記事一覧
ビユジサシンテ ~きみの無くしたもの ~
作:ハリー
島で生まれたのにボクだけが泳げないから、波止場で遊ぶのはいつも嫌いだった。みんなが海に飛び込んでいるのに、ボクだけ飛び込めない。
「ふーん、だったら違う遊びをしようぜ!」
そうボクに声をかけてくれたのがケンちゃんだった。クラスの違ったケンちゃんとそのとき話したのが初めてだったけど、それからボクたちは一緒に遊ぶことが増えた。ケンちゃんは泳げるのに飛び込まず、ボクと一緒に絵を描いたり、
ビユジサシンテ ~侵食~
作:ハリー
船に揺られるのは、旅に出てから初めてかもしれない。誰も私を知らないところに行きたくて見ず知らずの漁師さんに頼み込み乗せてもらった漁船の乗り心地は、決して良いものではなかった。観光客さえ寄りつかない小さな島【茶癒早島(チャユサトウ)】へ。
「ここからはこのボートで向かうから、これに乗りなされ」
島はすでに目の前なのに、漁師さんはなぜか港に向かわず沖でアンカーを下ろし、小型のボートで島
朱殷の狭間 ~鳴澤朱音~
作:ハリー
1 目の前が眩しいほど明るくなり、世界が暗転した。私はなにをしていたんだっけ……私という身体はあるのに感触がない。手を動かしているはずなのに動いていない。心と身体が別々になったような不思議な感覚だったけれど、徐々に手も、足も、腕も思い通りに動かせるようになっていった。身体が動くことに少しだけ安堵した後周囲を見渡す余裕ができた。物体が何もなく、私の周り、空間、すべてが赤色に染まっていた
朱殷の狭間 ~仙寿朱莉~
作:ハリー
1 私は今、真っ赤な空間に閉じ込められている。可笑しくて夢かと疑う風景にも見飽きた。首謀者であろう、目の前で浮かんでいるチワワの見た目をした物体に食ってかかる。
「御託はいいから、さっさとここから出しなさいよ!」
見た目はどう見てもぬいぐるみのチワワ。ご丁寧にピンクの洋服まで着ているその物体は私を見下ろしたままため息をついた。
「はぁ、聞き分けの悪いご婦人ですわね。さっきから何度も説
朱殷の狭間 ~鶏冠新五 ~
作:ハリー
鶏冠新五
この街で最も空に近い場所に来てからどれくらいの時が経ったのだろうか。携帯も手帳も捨てた僕は身軽だ。必要ないものはすべて捨ててきた。しがらみから解放され少しだけ心が楽になったが、そんなのは一時しのぎに過ぎなかった。僕は最期まで持ってきた愛犬の写真を見つめる。この街は夜でもまぶしい。闇夜に浮かぶ月明りに照らされた愛犬がいる場所に僕も行くんだ。夜風が僕を後押ししてくれる。少し
⾳⾊で紡ぐウクレレ物語 1
作:ハリー
【1】昔々、二つのウクレレがありました。一つは、大地のウクレレ。赤く光る力強い音色のウクレレ。大地を操る不思議な力がありました。もう一つは、海のウクレレ。青く輝く優しい音色のウクレレ。海を操る不思議な力がありました。二つのウクレレは、この星に住む全ての生き物が平和に暮らせるように願いを込めて作られたといわれています。けれど、大きなパワーを持つものは使い方を間違えると災いをもたらします
SLG 竜胆のセグレート ~ルナリア~
作:ハリー
エピソード1郵便ポストを開け、封筒が入っているときに胸がざわつく感覚は、これで何度目だろうか。今の時代は書面ではなく、メールやSNSで企業とやり取りをする時代の中、私が面談をする会社は決まって古くからのしきたりであるかのような時代遅れの封筒で来ることが多い。誰もいないアパートの一室へカギを開けて入り、電気をつけ、カバンを置き、手洗いうがいをした後、手を拭き、ペーパーナイフで封を開け
SLG 竜胆のセグレート ~カケル~
作:ハリー
エピソード1太陽が姿を消しても変わらない、うだるような夜の蒸し暑さで夏の到来を肌で感じる。こんな季節はベランダで棒アイスを食べながら夜景を見るのが俺の中で最近のマイブームだ。日中はエアコンに支配された部屋で過ごし、夜は多少暑さがマシになったベランダで外を見る。人を見下ろし、一人になれるベランダという空間が好きだ。俺が住んでる街は眠らない。夜中でもずーっと明かりがついている。イベントで
ビユジサシンテ ~ハクフの歯ブラシ ~
作者:ハリー
青い海、白い砂浜。大自然と一緒に暮らす島に小さな港町がありました。この港町に住んでいる人ならみんなが知っている、ちょっと変わった船大工さんが住んでいました。名前をハクフといいます。
若いころハクフは船大工の見習いだったので小さな船から、大きな船まで……これまでにいろいろな船を作るのを手伝ってきました。ハクフは生まれつき力が強く、他の船大工さんが二人で3本持ち運べる丸太を、ハクフは
迷宮は帽子の中に FILE1
作:ハリー
FILE1-1
時は西暦20ⅩⅩ年……太陽の異常接近により全世界規模でとある法律が制定された。
【外出時着帽法】……外出時、太陽光に当たる場所に赴く際は頭部を保護するために帽子を着用しなければならない。
この法律により全世界の人間がマイハットを所持するようになり、大手企業がこぞって様々なデザインの帽子を制作販売。この年、世界中に帽子ブームが到来した――
「あっ、駄菓子屋のおば