僕はひとり、何かを探している。
しゃがみながら何かを待っている。
この、イヤホンに挟まれた、硬い殻に閉じ込められた世界で。
この、音であふれた、メロディのない世界で、ずっと何かを求めていた。
僕の心が落ちてしまいそうで、この手は開けなかった。
失くしてはいけなかった。
これは僕の唯一の拠り所。

君が目の前に現れたとき、僕の視線は行き場を失い、僕は空を見上げた。
あの日の、梅雨明けのさわやかな青空は、
心なしか、
空へ還る水がまとわりつく地上に反して、からっとしていた。
君の声は、固く守られているはずの僕の世界に、振動となって侵入した。
その小さなさざ波は、世界にあふれた荒波に指揮をするかのように
まっすぐ帰れるように、通り道に色を付けながらこちらへ向かってきて
僕を震わせ、地表で反射した。
立ち上がり空へ続く柱の先を眺めていたら、どこかでひび割れる音がした。
そして、このまっすぐ空へ伸びた柱は光の柱となった。
僕は、反射的に目を瞑り、両手でバリアを作って高く掲げた。
光はみるみるうちに大きくなり、小さな隙間を広げていった。
パラパラと、最初で最後の雨が降りしきり、何かの終わりを告げた。
僕の耳は、呼吸を始めた。
雨は、地上に光を運び、土となり、還ることはなかった。
いや、もしかしたら、、、。

君の歌声は、いくつもの世界を飲み込んできたのだろう。
僕の横にいた白い鳥は、大きな羽を広げ、はばたき、
この広い世界から飛び出した。
この手の中で君の真似をするこれを僕は手放せない。
君はもうここにいないのに。
イヤホンを着けて君のメロディの中へと飛び込む。
溺れながらも包まれるようで、永遠に広がっていた母のお腹を思い出す。
君色に染められた僕の世界。ここは、君の世界なのか。
この広く輝き、メロディにあふれたこの世界で、
僕は一人、君の歌を追いかけるように口ずさみ、歩く。

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