ビユジサシンテ ~きみの無くしたもの ~

作:ハリー


 島で生まれたのにボクだけが泳げないから、波止場で遊ぶのはいつも嫌いだった。みんなが海に飛び込んでいるのに、ボクだけ飛び込めない。
「ふーん、だったら違う遊びをしようぜ!」
そうボクに声をかけてくれたのがケンちゃんだった。クラスの違ったケンちゃんとそのとき話したのが初めてだったけど、それからボクたちは一緒に遊ぶことが増えた。ケンちゃんは泳げるのに飛び込まず、ボクと一緒に絵を描いたり、砂浜できれいなガラス玉を集めたりしていた。波止場に行っても、ケンちゃんと一緒なら泳がなくても楽しかった。

 「トモ、これ見ろよ!金ぴかだろー?」
二人で一緒に波止場に並んで座っていると、ケンちゃんが見せてきたのは金ぴかに光るラッパだった。チャルメラと言って、ケンちゃんのおじいちゃんが大切にしている物らしい。パラリーっと軽快な音を鳴らしている。
「勝手に持ってきて大丈夫なの?」
「バレなきゃ平気だよ!トモも吹いてみろよ」
最近、学校でリコーダーを習い始めていたので同じ感じで吹くのかと思っていたが、なかなか難しい。
「トモは下手くそだなー。オレがもっかい見本をみせてやるよ」
下手くそ、と言われてムっとしたボクは意地になってチャルメラを返そうとしなかった。
「これから上手になるんだもん、もうちょっとだけ吹かせてよ」
「いいからオレにかしてみろって……あっ」
チャルメラを二人でもみくちゃになりながら引っ張りあっているとボクの手からつるりと滑り落ちてしまい、ポチャン……といってチャルメラが海に落ちた。ボクの身体が血の気がさーっと引いていくのがわかった。
「と、とりにいかないと」
「トモは泳げないじゃん。それに、今日は波が高いから泳げない日だって先生が言っていただろ。……諦めるしかないよ」
トボトボと歩いて帰るボクたちはお互い無言で、じゃあまた明日、とトモに言われて別れるまで、ボクは何も言葉が出てこなかった。そうだ、真っ先に謝らないといけなかったんだと気付いたのは、夜の布団の中だった。

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