、
【学校への連絡】だな。



今日、友人の常磐木ときわぎ氏から30万円振り込まれる予定だ。
私のなけなしのお給料からも3万円参戦して、計33万円。
この金額が銀行口座にあることを確認したら、
すぐに銀行の窓口まで行って残高証明書を頂く!



頂いたら、すぐに引き出すと怪しまれるから1週間ほど寝かす!
そして熟睡した所で、
来週の月曜日に常磐木氏の銀行口座に30万円返せば良い寸法だ!
31万円にして返す必要は無い。
カンペキだ。


もう待ち切れない。
早速、出掛けるとしよう。


通帳と印鑑は左のポケットだ。
右のポケットは、
いつものメモ帳とミニボールペンの住処だ。


銀行に着いた。
ATMの機械で残高確認だ!


カードを入れてボタンを押した。



あれっ?60万円も入っている。
なんで?



はは〜ん!わかったぞ!
大学の学費が60万円で、
自分の分と私の分とで30万円ずつに分けて
同時進行させるつもりだったのだろう、きっと。
しかし思ったよりも早く自分(常磐木氏)の
残高証明書が取れたものだから
まとめて60万円送ってきてくれたんだな。
きっとそうに違いない。



30より60のほうが信用度はグッと上がるだろう。
さすがは常磐木氏。
ここはありがたく60万円を寝かすとしよう!


しかし、
振り込まれた金額しか口座にないのも怪しいかもしれないから、
私自身のお金も口座に入れよう。
靴箱の3万円を持って来ている。
これでバッチリだぜ!



なぜか63万円になった銀行口座の持ち主は、
今度は銀行の窓口のほうに向かった。



下を向いて何かを書いていた、
窓口に座っている女性が顔を上げた。




ふわぁ〜、
なんて綺麗な人なんだ。



長い肩までの髪がツヤツヤのサラサラだ。
そして白すぎる肌に黒い縁の眼鏡を掛けている。
忙しそうにしていたが、性格はおっとりしてそうな感じ。
どこか田舎から上京してきたんだろうか。



田舎はどこなんだろうか。
東京に来て何年目なんだろうか。
休みの日は何をして過ごしているんだろうか。
ゲームとかするんだろうか。
主人公にはどんな名前を付けるのだろうか。
自分の名前か。飼っている犬の名前か。


「番号札はお取りになりましたか?」



なんと!番号札がいるのか!


「あ、すいません!どこにそれが?」


「あ、そこの機械なんですけど、、、」


機械を見た。
【あと0人】とデジタル表示されている。



誰も待っていない。



彼女は律儀に機械の番号札を取り、
それをそのまま手に持ったままで
自分の席に戻って、何かのボタンを押した。
キンコーン♪と音が鳴って彼女の窓口の上に表示されている
番号が新しくなった。



そして私を見て「どうぞ!」と言って、
窓口の前の椅子に手で誘導した。
カンペキな仕事だ。
綺麗な人は綺麗な仕事をするんだな。




私は一瞬、何をしに来たのか忘れてしまった。



「本日はどのようなご用件でしょうか?」


白すぎる彼女は声も綺麗だ。


「あ、えーっと、証明を・・・」


「しょうめい?」


「はい。えーっと、貯金残高の証明をする証明書が必要で・・・」


「あ、なるほど。留学ですか?」


「あ、いやー。留学というほどのことでもなくて、
ワーキングホリデーとかいうビザを取るのに必要でして・・・」


「あ、ワーホリですね!私の友人も行ってましたよ!
オーストラリアに。」


「ほえー!僕はカナダに行く予定なんです!」


「そうですかー。羨ましいです。」


「羨ましい?」


「はい。仕事が忙しいですし、それに私には、
そんな勇気が・・・」


「なるほどー。」


「では、いつ付けで証明書を発行なされますか?」


「いつ付け?」


「はい。えーっと昨日以前の日付から10年前までさかのぼれますけど。」


「昨日?いや、今日の・・・今現在の残高でお願いしたいんですけど。」


「えーっとですね。
【今日】というのはまだ終わっていませんので、
本日の日付での証明を取るには、明日以降でないと発行できないんです。」


「な、なるほどー」


ちょうど良い!と私は心の中で思った。


明日またこの人に会えるからだ。
このビューティーに。


「じゃあ、また明日来ます。」


「あ、そうですか。
ではこれが記入していただきたい用紙になりますので、
持ち帰っていただいて、また明日お越しくださいませ。」


「はい、そうします!ありがとうございます!」


「はい!こちらこそ!あ、私【河野】と申します。」


確かに胸の名札にも【河野】と書いてある。


「では、また明日来ます。」


また明日も何かの手違いでまた明日になって、
その次の日もまた問題が発生してまた明日になって、
そのまた明日もまた明日になって、もうずっとまた明日になったら
ずっと会えるのになーと思ったカナダよりも魅力的な人。
カナダがかすんで見えなくなりそうだ。



よしっ、今日は早く寝よう。
そうすれば明日が早くやって来る!



〜つづく〜

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